故郷より名誉

 あるミュージシャンは聞いた。

「沢山の人の記憶を消したりはできるのか?」

「あくまで料理を召し上がった方だけです」

 聞けば、ミュージシャンはそこそこ売れっ子らしいが、幼いときはそれはもうひどい素行だったという。

「今更、南の故郷に帰るのも恥ずかしくて、いっそ忘れてくれてたらな、って思って」

「それならよいメニューがございます」

 後日ミュージシャンは故郷に帰り、地元最大のホールを貸し切ってのスーパーライブをやりきり、見事錦を飾ったのだが、実家に戻ってからはどうも腑に落ちない顔をしていた。

「なにかあったのかい?」

 母親は尋ねるも、どこか上の空だ。

「なあ、母さん。俺の生まれ故郷ってどこだったっけ?」

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