第7話
そういえば、さっきの貴教くんの質問、あんな昔のことを、何だか今でも妬いてくれてるみたいで、嬉しくって、思わずキスしちゃったけど、ちゃんと答えてなかったわ・・・。
昔から仲の良い従兄だって、本当のことを話せば、安心してくれるわよね、きっと。
そう、私はあの日、あの頃のことは忘れもしない。
高校生最後のクリスマスに、貴教くんに絶対に告白するんだって、クリスマスプレゼント渡すんだって、そう胸に誓っていた私は、必ず男の人(貴教くん)が喜ぶであろうプレゼント選びを手伝ってもらうことを、当時大学生だった従兄に頼み込んでいたのだった。(今でも多少そうなのだけれど、当時の私は輪を掛けて、ひとりでメンズショップに入るのには恐怖心が在った)
いくら子どもの頃から仲の良かった従兄とはいえ、そんなことをお願いするのは恥ずかしくって気が退ける思いもありはしたが、他に相談できる相手もいなくて(余りにも本気過ぎて、仲の良い女友達には却って相談しずらかったし、
最初は予想通り揶揄われもしたけど、でもその相手が貴教くんだってことが知れると、少しは私が本気だということを理解してくれたみたい。
私がまだ幼稚園児だった頃、私を庇って大怪我をした少年の話を、儀人兄さんも何となくは聞いたことがあるらしく、揶揄われたことに頬を膨らます私に向かって、儀人兄さんはこう言った。
『そっか。なっちゃんが真剣なのはよく分かった。揶揄ったりして悪かったよ。それで、その貴教くんだっけ? 彼とは普段から多少は親しくしてるの?』
私は声には出さずに『ううん』と、首を横に振る。
『でもね、ずっと、貴教くんって、優しいの。今はちょっと
学校の仲の良い女友達にも話したことが無いことを口にした私は、何故だか頬に熱いものが伝うのを感じて、自分でも驚いた。
『そうなんだね。卒業する前に、伝えたいんだね、気持ちを。分かった、協力するよ』
儀人兄さんが余りにも優しい口調でそう言うものだから、私は更に涙が止まらなくなる。
そして、クリスマスイブ前日(終業式の日の午後)、駅前の百貨店でラルフローレンの赤いマフラーを購入し、義人兄さんに別れ際『じゃ、頑張れよ』、そう言われて顔を真っ赤にして家に帰った私は、一緒に渡す筈だったメッセージカードにこう書いた。
――風邪などひかず、受験勉強、頑張ってくださいね。
受験が終わって、春になったら
どこか、遊びに行きたいですね。
恥ずかしくって『好きです』とか、『付き合ってください』とか、そんな直接的な言葉を書けない私が、何度も書き直して、精一杯のアピールだったけど・・・。
結局、渡せなかった・・・。
フラれるのが怖かった・・・。
それに、大事な受験前に迷惑よね、多分。って、自分に言い聞かせるように、そして自分に言い訳して・・・。
それから、受験も無事終わり、春が来て、渡せなかったクリスマスプレゼントを抱えて卒業式に臨み、やっぱり近付くことも出来ないまま、私の片思いは終わりを迎えた。
たった一つだけ、大事な思い出を手に入れて・・・。
◇
県外の女子大学を卒業して、地元に戻って就職した私は、たまには高校時分の女友達とも連絡を取ることもある。
そして、昨日、楓から電話が在った。
『今ね、高村くんから電話貰ったんだけど、今、高村くんと中川君、それに山田君と石神君だったかな、プチ同窓会とかって、男子ばっか四人で飲んでるらしいんだけど、これから来ないかって誘われちゃって。今(杵築)麻衣にも電話したら、行きたいって。どう?なつみも行かない?なつみも明日から、連休だよね?』
『あ、うん・・・、休みだけど・・・』
『じゃ、決定。ええっと、今七時半だから、九時にTOMY,Sの前で。TOMY,S、知ってるよね?』
『うん、分かる・・・』
『じゃ、後でね』
そう言って電話は切れ、私は手に持ったままの携帯電話を暫し見つめる。
楓は何だか凄く乗り気だった。
確か楓って、高校時代、高村君のことが好きだったような・・・。
私も高校卒業後、地元を離れちゃったから、その後のことは聞いたこと無いけど、告白とかしたのかな?
大学生時代、夏、冬休みに帰省した時も、男女含めて高校時代の友達と会ってはいたけど、そこに貴教くんの姿は無かった。
高校を卒業してから、貴教くんとは会うことも見掛けることも、噂話を聞くこともなく、五年以上が経ってしまって・・・
――きっと私のことなんて、忘れてるんだろうな・・・。
でも、会いたいな・・・。
今でも、好き・・・、だなぁ・・・。
そして、昨日の午後八時五十五分、私、麻衣、楓の三人がTOMY,S前に集合し、さぁ、これからドアを押し開けようとする直前に、楓からの衝撃のカミングアウトが・・・。
『あたし、実は、高村くんと付き合ってるんだ』
『ええっ』
『うっそぉ』
私の心の中は、驚き、嬉しさ、羨ましさ、それに可笑しい気持ちと、(正直)嫉妬に、ワクワク感、そんなものでクチャクチャにされながら、お店の扉を潜ったのだった。
◇
つづく
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