「そういえば、今日ってあの日だろ？」

　ウエイターは暇そうなバックヤードに世間話を持ちかけた。

「ダムに沈んだ中学校の追悼式。当時の学生さんにウチのコックが料理を出すやつ」

「それ、去年大騒ぎになったやつでしょ？　確か予約入ってないですよ」

「え？　クレームで？」

「あれでしょ？　当時を忘れたくない人には思い出しメニュー、忘れたままにしたい人は物忘れメニューの」

「そそ」

「あれ、いつもならテーブルにどちらを出すかマーキングがしてあるんですけど、去年それが入れ替わってたらしいです。それで」

「わぁ……　覚えておきたい人は忘れて、思い出したくない人は蘇ってきたわけか」

「まあ、それは料理を交換すればいいんですけど」

　バックヤードは一呼吸置く。

「思い出した人たちが主催の人に『お前は誰だ』って話になって」

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