第5話 Fの失踪/異常村
「どうした?―――父親に会えるか心配か?」
「そうじゃなくて……。ずっとどうして失踪なんてしたのかななんて……考えていて」
「そうか……でも、なにかあったのは間違いないんだろ?」
「うん……多分、お母さんのことだと思う」
「なら、親子で話し合って決めろ。それ以上のことはなんとも言えない」
俺たちは、今高速のSAにいる。
梓の父親がいるであろう秋田県の能代市に向かうため、今はバイクを2傑で走らせている。
俺は、去年にバイク免許を取得しているので、法律的には問題ないはずだ。ちなみにバイクはCBR1000RRだ。バイクのことはわからないが、直感的にこれが欲しいと思ったから買った。
このバイクを買う時、少なくとも6年は使い続けることを条件に、両親が大金を払って買ってくれた。本当に頭が上がらない。
朝一で学校の最寄りの出て、今は東北のSAで昼飯を取っているところだ。
本当は道の駅に立ち寄って、そこで昼食をとるのが理想的だったが、思いの外高速を抜けられず、今に至る。
ちなみに、サブはおいてきた。二人までしか乗れないバイクの特性上、サブは連れてこれない。行く直前まで駄々をこねていたが、俺は知らない。
とりあえず知らないふりをしておいた。
親には部活の一環と言っておいた。事実、柏沢先生に公欠にしてもらっている。
「飯食い終わったか?」
「うん……」
「なら出発するぞ。暗くなってからホテル探すの怠いから」
「わかった……」
こんな感じで、梓は上の空だ。まあ、父親に会いに行くと言っているのだ。なにを話すか考えているのだろう。
それでも、なにかを聞いてるときにこれをやられると迷惑でしかないけどな。
「上の空になるのもいいけど、ちゃんと掴まっとけよ」
「あ、ああ。わかってるよ」
「本当か?」
それから、4時間ほどバイクを走らせていると、ようやく秋田自動車道を抜けることが出来た。
抜けた先にコンビニがあったので、ひとまずそこに入る。トイレ休憩とかその他諸々を買ったりとかだ。
流石東北というだけあって、東京と違って、春はまだ肌寒いな。
まだ、雪が残っているなんてことはないが、気温が低い。これは少しだけ上着が欲しい気分だ。
「梓、トイレとか行きたかったら行っとけ。父親と会う時、あんまりいけないかもしれないぞ」
「わ、わかった……。でも、本当にデリカシーないね」
「うるっせえ」
俺も、コンビニの中に入っていった梓に続いて、眠気覚ましのガムなどを買いに店内に入る。
♪~
店内に入ると、おなじみの電子音が鳴る。と、同時に俺のスマホの着信音も鳴り始める。
「なんだ?」
俺はなんだと思い、スマホを手に取ると、画面には
『由愛』
と、表示されていた。
なんの用だろうか?まあ、いちいち出る必要もないので着信を拒否る。
しかし、なんど切ってもかかってくるので、仕方なく電話に出る。
「もしもし?」
『もしもし?大丈夫?』
「は?」
『その……学校休んでるから……』
「大丈夫。じゃあな」
『あ、まっ……』
ブツッ
俺はそう言って電話を切る。今の俺は必要以上に彼女と話したら、耐えられなくなる。俺はできるだけ関わらないようにしないと……
その頃、由愛は電話を切られて涙目になって岩貞に慰められているのを、俺は知る由もないだろう。
「今の、恋埼さん?」
「だったらどうする?」
「なんで浮気とかしたの?」
「お前には関係ない」
「そう……」
電話を少しだけ聞かれたのは痛手だったが、それ以上は追及してこなかったので良かった。
俺は、これ以上梓に話に触れさせないために、商品を取ってレジに持っていく。持って行った量も少ないので、店員の商品のスキャンは一瞬で終わり、値段が表示される。
「103円……」
「……はい……」
俺は店員の態度が悪いと思い、店員の顔を見る。しかし、見た目には特におかしな点はないのでスルーする。
俺が出したのは110円。7円のお釣りがあるはずだ。
だが、待てど暮らせど、お釣りが渡される様子がない。
「あの、お釣り」
「お釣りはありません。ぴったりのお支払でしたよ」
「は?」
「ぴったりでしたよ」
「そんなわけないだろ。俺は確かに“ぴったり”で出した!……ん!?」
な、なんだ?なにが起きた?
とりあえずここにいるのはまずい。早く離れないと……
「梓、はやくここを離れるぞ」
「どうしたの?」
「なんかがおかしい」
「なんかってなに?」
「なんかはなんかだ。今はそんな論争をしてるほどの余裕はない」
俺たちは、近くにあるガソリンスタンドでレギュラーを入れてから、もう一度バイクを走らせる。ガソリンスタンドでも、俺はお釣りの出る様に払ったが、お釣りが返ってくることは無かった。しかし、そんなことを気にしている場合ではない。
目的地は、橋を越えた先にある山の中だ。それなりに距離がある。
俺は、嫌な予感がしたので、法定速度ギリギリの速度でバイクを走らせる。だが、見た感じ速度オーバーの車なんかザラに見える。
自由過ぎるだろ、田舎。警察が全然巡回しないからやりたい放題だ。
「あ、有藤君、速すぎるよ!」
「我慢してくれ!なんか嫌な予感がする!」
「嫌な予感ってええええええええ!」
俺の出した速度が速すぎるのか、梓から絶叫が聞こえてくる。う、うるせえ!静かにしてくれ!
そんなこんなで、俺たちの目的地のある場所に到着する。しかし、そこからは異様な光景が広がっていた。
そこには老若男女問わず、外に出て棒立ちになっていた。
流石に、俺も梓もその光景には絶句する。
「なにこれ……」
「なんなんだこの光景は……人数的に周辺の住人全員がやってるのか?」
異常なのが、それなりの音をたてているはずのバイクに誰も反応を示さない。
異常。―――その光景はその一言で片づけてしまえるような光景だった。
「お父さん!?」
梓は、その中に父親を見つけたのか、一人の人物の中に駆けていく。
その人物は、老人の比率が圧倒的中、スーツに身を包んだ紳士だった。スーツのまま失踪したのか?なんだろうか、この違和感は……
俺の考えもよそに、梓は父親に声を掛け揺さぶり始める。
「お父さん!私だよ!わかる!ねえ、返事してよ!」
「なんだ……?」
梓が父親を揺さぶっていると、突如として周りの空気が変わった。先ほどまでこちらに見向きもしなかった人たちが、一斉にこっちを見ていたのだ。
これは、軽くどころか普通にホラーだ。
俺は異様な状況に恐怖を憶え、梓を抱えてバイクに乗せる。
「ねえ!お父さんなの!話をさせて!」
「梓!ここはなにかがおかしい。ここは一旦引くんだ!」
「いや!お父さん!お父さん!」
俺は梓の叫びも無視して、バイクに跨らせる。俺は急発進させて、その場をとてつもない勢いで駆け抜ける。
上り坂で車体が一瞬浮いたが、気にしてる場合じゃない。
ここは明らかにおかしい!
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