その景色ごと
ある画家が予約を取り、食事をしていった。
「昔見た景色が思い出したくて」
しかしよほど古い景色だったのか、それともさほど強烈な記憶ではなかったのか、画家はたびたび店を訪れ、食事をしていった。
気になったウエイターは画家の名前を聞き、近々開かれるという彼の個展に行ってみた。
決して大きいとは言えないが、それでも並んだ絵の価格はかなりの物で、驚くことに既に数枚は売約済みの札が貼られていた。
「金持ちが買うんだろうかねぇ、俺には遠い世界だ」
そう言いながらさらに展示を見て回ると、ちょうど店に来た頃に書いたと思われる絵を見つけた。
それは、幾重にも幾重にも濃度の異なる青い絵の具で彩られた女性が、指にはめた指輪を愛おしそうに眺めている絵だった。
しかし、よくみても女性の顔がぼやけている。
確かに笑顔であることは見て取れる。しかし、まるでそこだけにじんでしまってきちんと描かれていないように見えた。
しかしウエイターは絵の題名を見て、納得した。
『涙の記憶』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます