第6話 Fの失踪/橋上の父
「離して!お父さん!お父さんなの!」
「落ち着け。今はそういう場合じゃない。お前も見ただろ?あの異常な光景を」
「見たけど、お父さんをあんなところに放っておけない!」
俺たちは、あそこの人達から逃げて、近くのホテルに泊まっていた。ちなみに、部屋は同じ。あまり金を使ってられない。
状況をまとめると、梓から来た依頼を受けて秋田の能代市まで来た。だが、そこは異常な光景、人達が溢れていて、俺たちは一時的に撤退をした。
あの人たちは、今どういう状況なのだろうか?
少し、検索してみよう。
俺は目をつぶり、力を発動させる。
「【接続】」
「なにしてるの?」
「検索内容は【秋田県能代市の現状】」
「へ?」
しかし、経済的な面での話や、人口比率の話など、行政の話しか出てこない。
なにかの疫病。というのは考えづらい。症状が意味不明過ぎる。俺は医者じゃないが―――いや、夢遊病?だが、あんなに集団で?絶対におかしい。
「検索を終了」
「なにをしてたの?」
「なんでもいいだろ?お前の父親を助けるための方法を探してた。別に迷惑とかじゃないだろ?わかったらさっさと寝ろ」
「うん……」
梓はそう返事をすると、ベッドに入って就寝した。もしかしたら、彼女の父親は助けられないかもしれない。そうなったら俺はどうするべきか。
わからない。俺は親を失う痛みがわからない。というより、いつかその感情も失うかもしれないな。
検索を再開しよう……
ちなみに、俺の力で図書室そのものにいなくても、アクセスが可能になっている。これでどこにいても読書が可能だ。
「検索内容は―――」
そして、俺の検索は徹夜で続き、翌朝まで続いた―――
しかし、なんの成果も出なかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺が図書室に籠って、数時間。外はすっかり明るくなり、朝になっていた。それでも、まだ時刻は早いが、梓が起きた。
「……おはよう」
「おはよう。よく眠れたか?」
「うん……。変だよね。お父さんがあんなことになってるのに」
「そんなことはない。たとえどんな状況であれ、欲を否定するのはよくない。犯罪じゃない限りはな」
「……名言のつもり?」
「どうしてそうなる。事実そうだから言ったまでだ」
梓はまだ寝ぼけているようだ。寝起きという事もあって、色々梓の格好は酷い。なので俺は顔を洗ってくるように促す。
その後、顔を赤らめながら戻ってきた梓に状況を伝える。
「今のお前の父親がどんな状態なのかわからない。ましてや、あの場所の住人たちの状況もわかるわけない。なにもわからないんだ」
「わからないって、どうやって調べようとしたの?」
「それは知らない方が良い」
「そう……話してくれないのね……ん?」
梓は話の途中になにかを感じたのか、ベッドの中を漁り始める。
「これ、有藤君のスマホだよね?電話来てるよ」
「無視でいいよ」
「この人、あなたの彼女でしょ?なら出ないと」
そう言うと、梓は電話を繋げて、俺の方にスマホを投げてくる。
余計なことを……
「もしもし?」
「あ、やっと出た。ねえ、どこにいるの?家に行ったらバイクもないし、電話も全然つながらなくて……」
「今、ホテルにいる」
「へ?」
「今は、ホテルにいる」
「何回も言わなくてもわかるよ!え?ひとりだよね?」
「いいや、女といるさ。言ったろ?好きな女が出来たって」
「うそ……」
「じゃあな」
はあ……
「なんでそんな言い方をするの?」
「お前には関係ない。首を突っ込むな梓」
「そうはいかない!恋埼さんのことちゃんと考えてるの?」
「うるさい。お前の父親を助けなくていいんだな?」
「―――っ!?……脅しのつもり?」
「脅しだ。これ以上踏み込むんだったら、俺は今からお前を置いて帰る」
「……わかった。今はもう触れない」
そう言うと、梓は外に出るため着替え始める。俺は部屋の外に出る。さすがに、着替えを見るわけにもいかないしな。
しばらくすると、着替えだけでなく、全ての荷造りを終えた梓が出てきた。仕事はできるんだな、こいつは。
ホテルの会計を済ませて(もちろんお釣りなし)、俺たちはバイクに乗る。もう一度あの場所に行く。
「ほら、早く乗れ」
「うん……ありがとうね。運転してくれて」
「急になんだ?まあ、出るからな、しっかりつかまってろよ」
「うん……」
こいつ、うん……が口癖なのか?こいつの口から半分近くはこれで返ってきている気がする。
こうしてホテルを出た俺たちは、しばらくバイクを走らせる。すると、橋を渡り始めたころ、奥側に人影が見えてくる。
あれは……
「お父さん……」
「やっぱそうだよな」
そこにいたのは、下を向いて俯きながら立っている梓の父親だった。
梓はそれも見ても、昨日と違って冷静だった。なにがあったんだろうか?
だが、こちらが梓隆一に気付いても、彼は一切の動きを見せない。というより、不自然に動かない。
「お父さん?」
「梓、囲まれた。これが狙いだったのか?」
「囲まれたって……っ!?」
梓も、気付いたのだろう。至る所から、視線を感じることを。やはり、異常だ。何故こんなにも住人から意志というものを感じないのか。
だが、住人たちが発する気配は相当なもの。これは夜に遭遇したら失禁ものだ。怖すぎる。
「―――!?梓っ!」
「え?……きゃっ!」
俺は思いっきり梓を突き飛ばす。瞬間、俺に向かってマンホールが飛んでくる。
飛んできたマンホールは、俺の側頭葉を捉えて吹き飛ばしてくる。
その勢いで、俺の体は浮いてしまい、下の川に落とされる。
「有藤君!?」
「ぐ……な、な―――」
バシャン
突然の奇襲になすすべなく落とされてしまい、水面に叩きつけられた。
梓が、慌ててマンホールの飛んできた方向を見ると、そこには彼女にとって見慣れた存在がいた。
「梓、ここに来ては駄目よ」
「お、お母さん?」
そこにいたのは、梓芽衣の母にして、梓隆一の妻、
彼女の手には、二つ目かわからないが、マンホールがあった。
「お母さん、なにやってるの?」
「今日はね、仕事をしてたのよ」
「仕事ってなに?うちの業務じゃないの?」
「芽衣、それじゃ世界進出は出来ないの」
「へ?」
梓―――ややこしいから名前で呼ぼう。芽衣の質問に母が答えると彼女は素っ頓狂な声を上げる。
それだけ彼女にとって意味が汲み取りづらい発言なのだったのだろう。
「で、でも世界進出が目的なら、こんなことする必要って」
「あるのよ。人類は進化するの。うちはね、服飾ではなく、反抗することのない従順な超能力兵士を世界に売り出すこと。より多くの人間が超能力を手に入れるための実験をしているの!……でも、どいつもこいつも使えない。9割の人間が、実験に耐えられない。だからそろそろ人員を替えなきゃ。だから、芽衣こっちにきなさい」
「い、いや、そうやって私を実験にかけるつもりでしょ!」
「そうよ。私の血を受け継いでいるあなたなら、能力が発現するかもしれない。だから、来なさい!」
そう言って、芽衣母は芽衣の腕を掴む。
ゴゴゴゴゴゴ
「な、なに?」
「母親として、それはいかがなものか。しかも、全然他の人に対して―――いや、梓の父親に対して何をしたのか言わねえな」
そう言う俺と芽衣母の間には、見事な氷の針が橋から突き出ていた。
俺は、芽衣を後ろにやる。ここからは戦闘になるからな。
「ったく、初っ端から依頼内容が重すぎんだよ。
―――さあ、お前の罪を数えろ」
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