第13話 初のアスレチックエリア!
「あ~、今度はアスレチックエリアかぁ~」
「おっ、本当だな」
連休2日目の朝、昨日とほぼ同じスケジュールを経てモニター前に座る2人。そんな弾美と瑠璃は、昨日と同じく早い時間でのインで限定イベントの攻略をすべく。
弾美の部屋で、同じ感じでコントローラを手にしていた。
今日も取り敢えずの目標は、縛りの2時間で2部屋のまったり攻略。瑠璃の言うアスレチックエリアをクリアすれば、ステージ3へと辿り着く事が出来るのだが。
ダンジョンには付きものとは言え、瑠璃に限っては嫌な思い出しかない。
他のギルドメンバーのチームとは差がついてはいるモノの、まだまだ先は長い。そもそもゴールして一番になる条件が、未だに明確に発表されていないのも不思議である。
ボスの魔女を最終的に倒せば良いとは予測出来るが、それに当たって必要なのはスピード攻略とは限らないのがミソ。レベルの高さとか特定アイテム入手とか、色んな要素が必要になって来るとも考えられる。
ステージ間は後戻り出来ないのだ、慎重に進んで悪い事は何も無い。
ただし、瑠璃の苦手なアスレチックエリアは別とも言える。明確に時間を使わせる事が目的の仕掛けや道のりは、駆け足でさっさとクリアしてしまうに限る。
居座り続けても、嫌な仕掛けでダメージが増えるだけ。
「ヘマするなよ、瑠璃っ! 朝イチから攻略失敗なんかしてたら、今日1日ブルーに過ごす事になるからなっ!」
「う、うん……頑張るよっ!」
確かにそうだ。今日は待望の押し花と折り紙展、更には書道展に行って、バイトも夕方から入ってるのだ。初っ端から
苦手だなどと、弱音は吐いていられない。
とは言っても、一般的にアスレチックエリアは敵の数はともかく、色んな仕掛けがプレイヤーの行く手を邪魔して来る。トリッキーで、意地悪なステージ構成となっているのが常識。
例えば、タイミングを合わせてすり抜けないとダメージを受けてしまう罠や、細い通路を落ちずに進まないと時間を消費してペナルティを受けたりなどの仕掛け等々。
特にファンスカの中でも、アクション要素が強いのが特徴なのだ。
入ってみた感じでは、そんなに幅の広くはない空間が、つづら折り状の坂道となって広がっている感じ。相変わらず根っこがあちこち張っていて、それが障害物にもなっている。
更にはいかにも邪魔っぽい所に、モンスターや罠っぽい装置が配置されている。
ハズミンの種族スキル《敵探知レーダー》は、一見何も見えない場所の敵も見逃す事無く存在を知らせてくれる。こういう意地悪エリアでは、とても便利なスキルに違いないのだが。
後ろに従うパートナーも、果たして守りが得られるかは定かではない。
「俺が先行するから、遅れずに付いて来いよ」
「わかったよ、ハズミちゃん!」
いかにも時間を使わせるように設計されたつづら折り状の階段坂を、2人のキャラは軽快に上って行く。3D表示のエリアに、早くも障害物が行く手を阻むよう設置されている。
ハズミンは
これを壊さないと、キャラの通るルートが確保出来ないのだから仕方がない。
壊した木樽が10個目を数える頃、木樽の中からネズミ型のモンスターが飛び出て来た。不意を突かれたハズミンは攻撃を受けてしまい、慌てた瑠璃はそいつを倒そうと殴り掛かる。
しかし細い通路で、慌てて場所移動したのが不味かったようで。
「うあっ、落とされたっ?」
小さなネズミの体当たりで、何とルリルリは階段の端から真っ逆さま。丁寧に落下ダメージまで受け、上って来た道を半周分ほど強制的に戻される始末。
隣に座る幼馴染みの冷たい眼差しが、とても痛い。取り敢えず瀕死のネズミに止めを差し、ルリルリは何も無かったように再び階段をのぼり出す。
待っていてくれている弾美に追い付こうと、顔には出さないが必死な瑠璃。
「……ハズミちゃん、回復いる?」
「いいから、さっさと追いついてくれ」
他の仕掛けも結構意地悪で、ハズミンの敵感知レーダーは、覚えたてのせいかほとんど役に立たなかった。いないと思っている場所からの攻撃で、何度か階段を落とされたりHPを減らされたりと、色々忙しい。
一度は急に操作が利かなくなったマイキャラに、瑠璃が不思議そうに首を傾げる場面も。
「あれ、障害物あるのかな? 前に進まなくなっちゃった」
「おバカ、蔦型モンスターに絡まれてる。HP減っていってる!」
そのトラップは先頭のハズミンをスルーして、後に続くルリルリをピンポイントで狙ったようだ。瑠璃は半ギレで細剣を振るい、自分を掴んでいる蔦モンスターを切り刻んで脱出。
戦闘後にHPゲージを見たら、ルリルリの体力は半分まで減っていた。倒した敵がドロップした万能薬が、お情けみたいでちょっと悲しい。
「……ハズミちゃん、万能薬いる?」
「いいから、さっさと追いついてくれ!」
そんなこんなで、10分後にはおよそエリアの半分を踏破。丁度中間地点の、踊り場のような広い空間に辿り着いた2人は、おかしな仕掛けを目にして足を止めていた。
カーソルでクリック出来る、ドラックストアのポスターが右の壁に貼ってあったのだ。佐々木ドラッグと書かれており、大井蒼空町のアーケード通りに実在するお店である。
2人ももちろん知っていて、故に悩んでいるとも言えるのだが。
「これって、普通の宣伝ポスターだよねぇ?」
「う~ん、ポスターに変な罠は仕掛けないと思うけどなぁ……悩む時間が勿体無い、無視するのも可哀想だから作動させるぞっ!」
「わ、分った!」
――佐々木ドラッグでは、連休中のビックチャンス、ポイント3倍セール実施中! 更に、スポーツドリンク、栄養ドリンク、化粧品の激安セールも併せて行っております!
学生諸君、サラリーマンや主婦の皆さん、連休中のお買い物は佐々木ドラッグを宜しく!
ポスターのクリックにより、仕掛けが作動。画面いっぱいのコマーシャルにそれは変化する。派手なBGMと共に、流暢な宣伝文句が流れて来て。
CMの終わりにもたらされるのは、アイテム取得の軽快なメロディ。
2人それぞれ、エーテルをゲット! HPとMPを同時回復する、普通のNPCショップで買えばかなりお高い薬品である。どうやら、佐々木ドラッグが提供してくれたらしい。
ドラッグストアらしいと言えば、そうなのかも知れないが。
「わぁい♪ ボス戦に取っておこうっと!」
「……まったく普通の宣伝ポスターだったな」
やや脱力しながら、弾美は感想を口にした。アイテムを入手出来たのは嬉しいが、紛らわしい場所に設置しないで欲しいと思う。それともこれも、計算された時間を消費させるためのトラップなのだろうか。
疑心暗鬼に
エリアの後半も、似たような意地悪な仕掛けに加えつつ。更に加わるのが、剣の範囲外からの段差を利用した遠隔攻撃の仕掛け。
そんな嫌味な能力を持つ敵が、2人の進行を妨害する。
おまけに踏み込み式の罠の発動で毒を受け、2人はなけなしの万能薬も使い切る破目に。今更ながら、昨日ケチってお店で買わなかった事への後悔の悲鳴を上げてみたり。
イン前の購入を、うっかり忘れていたとも言う。
「ううっ、万能薬買っておけば良かった~!」
「妖精チェックで舞い上がって、買うの忘れてたなぁ……失敗失敗」
弾美の言う通り、インして恒例の妖精チェック中の出来事。今日は何かが貰える予感がすると張り切る瑠璃の言葉に導かれるように、妖精は今回はネックレスをくれたのだった。
それに舞い上がってしまっての、お店チェックのうっかり忘れと相成った訳で。これも遠大な、妨害工作の仕掛けの一端だと考えるのは、こちらの考え過ぎだろうか。
何にせよ、今更後悔しても遅いのだけれど。
――あらまぁ、昨日あんなに尽くしてあげたのに、まだこんな最下層をウロウロしてるの? 仕方ないなぁ……アナタってば、余程腕に自信が無いのネ☆
ちょっとでも力を貸してあげたいけど以下略――
ステージ2に辿り着いた時点で混雑していたせいもあるが、同じエリアに3日間も滞在していたのだ。今までのパターンから何か貰えると勘繰っても、それほど的外れではない。
結構良い性能の装備だったせいもあり、2人とも有頂天になってしまって、アイテム屋のチェックをすっぽり忘れてしまっていた。今日くらいの人の寂れ方だと、いい感じに薬品も値下がりしていただろうに。
取り敢えず、戻る事は不可能なのでこのまま突っ切るしかない。
過ぎた事は、あまり深く考えない性質の弾美の反省はそれでお終い。2人は受けたダメージを魔法で回復し、ボス攻略前の最後のヒーリングを取ろうとお互いに合図を送る。
このゲーム、HPをヒーリング座りで回復させるより、MPを座って回復させる方が時間が掛からないのだ。その分MP回復薬は、ポーションの3倍くらいの価値があるけど。
つまりマナポの類いは、安易に使い辛かったりする。
要するに、戦闘中以外での効果的な回復方法は、一般的に決まっていると言う事。回復魔法でMPを使ってHPを回復させた後、ヒーリング座りでMPを回復させるという方法だ。
もっとも、回復魔法を持っていないキャラには不可能な時間節約術だが。
そういった一般理論を
何とも悪質なヒーリング潰しに、休憩も何もあったものではない。慌ててその岩を避けようと立ち上がるのだが、岩が大き過ぎて避難場所が階段の上には皆無。
仕方なく殴り掛かろうとするキャラを、
それを受け、ピキッと弾美の額に青筋が浮かぶ。
「腹が立つっ! 行くぞ瑠璃、速攻でスキル技使って倒してやるっ!」
「う、うん……MP無くて回復1回しか飛ばないから、ポーション使おうね?」
MPが回復し切れていない瑠璃とは違って、弾美の方は自信満々。と言うか、直前のコースの意地悪な仕掛けに、幾らか切れ気味だったり。
自信を支えているのは、昨日レベル10になってスキル2Pを取得して。それを片手剣に振って覚えた、新スキル《二段斬り》のせいである。
メイン世界では10の次は30まで上げないと覚える事の出来ない新スキルなのだけれど。どうやらイベント世界は短期と言う事もあって、20でも取得出来てしまった。
話には聞いていたが、この事実に弾美は小躍り。瑠璃も育成方針を少し修正する事に。
「特殊攻撃受けると面倒だから、2人でスキル技使って短期決戦な!」
「りょ、了解~!」
既に視界に入っている、上り階段の終わりの位置に。簡素な杭が2本打たれていて、丁度ゴールか玄関のようにしつらえてあった。
2人がそこを通り過ぎると、途端に変わるBGM。
簡単な強制演出ムービーが、動き出すゴーレムを5割り増しに強く見せる。ハズミン達より3倍近く大きくて、それでなくても強そうなのだが。
いかにも堅そうで、力もありそうな中ボスだ。何故か体の節々に蔦が絡まっていて、そこがチャームポイントと言えなくもない。
そんな中ボスも、ハズミンのいきなりの先制攻撃でアクションを起こす前に大きくHPを削られる。瑠璃も負けじと、素早く近付いてスキル技を使用する。
攻撃を受け猛り狂うゴーレムに、2人は必死に応戦。死角を探して移動しつつも、SPが回復するまで軽く斬撃を見舞い続ける。
お返しとばかりに、ゴーレムの重い一撃がハズミンを捉えた。驚いて一瞬びくりと肩を震わせ、瑠璃は急いで回復魔法を使用に掛かる。
ステータス異常は起こってないかとチラ見したら、弾美は笑いながら勝負を決めに掛かっていた。《二段斬り》のスキル技が再度ゴーレムへと襲い掛かる。
そして勝敗は、弾美の言葉通りに短期で決する事に。
――見掛け倒しのゴーレムは、呆気なく沈んで行くのだった。
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