第4話
どういう
二人は言うのだ。
高村
『たかのりはさぁ、間違いなく
――お、おい、それはお前の塾の宿題だろ、自分でやれよっ。
中川
『喧嘩が強くて、影があるんだけど、でも実際話してみると、たかのりって優しいじゃん。あとは頭が良けりゃ、めっちゃモテるぜ、絶対に。俺が女なら、間違いなく即、股ひら・・・』
――黙れっ、それ以上喋るな。いや、でも、ホントに?
しかし当時、この饒舌な秀才二人に反論できるほど僕の語彙力は備わっておらず、最初のうちは多少のイライラとムカつきもありながら、それでも可笑しな負けん気とちょっとした二人に対する興味、そんなもので二人の掌の上で転がされるように、なすがママならきゅうりがパパ・・・、僕は『勉強』というものを始めてしまった。
ところが不思議なことに、やり始めるとこれが中々、想像していた以上に面白い。
難解な数学の問題を解くことが出来た時に感じる達成感、満足感、それは全く以てそれまで味わったことの無いものだった。
つるむようになって半年で、僕の学校の成績は驚くほど上がってしまい、高校に願書提出をする頃には、高村、中川が目指す高校の合格ボーダーラインを突破するまでになっていた。(もちろん二人は余裕で合格できるレベルなのだが)
そして、高校、合格・・・。
高校デビューを夢見たものの・・・。
デビューした暁には、七瀬なつみちゃんに・・・(ゴニョゴニョゴニョ・・・)
だがしかし、長年培った性格は如何ともしがたく・・・。
高村と中川がはっちゃけているのを
僕はといえば、やはり冴えない高校生活・・・。
そして・・・、
七瀬なつみと同じ高校に進学出来たことは嬉しさ半分、苦しみが半分だ・・・。
いつだって眺めていられる・・・。
いつだって眺めることしか出来ない・・・。
高村と中川、それに七瀬なつみは一年次から特別進学クラスで、僕は一般クラス・・・。
クラスが違っても、高村と中川は何故だか放課後には必ず僕のところにやって来るので、お蔭で僕は自分のクラスではまた浮いてしまう。
何の為にこの高校に入学したのかも分からなくなりながら(いや、そもそも理由なんて無かったか?)、心ならずも勉強に打ち込むこと二年間は、光陰矢の如し。
すると、三年次進級のクラス編成で、念願の(?)特クラ編入っ。
――今度こそ、七瀬なつみちゃんに・・・
三年次、新学期初日、一般クラスから上がって来た僕は、新しいクラスメートからの奇異なものを見るような遠巻きの視線が痛くて、思わず目を伏せる。
『やぁ、たかのりっ。やっと来たね。君なら必ず上がって来ると思ってたよ。待ってたよ』
と、いきなり背後から現れた高村の隣には、中川。
嫌な予感しかしない。そしてやっぱり下ネタ大魔神はデカい声で、
『おおおっ、たかのりぃ、オナ禁の甲斐があったなっ』
『してねぇよっ』
『ん?してないのか?どっちを?オナ禁をか?それとも・・・』
『黙れっ、手前ぇ』
僕が中川に肩パンを入れようと拳を握りしめた時、何やら遠くからの視線を感じた。
高村がクスクス、中川はニヤニヤしているのを無視して、殴ろうとした手を止めた僕の視線の先には、自分の席でクラスメート数人に囲まれるようにして、ニッコリと微笑みながらこちらに視線を向ける七瀬なつみの姿が在った。
――やばいっ、今の会話、聞かれていたか?
顔が一気に熱くなるのが自分でも分かる。
僕は慌てて視線を逸らし、明後日の方向に顔を向けてしまった。
『どうした?たかのり。ひょっとして、逝ったか?』
『手前ぇ、コノヤロっ』
掴みかかろうとした僕をヒョイと躱し、中川は廊下に飛び出す。
僕もそれを追って走り出した。
キーン コーン カーンコーン・・・・。
始業のベルが鳴った。
中川が振り返り、言う。
『続きはまた今度だ』
たまに腹が立つこともあるが、中川のことは嫌いになれない。それは高村も同じだ。
僕には口にするのも
後になって冷静に考えると、七瀬なつみの席と僕らには相当の距離が在ったのだ(それに今でも中川は、素面の時には絶対に女の子の前では下ネタは言わない)、聞こえている筈はなかったのだが、それより何よりやはり僕は、七瀬なつみと目を合わせることが出来ない・・・。
◇
僕の七瀬なつみに対する焦燥感にも近い恋心とは裏腹に、高校三年次の一年間は凄いスピードで流れ、過ぎ去っていく。
最後の体育祭、最後の文化祭、大学模試、進路相談、受験最後の追い込み・・・。
春。恥ずかしさの余り、そっぽを向いていた。
梅雨。やがて来る高校最後の夏を、何故か期待しながら・・・
夏。(結局は)夏期講習の毎日・・・。
夏の終わり。担任に大学進学を勧められた。(公務員試験を受けようと思っていたのに)
秋が深まり、諦めにも似た寂しさを抱え・・・。
クリスマス・イブの前日。街で、七瀬なつみと知らない男が一緒に居るのを見掛けた。
年が明けた。受験直前に、僕はインフルエンザに罹った。
一月十五、十六日。病み上がりのお蔭で、寧ろスッキリした頭の僕は、回答用紙に次々と答えを書き込む。
卒業式。やっぱり僕は、七瀬なつみを目で追っているだけで・・・。ああ、そういえば、制服の第二ボタンを、見ず知らずの一学年後輩の女の子に取られたけど、あれは誰だったのだろう・・・。
そんな事が、走馬灯のように脳裏を過った。
◇
つづく
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