手違い

 昼時の忙しい時間が終わり、料理人も兼任する店長がまかないを食べながら休憩所でテレビドラマの再放送を見ていた。

 モニタの中の女性が、主人公の後ろから消火器を振り上げ、思いっきり――

「ああ、ああ。その角度は違うのよねぇ。そこだと、ちょっとコブができる程度」

 店長は思わず突っ込んだ。

 実際ストーリーでは主人公は昏倒はするものの、ちょっとコブができる程度で展開が進んでいった。

「……なんでわかったんですか?」

 一緒に休憩中だった店長の姪が聞いてきた。

「やったことあるもん。姉さんに」

 姪は目を丸くする。彼女店長の姉は、姪の母親なのだ。打ちどころが悪ければ、自分はいない。

「ああ、でも安心して」

 店長はにっこりと笑いかけた。

「家の人含めて、もう誰も覚えてないから」

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