第7話VS乳酸菌飲料の営業 4−4

 ってことで。




「ここに判子押させりゃいいのね? あと支払い方法を確認して契約と……」

「そうです。本当に物分かりがいいですね。ただのアリコンじゃないのは認めます」


 諦めて俺が外に出ることになった。ついでにコイツも生意気な口調に戻ってるし、現金な香具師やしめ……


「んで、今日中に1件の半年契約を獲得すればいいんだな?」

「はい、その通りです。私はここでゲームをしながら待ってますので、レベルを上げてほしいキャラとかありますか?」


 マジで明らかにおかしいだろこのやりとり。ツッコミどころ満載だけど、俺はもうツッコむ気にもならなかった。


「レベルとかは大丈夫だ。そのデーターにあるキャラで討伐クエストをマラソンしてレアアイテムを回収してくれ」

「了解しました。あ、そこのおやつとか食べても大丈夫でしょうか?」


「いいぞ。けど全部食うなよ、俺の分も残しておけよ」

「ありがとうございます、では車には気をつけてください」


 そう告げられた後、俺は玄関を開けて外に出る。すぐさま恐ろしいほど冷たい北風が俺を襲いかけてきた。


「さっぶ!!」


 寒さ対策で何枚も着込んだはずなのにこの寒さだ。この調子だ10分ももたないだろう……



 にしても、どーすんだ。流れに任されて俺が契約を取ることになったけど、改めて考えても無茶すぎる。よその家にピンポンして商品説明するんだろ? このご時世に話を聞いてくれる人なんているんかいな……


 そんな疑問をよそに北風は容赦なく俺にダメージを与えてくるので、逃げるように塀へ身を潜める。


 きっついぞ、これ…… 取れなかったら俺は夜も営業させられるのだろうか…… ってかなんで俺がこんな事やってるんだよ、アイツは暖かい部屋でゲームしていて何かの間違えだろ。


 ダメだダメだ、怒っても契約が取れるわけじゃない。落ち着け落ち着け、1件だけでいいんだ。冷静になれ……



 寒い中、何か方法はないかと思いを巡らせる。



 あ、そうだ。あの人の家に行けばよくないか?



 凄い妙案が一瞬のうちに思いつき無意識のうちににやけてしまった自分がいた。けど、それも理解できる程、自分は天才ではないかと錯覚してしまう程の素晴らしい案が出来上がってしまった。


 これは、いけるかも……


 思いついた時には既に俺の足は動いていた。さっさと終わらせて帰ろう、帰ってゲームしよう。









 確か、この時既に、俺の頭の中ではゲームで一杯だった。それほど俺の頭に浮かんだ案が絶対的すぎて、契約獲得に関して何も懸念がなかったからである。



 なお、俺が契約獲得した後に、認知が危うい高齢者に無理な契約をしたということでクーリングオフ沙汰になったのはまた別の話である。




アメリカンソウル:売木が米国産シリアル食品を食べたときに感じた一つの感情。極めて定義が曖昧であるが、アメリカの荒野、鉱山と言っていることから今回では恐らく西部開拓時代における「フロンティア精神」のに近似するものを表現しているのかと思われる。

 当然日本人である売木はアメリカンソウルという物を抱いてはいないが、稀に見る「映画的な風景」が彼の脳裏によぎったのであろう。何れにしても彼の言動に対していちいち深入りしない方が良さそうだ。

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