勘違い、始めました

「表の、何あれ」

 常連客の一人が、表の張り紙を指差しウエイターに質問する。

「最近、長期間のお忘れを注文される方が増えたんですけどね、あまりに一気に多くの記憶が無くなるんで混乱される方が後をたたなくって」

 ぽっかりとなくなった記憶の代わりに、近い時期の似たような記憶で埋めるようにしたのがヒットしたのをきっかけに、とウエイターは続けて話した。

「へえ、アイデア稼ぎに来てる俺には無縁のサービスだな」

「ところがですね」

 ウエイターは続ける。

「近しい人の記憶を忘れる際にはお出しできないメニューなんです」

「え? それこそ別の記憶で埋めたほうがいいんじゃあないか?」

「それだと、同じくらいの距離の人で埋め合わされて、壮大な勘違いができあがるんですよ」

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