6.白紙
1ヶ月後
川崎はもちろん検察によって起訴されて現在は拘留されているのだが、麻薬を持っていたということで家宅捜索をすることになった。それに私が借り出される形となった。なので、私は新宿警察署に赴いているのである。
普段交番にいる身としてはこの勤務場所は天国に近いように思える。変な人や酔っぱらいが来て迷惑するわけでもなく、急に通報が入って寝てたのに飛び起きて急行する訳でもないので楽そうに見えてしまう。そんなことないのだろうがな。そうは思うが心のうちは
(帰りたい)
である。
日雇いで麻薬をポケットに入れた記憶の無い人間の家を家宅捜索したところで何も出てくるわけないのだからな。
裁判所というのは律儀であり、疑いがある場合は同情の余地無く徹底的に調べろと言うのだから辞めて欲しい。事情聴取の時の彼の証言が本当かどうかは確かに信ぴょう性に欠けるだろうが、嘘は言っていないだろう。だから無駄骨になるなら私は帰りたい。
「集合。11時30分。これより川崎康太の家の家宅捜索を行う。」
挨拶と同時に警察車両に乗って現場へ向かった。場所は新宿近くの住宅街。見た目はボロアパートであった。
到着すると警察官は一斉に飛び出していき部屋に向かっていった。私はそこには向かわない。え?なんでって?考えてみなさい。捜査一課とかそういったものでは無いただの交番勤務の警察官だぞ。私の仕事はあの黄色いテープを張ってその前で立っていること。そう、ドラマやゲームで見るあの役割を担うわけなので、やる気はない。雑用なのだもの。
「はーい。ここは今から立ち入り禁止です」
わかりきっていたことだが、野次馬が殺到。
「え?なに?」
「ちょっとお巡りさん何があったのよ」
「誰だ誰だ犯人は」
憶測が舞う最前線で私は突っ立っている。そう、質問攻めにされる。嫌だ。なんでおば様方しか来ないんだ。やはりこれらの野次馬や噂話にはおば様方が付き物のようだ。
「質問にはお答えできません」
「なんなのよぉ」
帰りたい。なんなら家宅捜索に参加したい。逮捕した張本人だぞ。参加させてもらってもよろしいのではないかと思いながら、これが若者の通る雑用任務かと諦めながら自分に言い聞かせている。
どうせ何も出てこない。親がいない彼は一人暮らしだしお金も無ければ多分置いてある物もそんなに無い。早く切り上げるはずだ。もう早々とダンボールがトランクに積まれている。
(あぁテレビで見たやつだ)
実際にその現場を初めて見ると興奮するものであった。野次馬も
「あぁ家宅捜索よあれ」
「私初めて見たわぁ。怖いわねぇ」
おばば、安心せい。ここにいる警察官のお兄さんも初めて見てるからちょっと興奮しているよ。社会科見学感が自分の中であるが流石に職務放棄はできない。心の声が吐露してしまった
「おぉダンボールめっちゃ出てきた」
「お兄さん、警察官でしょ。何言ってんのよ」
やべ、つい声出てしまった
「すいませんこの仕事初めてでして」
「あらぁ若いのね」
「大変なお仕事でしょ」
「何、ちゃんと寝れてんの。忙しいでしょ」
「若いうちは警察官も大変ね」
標的は家宅捜索から若い警察官の私に向かってしまった。面倒くさい。その後予想通り凄い話しかけられてかなり地獄だと思った。その時
「太田、見張り交代だ」
救世主だった。私はお年寄りの相手で疲れていたので礼を言い、即座に現場へ向かった。
慌ただしい現場ではあるものの部屋が狭いのであまりやることは無い。部屋に入ると質素な生活をしていたことが伺える。必要最低限のものしか置かれていない。いかにお金が無くて困っていたかが見てわかる。テレビや押し入れのものは既にダンボールに入れられて押収済。小物などはまだのようだ。
「小物もほとんどないな」
おかしいくらい何もない。質素だと言われればそれまでなのだが、写真の一枚もないのは普通なのか。家族の写真がないのはわかる。友達がいないなら友達との写真もないのは当たり前か。
「友達もいないなか生活していたのか?川崎は」
そして、趣味らしいものも何も置いていない。何も彼を語れるものが何も置いていないのだ。お金がない人はこれが普通なのかとも考えたが、あまりにも生活感がない。
それほどまでに彼は何もない生活をしていたということか。一応このように結論付けておく。
「太田~これ持ってけ」
「はい!」
仕事を与えられてしまったのでじっくり部屋をみることは辞める。仕事中なのでね。
「重い」
「文句言うな」
よりにもよって重いものを渡されたようで文句が出てしまった。何回か往復することで荷物の処理は終えてしまった。あっけないがこれで帰りになる。
警察署に戻り、諸々手伝い終わって私は一旦交番に戻ることにした。帰ると田村さんが出迎えてくれた。
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