第3話 謎の少年X/超次元図書館

 超次元図書館

 より高位の知識を求めた先人たちが残した遺物という噂もあれば、神の図書館という噂もある。

 だが、どこから入れるのか、どこにあるのかそれすらもわからない眉唾物の噂程度でしかなかった。


 しかし、今から四十年前の劉生高校(有藤大雅たちの通う学校)で、この世界ではない場所に存在する図書室というものが話題になった。当時は騒がれたが、その入った人物はその後、行方不明になり、詳細は闇に葬られた。


 そして、それからはその『超次元図書館』が存在した図書室に黒い噂が立つようになり、時代の経過とともに図書室も移動され、誰もそこに近づかなくなった。


 そして超次元図書館にアクセスする条件は、悲しみに暮れた者、あるいは孤独に溺れる者、あるいは力を持ちし者、あるいはそのすべてを満たしたものなのかもしれない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「大雅、どうしたのだ?」

 「なんじゃこりゃ……」


 いま、俺達の目の前には、あるはずのない空間が広がっていた。


 見渡す限り本棚に囲まれた空間。学校の校舎よりも広いと思わせる広さ。そして、圧倒的な蔵書数。


 本当に存在したっていうのか?


 「これが噂の超次元図書館?」

 「おほお!これが劉生の不思議図書館か!」

 「ちがう。劉生高校の十八不思議のひとつ。超次元図書館だ」

 「なんでもいいではないか!早く、本になにが書かれているのか見ようぞ!」

 「はいはい」


 サブは、たまに大人じみた言葉遣いをするが、結局は子供。年相応の反応をするな。……本当に何者なんだろうか。


 そんなことを考えつつも、俺達は図書館を歩き回る。

 ただ、広すぎていつ終わるかもわからないな。


 これくらいなら、反動は少ないだろうな。


 「【把握】」

 「大雅、なにをしているのだ?」

 「この図書館の全ての本の情報を集めてる」

 「ふわあ……!大雅はそんなこともできるのか!」


 俺は、サブの驚きをよそに解析を進めていく。すると、あることがわかった。


 この図書館は、この世界に存在する、書物の全てが置かれている。この世界に本というものが生まれるたびに増え続けるらしい。

 存在していればいいのだから、歴史上失われた書物すらも、その模写がここにあるらしい。


 まあ、俺はあんまり歴史は好きじゃないから、興味はわかないけど。


 「まあ、試しに……対象に関連する書物の全てを【この〇ば】」


 すると、数々の書物が俺の目の前に整理される。

 まるで地〇の本棚だ。


 みたところ、単行本だけではないらしい。よくよく見ると、画集など公式から出されている本編とは関係のないものから、色々とあるみたいだ。


 その中でも特筆するべきは単行本ではなく、ノートでえがかれているものたちだ。最初、原作者のものなのかと思ったが、それは違った。


 俺は中身を読んで、吐きそうになった。それは、妄想全開のオタクたちが作ったであろう、二次創作のもの達だった。


 中には良作みたいなものはあるのだが、大半が気持ち悪い設定と、無駄に世界観を壊すチート能力が付与されていた。


 こんなのは物語ではない。


 俺は、そんな作品とも呼べない作品群を見て、辟易とする。


 しかし、サブはそうではなかったようで―――


 「見ろ!これは面白いぞ大雅!」

 「ん?『僕とお嬢様の恋物語』?―――うわっ、なんだこれ!物語冒頭で股開くって、ヒロインの好感度どうなってんだよ!」

 「ん?このシーンはよくわからなかったのだが、これはどういうシーンなのだ?」

 「お前、このシーンでほぼ物語が構成されているのに、面白いとか言ったのか?」

 「そうだ!私はこれを直感で面白いと思った!」

 「頭いてえ」


 そんな感じで会話をしていると、時刻は昼休みを回っていた。


 時間も時間なので、俺達は食堂に向かう。俺は基本、食堂で昼飯を取っている。俺は料理なんてできなし、両親も共働きで余裕がない。だから、食堂で食べるしかないのだ。


 俺とサブが、メニューを注文して着席すると、ちらほらと生徒が集まってきた。


 「大雅はうどんなのか?」

 「ああ、そこそこ腹に溜まって、食べやすいからな。そういうお前は唐揚げ定食だろ?多くないか?」

 「ふふん!これくらいは簡単に食べきれる!」


 そう言いながら、爆食いするサブ。客観的に見ると気持ち悪いったらありゃしない。


 概ね、幼稚園児が食べるような量ではない唐揚げ定食を、ものの五分で食べきってしまうサブ。もはや、俺より化け物なのではないか?


 周りからひそひそと俺の話をしているのが聞こえてくるが、俺は特に気にしない。もう、他人がどうなろうが、気にしちゃいけないんだ。


 そうして俺たちは、過ごし辛い昼飯の時間を過ごした。


 それから時間も経ち、最終下校の時間になる。これからは、あまり家族にも迷惑を掛けたくないので、できるだけ図書室に長居しよう。


 幸いなことに、誰も使っていな部屋なので、先生も鍵を私物化してもいいとの事だ。


 なんなら泊ってもいいのだが、さすがに親が騒ぐのでやめておく。


 「帰るぞサブ」

 「おお!やっと帰るのか!」

 「長居すんのがいやならついてくんな!」


 そう言いながら、俺達は学校を後にする。


 しばらく無言で歩いていると、段々と人が増えてくる。だが、異常に人が溢れてくる。

 おかしい。ここはそれなりの住宅街だが、ここまで人が集まるほどのところではない。さらには、みんなパジャマなどの寝間着のようなものを身に着けているものが多い。


 どうしたんだろうか?


 そう思い、人の集まるところに行ってみると、少しずつ周りが明るくなっていき、けたましいサイレンの音が耳に入って来た。


 「火事か……」

 「大雅、どうしよう!火事だ!」

 「いや、消防隊は来てるし、いつか消化される」

 「で、でも……」

 「人には適性がある。消防士は消防士としての適性があるんだ。だから、あの人たちに任せろ」

 「わかった……」


 サブは俺の言葉に若干納得していないようだ。まあ、子供なら助けたいと思うのが普通なのだろう。―――いや、サブが優しいだけか?


 まあ、俺には関係のないことだ。


 だが、悲痛な叫びがあたりに響く。


 「こどもが!まだ私の子供が中にいるんです!」


 そう叫ぶ女性は、おそらく燃えている家の住人だろう。中に子供が取り残されていると、叫んで家の中に入ろうとしている。


 「ダメです!今は危険なんです!」

 「じゃあ、あなた達が助けてよ!いや!いやああ!」


 女性たちがそんなやり取りをしている間に、家は依然として燃え続け、果てには崩れ始めてしまった。


 子供がいる。誰かが泣いてる。助けないと……


 いや、力を使ったら……


 でも、助けられるのにたすけないなんて……


 俺は燃え盛る家に、手を突き出す。


 「大雅、なにするつもりだ?」

 「良いから見てろ。【消化】」


 バシュゥ


 すると突然、燃えていた炎が消えた。

 周囲の人たちは、なにが起きたのか理解できず、ただ茫然とするのみだ。


 「た、大雅、今のは……」

 「これが俺の【力】だ。俺は全てのことをこの力で解決できるんだよ」

 「す、すごい!すごいぞ!」

 「ははっ、そう言ってくれるのなら嬉しいな」


 こいつには代償のことは言わないでおこう。余計な心配はさせたくない。

 というより、こいつは優しいからな。もしかしたら余計な心配をするかもしれない。


 「大雅はなんのためにその力を使うのだ?」

 「なんのために……この力を……。多分誰かを助けるためだろうな。その目的が変わっても、俺はこの力で人を傷つけたくない」

 「そうか……。やはり大雅は優しいんだな!」

 「そんなわけあるか。優しかったら、由愛にもあんな態度はとってない」


 俺の中に残るのは後悔。由愛を泣かせてしまったこと、親友を裏切ったこと。もっとうまくやれたんじゃないかと思う。でも、俺にはあれしかなかった。

 だから、サブだけは傍にいてほしい。


 もしかしたら、俺の根の考えとサブの能天気な考えが部活名に『探偵事務所』なんていうアホな名前を付けてしまう事になったんだろう。

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