第14話 ステージ3へと殴り込み!



「おっし、スキルあればボス戦も割と余裕だな!」

「そうだね~、それにしてもハズミちゃんのスキル技は強いね~?」


 2人のキャラは、スキル技の感想を口にしながら次のエリアへと移動を果たす。瑠璃は弾美の覚えたスキル技の威力に、羨ましそうに感想を述べ。

 って言うか、キャラレベルは同じ筈なのに不思議で仕方が無いって感じ。自分の《二段突き》とは、出せるダメージが倍くらい違うような気が。

 その事実に驚いているのが、正直な所だったり。


「取得したポイントを全部武器スキルに振ってるし、補正スキルの攻撃力アップも効いてるからなぁ。瑠璃も武器スキルにポイント振れば、スキル技も強くなるって」


 そんな話をしながら、ようやくステージ2をクリアし終えたハズミンとルリルリ。ステージ3の中立エリアは、相変わらず人影もまばら。

 朝の8時前なので、当然とも言えるけれども。


 中立エリアの造りに関しては、前の層とあまり変わらないように見える。NPCの数も建物の数も、それほど増えたようには見受けられない。問題は、店売りの薬品の値段だろうか。

 情報収集の前に、2人はここで一時休憩の構え。


「菓子パンも買っておけば良かったかなー。まぁいいか、下にも何かある筈だし」

「ゲーム終わったらコーヒー淹れるね。ハズミちゃん、キャラ情報見せて?」


 朝食のサンドイッチを頬張りながら、弾美は瑠璃に促されてコントローラのボタンを操作する。区切りのレベル10に達したキャラに、どことなく弾美も満足そう。

 何より、瞬発力のある削りスキル《二段斬り》を覚えられたのが大きいかも。



 名前:ハズミン 属性:闇 レベル:10

 取得スキル :片手剣20《攻撃力アップ1》《二段斬り》 

 種族スキル :闇10《敵感知》


 装備  :武器 シミター 攻撃力+10《耐久8/12》

     :首  妖精のネックレス 光スキル+2、風スキル+2、防+2

     :耳1 妖精のピアス 光スキル+1、風スキル+1

     :胴  皮の服 防+6

     :腕輪 炎の腕輪 火スキル+3、知力+1、防+4

     :指輪1 皮の指輪 防+2

     :指輪2 皮の指輪 防+2

     :背  皮のマント 防+2

     :両脚 なめしズボン 攻撃力+1、防+5

     :両足 皮のブーツ 防+3


 ポケット(最大3):小ポーション :小ポーション :中ポーション



 一方のルリルリは、どことなく中途半端な感じが漂って来ている。妖精のネックレスのお陰で、光スキルが8まで増えたのは良いが、10にするのを迷っているせいもある。

 スキルが+される防具を装備しての新スキル技の取得は、一見かなりお手軽な方法ではある。+2とか+3とか、メイン世界でも付与されている装備は幾らでもある訳だから。

 しかしそれ故に、強力で無慈悲な制約もあるのだ。


 例えて言えばスキル+3の指輪を装備した状態で、取得したスキルがあるとする。その後、もっと優秀な性能の指輪を入手して、+3の指輪を取り替えたいと思ったとする。

 しかし、そう簡単には事は運ばないのだ。スキル取得の際に装備していた+3防具は、装備を解除した途端、問答無用で破壊されてしまう。そしてその部位は、しばらくの間他の装備の取り付けが不可能となってしまうのだ。

 それが、通称“装備の固定化”と言われる現象である。


 古い装備が壊れる位ならまだしも、壊れた部位(この場合は指輪)が一定時間、装備不可能状態になってしまうのはとても痛い。それなら誰しも、無理やり付け替えをしたいとは思わない。

 無論、その時点でスキルが-3され、せっかく覚えたスキルも忘れてしまう事態も。


 +1くらいの装備なら、壊れるのを前提で装備しても構わないと誰もが思うのだけど。覚えたスキルや魔法を使えなくなり、装備が出来なくなるのは割と洒落にならない。

 このジレンマを解消するのが『同化』と言われる作業である。簡単に言うと、ある程度長い時間、その+装備を装着し続けていたり、同じスキルを伸ばし続けていると。装備に+されていたスキルが、キャラの方に同化吸収されて行くのだ。

 そうして同化が完了すると、防具を外す際のペナルティも完全に無くなる仕組みだ。


 序盤で装備を限定、“固定化”してしまうと、後々困ると弾美にも脅されており。瑠璃は何となく、水スキルや細剣にポイントを振って誤魔化しているのだった。

 本当は、新しい魔法を覚えたくて仕方がなかったり。



 名前:ルリルリ 属性:水 レベル:10

 取得スキル :細剣12《二段突き》 :水17《ヒール》    

 種族スキル :水10《魔法回復量UP+10%》


 装備  :武器 ブロンズレイピア 攻撃力+8《耐久10/11》

     :首  妖精のネックレス 光スキル+2、風スキル+2、防+2

     :耳1 妖精のピアス 光スキル+1、風スキル+1

     :胴  木綿のローブ MP+5、光スキル+1、防+4

     :腕輪 炎の腕輪 火スキル+3、知力+1、防+4

     :指輪1 水の指輪 水スキル+3、精神力+1、防+1

     :指輪2 水の指輪 水スキル+3、精神力+1、防+1

     :背  皮のマント 防+2

     :両脚 皮のズボン 防+4

     :両足 ゴーレムのブーツ MP+5、防+4


 ポケット(最大3):中ポーション :小ポーション :小ポーション



 新しい武器を装備しても、さほど強くなった印象を受けない瑠璃。前衛を目指すならやっぱり武器スキルを上げるべきかなと、瑠璃は育成のプランを練り直してみる事に。

 魔法関係の取得は、敵が術書を落とす具合を見て決めても良いし。


 そう言えば、さっきのボスゴーレムも土の術書を落とした。2人とも土スキルは0なので、一応ルリルリが持っておく事にしたのだが。他のドロップは中ポーションに、素材が少し。

 今回のドロップは、外れっぽいと瑠璃は思う。


「素材系のアイテム、結構貯まって来てるけど……何に使うんだろうねぇ?」

「ん~、クエストとかあるのかなぁ? 合成に使うっても、スキルもゼロに戻されてるしな」


 笑いながら、そう弾美が返して来る。ファンスカにも合成スキルは存在するのだが、キャラのレベルが1に戻されていた時点で、合成スキルも全てキャンセルされてしまっていた。

 限定イベントの仕様で、メイン世界のキャラには被害はないのだが。案外真面目に色々な合成スキルを伸ばしていた瑠璃が、泣きそうな程ショックを受けたのは言うまでもない。

 そう言う訳で、自分で合成はイベント中は無理な仕様のようだ。


「さっきの土の術書どうする、ハズミちゃん?」

「そっちで使ってもいいし、持っててくれ……よしっ、休憩終わり!」


 先に朝食を終えて、自分のキャラのアイテム整頓をしていた瑠璃。弾美が動き出すのにつられて、アイテムウィンドウを閉じて移動準備を整える。

 お約束通り、2人は中立エリアで行動を開始する。妖精やNPCに話を聞いたり、お店を覗いたりのいつものパターンで、このステージ攻略の準備を進め始める。


「ハズミちゃん、万能薬320ギルだって」

「おっ、ちょっと買い貯めしておこう!」


 他に使えるお店と言えば、後は鍛冶屋位しかなかった模様。2人はここのアイテム屋で買い物を行った後、いよいよ新しいステージの攻略に本腰を入れる事に。

 ここも中立エリアから、3つの扉へと続く階段が見える。どこかで見た造りと言うか、雰囲気からグラフィックからステージ2とほぼ一緒と言う。

 要するに、ここもまず最初に2ヵ所の攻略が必要っぽい。


「んっ……? ひょっとして、エリア構造も前と一緒じゃないか、コレ?」

「あ~、でもモンスターは違うみたいだよ……?」


 弾美と瑠璃の言う通り、ステージ3の最初の部屋のマップは、下の層と全く一緒の構造。最初の十字を左に進むと、4匹ずつ2種類の敵がいたが、敵の種類は微妙に違う。

 使い回しは、ダンジョン構成には良くある事だが。


「耳……かな?」

「ふむっ」


 明らかに体の部位モンスターらしい、耳の左右をくっ付けたような容姿の敵だ。パタパタと飛ぶ敵は、まるで大きな蝶のようにも見える。

 部屋の中を好き勝手に飛び回っており、肌色に朱色の紋様がやけに際立って見える。それはともかく、瑠璃の感想は安直な推論のみ。


「イヤリングが揃いそうだね」

「それ以外は考えられないな」


 瑠璃のその推測の言葉通り、蝶のようなモンスターは耳装備をドロップしてくれた。2人は難無く敵の群れを殲滅後、隣の部屋へと移動する。

 そこで覗き込んだ次の部屋の体の部位モンスターは、何と生首だった。


 長い髪の毛を真ん中で分け、地面に垂れ下がったその髪が足代わりになって周囲を歩き回っている。顔は達磨さんのそれで、ギョロリとした目などは、何と言うか愛嬌が。

 どこかのアニメに、出て来そうなキャラかも知れない。


「生首だ~、顔がリアルだったら怖かったね~」

「……確かにそうだな。ってか、合体したら嫌だな」


 生首モンスターは合体こそしなかったが、攻撃時の顔付きがちょっと怖くなる特性があるらしい。特殊攻撃は、長い髪の毛を伸ばしてのがんじがらめ。

 遠くからでもこちらを察知したら、髪の毛を伸ばして引き寄せを使って来る。そしてドロップは、案の定と言うか頭装備のバンダナだった。

 これで、ほぼ全ての部位の装備が埋まった計算になる。


「おっ、後はベルトだけだな。次の部屋かな?」

「時間余裕だね。今日はもう1エリア回るの?」

「ん~、もう1エリア回るか、レベル12まであげながらNM待つかどっちかだな」


 瑠璃はレベルを上げるほうが良いと提案し、結局は前日の殲滅コースをなぞる事に。残りの部屋を回って部位モンスターと獣人を倒しつつ、掃討が終わったら今度は再ポップ待ち。

 1時間が経過する頃には、経験値は1レベルと半分貯まっており、ドロップもまずまず。


「あれ、獣人NM湧いてない……そっちはどうだ、瑠璃?」

「ん~……。あっ、生首湧いてる……3匹も!」


 入り口に近い部屋に、顔の色違いの生首NMが何と3匹も鎮座していた。それを見つけた瑠璃は、その数の多さに喜んで良いのか驚くべきなのか戸惑うばかり。

 とにかく2人は合流して、どうやって釣るかを検討し始める。


 動き回らないので、リンク必至だという結論には早々と達したのだが。1匹の強さが果たしてどれ位なのかは、想像がちょっとつき難い。

 中ボスのゴーレム程度なら、何とかなりそうかも知れないけど。それより強くてタフだった場合、3匹からタコ殴りに遭う嫌な未来が透けて見えそう。

 とにかく、何とか1匹は速攻で倒そうと言う曖昧な作戦に。

 

 ところが実際は、そう上手く話は運ばなかった。コイツらの特性を、うっかり見落としていたのが原因とも言えるのだけれども。

 2人が近付こうとした途端、モンスターの髪の毛の引き寄せが発動!


 しかもハズミンとルリルリが、別々の生首に引き寄せられてしまい、各個撃破の大ピンチ。ここから立てた作戦とは、全くの別ルートと言うか逆ルートへと暴走してしまう。

 運悪く2匹にたかられた瑠璃は、パニックに陥り攻撃どころではない。


「攻撃しないなら、ぐるぐる逃げ回れ、瑠璃っ! 部屋から出でもいいから!」

「わ~~んっ、早く助けてハズミちゃん!」


 もちろんそのつもりだが、とにかく最初の1匹を倒さない事には助けにも行けない。生首NMは攻撃力こそ低いのだが、特殊攻撃とHPの高さが厭らしい。

 焦っているこの状況には、最悪の相性かも知れない。


 弾美はSPが溜まる度にスキル技を使用しつつ、足を止めての殴り合い。回復はポーション頼みで、とにかく一歩も引かない構えだ。攻撃を受ければ、それだけ早くSPも溜まる。

 莫迦っぽいが、時間短縮には仕方ない戦法でもある。


 ルリルリの地獄のマラソンは、弾美が1匹目を倒した後も、辛うじてまだ続いていた。HPは2度レッドゾーンに飛び込んだが、回復魔法の詠唱に立ち止まる訳にも行かず。

 仕方なく虎の子のポーションでの即席回復で、命を永らえている感じ。


 自分のキャラと敵モンスターの足の速さはほぼ同じなので、一度引き離してしまえば安全に思えるのだが。敵の特殊技の引き寄せに捕まると、アドバンテージか一瞬にして消え、しかも2匹いっぺんに殴られる事に。

 とにかく敵との距離を引き離そうと、反対側の部屋に飛び込んでしまった瑠璃。良い感じに引き返せばよかったのだが、弾美と離れてしまったのもちょっと不味かった。

 ポップ待ちの無人の部屋内を、必死に駆けて行くルリルリ。


 ポケットの残りが万能薬だけになって、いよいよ命の灯火がピンチの頃。ようやくハズミンが、生首を1匹倒し終えて追いついて来た。

 瑠璃も反対の部屋を一周して、丁度戻って来ようとした途中の巡り合いだ。必死ながらに、なかなかのナイスマラソンである。


「1匹取るから、瑠璃はマラソン続けてろ!」

「わ、分った、お願いハズミちゃん!」


 そんな訳で、弾美は苦もなく有言実行。追いかけて来る敵が1匹に減ってしまうと、地獄のマラソンも途端に楽になった気になる不思議。

極楽とまでは行かないが、幽冥界手前くらいだろうか。


 ちょっと距離が開いたのを確認して、瑠璃は回復魔法を自分に使ってみる。NMが湧いた部屋に戻る頃には、ルリルリのHPは完全回復していた。

 瑠璃は完全に平常心を取り戻し、弾美のモニターを確認する余裕も出てきたり。だがしかし……調子に乗って、そんな余裕をかましていたら。

 部屋に再ポップしていた雑魚に足を取られ、1度NMに追い付かれたのは内緒。


「よしっ、2匹目倒したっ! 残りはどこだっ?」

「そっ、そっちに連れて行く~」


 ここまで来たら、勝負は決したも同然だ。残りの1匹を、最後は仲良く2人掛かりで倒し切る事に成功。ポーションの手持ちを減らした甲斐あって、ドロップも割と豊富で。

 お楽しみの報酬は、色違いの頭装備のバンダナが2枚と、それから素材や薬品類が幾つか。そしてお金の代わりに何かと猛威を振るう、金のメダルと言うアイテムが1枚ドロップ。

 メダル関係は、特殊なアイテムと交換可能の擬似通貨である。


「倒せた~、良かったよ~!」

「良かったな、時間も丁度いいかな。そろそろボス行こう、瑠璃」





 ――かくして、装備も整った2人はボス部屋へと向かうのだった。








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