保管場所

 予約の男性が一人、店にやってきた。

 注文の際、彼は「事故で」と言って後頭部を指さした。

 なんと、半分以上が陥没していてなくなっていた。

「できるかぎりで結構」

 と、通常の倍近いのメニューを平らげてその日は帰った。

 数日後、また予約をしたその男性はいたく上機嫌だった。

「正直戻るとは思ってなかったが、やはりベースが減ったからか一気に全部は思い出せないよ」

 と、今度は少し量を減らし、来店回数を増やしたいと言って退店した。

 そんな日が何か月か続いたある日。

 その男性は、予約を入れていない日に女性を連れて来店した。

 そして「できる限り生きるのに必要ない記憶を消したい」と注文してきた。

 あんなに思い出すことに必死だった男性に、ウエイターは「どうして」と聞かずにはいられなかった。

「これからの思い出を残す場所を作っておかないと、忘れるだろう?」

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