第4話 Fの失踪/最初の依頼

 「劉生探偵事務所?」

 「そうだ!大雅は優しいからな。人助けをするべきなのだ!」

 「有藤はそれでいいと言っていたのか?」

 「勝手にしろと言っていた」

 「そうか、ならそれで申請を通しておこう」

 「ありがとうなのだ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「大雅、申請してきたのだ!」

 「ああ、ありがとうな」


 俺は図書室に戻ってきたサブを迎える。今しがたサブが、部活申請の紙を出しに行ったのだが、名前がどうなったのかわからない。


 まあ、さすがに空気を読んで、ある程度何とかなりそうな名前にしてるだろう。あれだけ自信満々だったし……


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 あれから数日

 特に音沙汰はない。教室でも目に見えて俺に突っかかってくるものもいないし、由愛たちも俺に目を向けることは少なくなってきた。

 さすがに、俺のことは忘れられるだろう。

 ただ、時々なにかを画策しているような視線を感じる時がある。


 まあ、気のせいだろう

 人は、あんな事されたら普通は醒めるだろう。


 それがあっても、最近の俺は平穏に過ごせている。もう少し、いじめ的なことをされると思っていたのだが、心配は無用だった。


 そうして、俺はなんの音沙汰もなく過ごしていたのだが、今日その平穏は壊されることになった。


 コンコン


 「ん?珍しいな、人が来るなんて」

 「……失礼します。柏沢先生に困ったことがあったらここに行けと……」

 「は?」


 そんな話は聞いていない。誰も来ない部屋じゃなかったのか?ここに行け?もしかして、俺達になにかさせるつもりなのか?


 「おお!最初の依頼人か!どうぞどうぞ!」

 「おい、ちょっと待てサブ。こっちにこい」

 「なんだ、大雅?」


 俺はサブを手招きで呼び寄せる。


 「どういうことだ?」

 「ここは探偵事務所。劉生高校の事件を解決するのだ!」

 「すぅ~……こいつに任せた俺が馬鹿だった……」


 よりによって探偵事務所だ?まあ、おそらくではあるが、あの時俺が力を見せたことによって、俺が人を助けることが当たり前の人間だと思ったのかもしれない。


 俺も人を助けることはやぶさかではないし、悪いとは思わないのだが、だからって部活名が探偵事務所か。あり得ないにもほどがある。

 なぜこれが生徒会を通ったのか……


 「おお、そうだ!これを柏沢先生にもらっていたのだった」


 そう言って、サブは鞄から紙を取り出す。


 その紙は、部活動報告書だった。お前なあ、こういうのは早く渡せよ。


 「はあ、申請したのなら仕方ない。やるしかないか。―――それに、柏沢先生に世話になってんだ。面倒ごとはこちらで片づけるか」


 というわけで、俺は劉生探偵事務所なるものを開設した。

 つまり、目の前の人物が最初の依頼人というわけだ。


 「では、依頼内容を」

 「人を……父を探して欲しいんです……」


 さあ、学校の部活に持ってくる問題じゃないぞ!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 依頼人は梓芽衣あずさめい。彼女の父親は、大手の服飾メーカーの社長。まあ、彼女はいいとこのお嬢様ってやつだ。


 なんでも彼女の父親は二週間も前に、行方不明になっているらしい。


 もちろん警察にも相談したが、探さないで欲しいとの旨の手紙が残されていたために、「行方不明届」を出してもらっただけで、捜索が行われたわけではないらしい。


 彼女は、失踪した理由を知りたく、父親にも会いたいとの事だった。


 「私、お父さんだけが味方だったんです。お母さんは、気持ち悪いおじさんと婚約させようとしてくるし、暴力を振るってくる。お父さんがいなくなったら、わたし……」

 「大体の状況はわかった。でも、なんでここに相談しようと?」

 「警察も動かないし、情報がないから興信所にも行けず……だから、柏沢先生に相談したらここを頼れって……」


 柏沢先生に相談したのも意味不明だが、なぜ俺たちに仕事を振ったのだろうか?

 もっとその道のプロとかに依頼すればいいのに


 「大雅……」

 「もちろん依頼は受ける。探すだけは探してみるけど、期待はしないでくれ」

 「う、うん……もうここしか頼れるところが……」

 「いや、あるだろ……」


 最初の依頼は父親捜しか……

 なかなかヘビーな問題だ。ただ、今の話でなぜ失踪したかはわかった。


 おそらくは、母親が原因であろう。自主的に失踪した可能性。それとも工作されたものか。

 後者なら、まず彼女の父親は生きていないだろう。だが、泣いている依頼人を放っとくのは探偵失格ってやつじゃないか?


 「梓さんは、こいつと話をしてくれ。俺は調べ物をする」

 「調べものって……」


 俺は戸惑う梓さんに、サブを差し出して奥の部屋―――つまり超次元図書館に入る。


 おそらく、調べ物をするのならここが一番最適だろう。

 ここには、この世の全ての書物がアクセスできる。


 「とりあえず、検索資料は【梓隆一】」


 そう情報を絞ると、目の前に梓隆一に関する書物の全てが現れる。


 よし、全部読んでいくか……めっちゃ数あるけど……


―――読書中―――


 三時間後


 「終わらん!いや、終わるわけがねえ!」


 俺は、絶望的なまでの量の本を前にそう絶叫する。

 やばい、ゲボを吐いちまう。


 これは対象を絞らないと……


 もう、梓隆一の会社の経営が傾いている話はうんざりだ。

 いや、そちらも重大な問題なのだが、今はそちらではない。


 失踪に関する情報が一切出てこない。今は、それで物凄く悩んでいる。全ての情報が見ることが出来るというのは一長一短というわけか。


 なにか失踪に関する情報は……


 ちなみに、【梓隆一】【失踪】で検索しているのだが、おそらくタイトルにしかワードは反応しないのだろう。結果は芳しくない。


 これは、なにかにメモしている可能性を信じるしかないな。もしこれ失踪が頭の中だけで完結していたのなら、俺はお手上げというわけだ。


 「検索【梓隆一】【パソコン】」


 俺は検索を再開した。


 二時間後


 「見つけた!」


 見つけた!見つけたぞ!


 そう、俺はついに見つけた。普通なら捜査に何日もかけていそうなことをわずか数時間でやってのけた!

 いや、数日間探し続けるような忍耐が無ければ、探偵なんてやってられない。少しずつ、忍耐も鍛えていこう。


 ちなみに見つけた検索項目は【梓隆一】【手帳】【逃亡日記】の3つだった。

 この3つを合わせるのに少し時間がかかってしまった。


 まあ、それでも彼女にとって―――梓芽衣にとって、こんなに早く特定できてしまうとは、と思うだろう。


 俺は父親の居場所を特定した旨を伝えに、先ほど依頼を受けた場所に戻る。

 俺が検索を開始してから、物凄い時間が経過しているのにもかかわらず、二人はまだそこにいた。


 「あ、大雅が出てきたのだ!」

 「あ、あの、父は……」


 二人はなにをしていたんだろうか?見たところ喋っていたわけでもないし、あまり明るい雰囲気でも無かったろうに


 とりあえず俺は、先ほどわかったことを報告する。


 「父親の居場所がわかった」

 「へ?なんで!?」

 「良いから早く帰って荷物をまとめろ。明日朝一で出発するぞ」

 「え……え!?」


 場所がわかったなら早く会いに行こう。依頼人をいち早く笑顔にするのが探偵の役目だろ?


 「それで大雅。芽衣殿の父はいずこに?」


 サブはそう質問してくる。そうだそうだ、重要なことなのに言ってなかった。


 それはもう田舎だ。本当に見つからなさそうな場所に行ってやがったよ。ただ、落ち着いた地域で、平穏に暮らすのなら向いてそうな場所だったよ。


 「秋田県能代市だ」

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