第3話VS保険レディ 3−3
「保険にも幾つか種類があって、生命保険の他にもがん保険や医療とかもあって──」
パンフレットを広げて得意気に話すレディ。地獄の時間だ。
「へぇ、保険にも色々あるんだな……」
適当に返事を返す。だけど向こうはその一言ですらも「そうなの!」と大きくリアクションを返し、更に説明を進める。
「ほーん……」
「でしょ!? マムシ生命はアフターフォローもばっちり、今なら契約したら私の担当は売木君しかいないから、毎日通い詰めちゃうよ!」
担当が俺しかいないのも悲しい話だ…… ていうか、毎日来られても困る。 契約数に困る度に俺のところまで来て泣きつかれそうだ。
「んな毎日きても話すことなんかねえぞ」
「そんなことないよ! お菓子とか、漫画とかあるし! ゲームもあるじゃん、一緒に『フライブルー』やろーよ、私結構強いよ」
なんで俺の部屋で遊ぶことになってるんだよ!! 完全に俺の部屋で入り浸る気満々じゃねえか。
わんわん泣いていた先程とは打って変わってケロッとしてるし、忙しい奴だな。
「でねー やっぱり売木君は若いから保険料が安いのがすっごい強みなの! それに今まで病気したこと無いでしょ? 今は保険に興味なくて私のこと『ウザいな』って思ってるかもしれないけど、これがいざ病気になってしまった後、保険の重要さを気づいたんじゃもう遅いの! 既往歴があると、保険料は高くなるし、それに入れる保険も限られるちゃうんだ!」
まぁ、満足そうに話しているし、とりあえず話している中で心は落ち着いてきたらコイツも帰るんじゃないか? 考えが甘いかな……?
「ふーん…… まぁ、なんとなしに俺に対して売りつける理由は分かったけどさぁ……」
正直言ってしまえば、俺が保険入るどうこうは両親に聞いたって、「んなこと知るか! てめーで決めろ!」ってなるだけだから、アテにならないのが現実だ。
「でね、でね、私のお勧めはこの、『超充実! アルティメットメディカル
どうしたものか、俺の手にも追えなくなってきた。このまま断ってもいたちごっこだぞ……
「売木君はあんまり運動とかしなさそうだから、この特約と特約はいらないかな〜」
となるとだ、これは後々売木家の問題とも発展してくるわけだ。このまま家に居座られても困るし……
「でね、試算すると毎月これくらい! あ、一括でも払えるよ!」
目の前で話すレディを追い返すには…… 腑に落ちないが、契約を結ぶしかないのか? 彼女の言う通り…… 入って損するようなものは無さそうだ…… 適当な激安の契約を一つ結ぶのも時間的なロスが減らせて良いのかもしれない。
だが、俺としてもどうにも納得しないところもある。 なんで俺一人がこんな辛い目に遭わねばならないのか……
「お、おう…… あ、一つ断っていいか?」
商品説明を続けるレディを割り込む。
「どうしたの? 売木君?」
「お前、俺がなんとかするって言ってたよな。結果なんとかなればいいんだよな?」
「え、そうだけど……」
今までに無い展開だったのか、レディも俺の目をじっと見つめてくる。
そうだ、結果なんとかなればいいんだ。被害が俺じゃなくたっていい。
「今日の夕方、俺の両親が家に戻ってくるはず…… 夜の時間なら空いてるはずだ」
まあ、普段親からは痛い目を見ることも多いしたまには良いか。ぶつけてやろう、コイツを……
うひひ、そう考えると楽しくなってきたぞ。普段風呂掃除やら草むしりやらで俺をコキ使いやがって、俺も鬱憤が溜まってきた頃だったんだ。
親共も一回痛い目を見たら俺を見る目が変わるだろう!
「えっ、本当に!?」
俺の言葉を聞いたレディは目がキラキラと輝き始める。
「契約できるかお前次第だけど、」
「うん! 分かってるよ、売木君、私は信じてる! ありがとう!」
「そのパンフレットだけは預かるから、時間をずらしてまたきて──」
俺が手を出しパンフレットを預かろうとすると「えっ」と何か言いたげな顔をされてしまう。
「あの…… 帰ってくるまでここにいていいかな…… 外暑いし、ここには水とか美味しいものとかありそうだし…… ねー! いいでしょお!?」
ど、貪欲すぎるだろコイツ…… 手におえねえよ、誰か助けろ……
……あれから俺は親からとある保険を
被保険者:俺
契約者:親
で結んだことを告げられた。その目は不気味な程に優しく、俺は強烈な違和感を覚えた。
一体何を契約させられたんだろうとこそっと内容を確認してみたが、俺はそれを見て背筋が凍ってしまった。
『就業不能保障保険』…… 過労がたたって働けなくなった時に保険金が出る保険である。
マジかよ…… ウチの親共、俺を奴隷のようにこき使う気だ……
ふやけたシリアル:文字通り水分を吸ってしまいふやけてしまったシリアル食品のことを指す。シリアル食品にミルクなどを合わせて食べる方法はかなりメジャーではあるものの、時間が経ちすぎるとふやけてしまい味や食感が下がってしまうというデメリットがある。また、伸びてしまったうどんと同様にふやけてしまったシリアルは日本人の口に合うことは少ない為、迎えた客に対して提供するのは控えた方が良い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます