処方箋

「すいません」

 ある青年がウエイターに声をかける。

「ああ、赤山さん。いつものですね」

 そういってウエイターは青年をレジに待たせて奥に引っ込むと、紅茶のような液体で満たされた特殊なボトルを持ってきた。

「調子はどうですか?」

「今までと違う生活を送っているという自覚だけがあります。普通の人の普段通りかと言われると分かりません」

 しかし、青年は笑顔だ。

 最初に店に訪れたとき、その顔にはなんの表情も持っていなかったというのに。

 彼は、重度のストレス障害に陥っていたのだ。

 一度や二度の食事では補いきれないそのストレスを、マネージャーの発案で「いつでも飲めるようにドリンクを定期的にテイクアウトしてはどうか」となった。

「忘れられる、ってすごい事なんですね」

「だけど、一番の治療はストレスの原因から離れることですよ」

 ウエイターは、返却されたボトルの残量を見て、心配そうに青年へ声をかける。

「はい。やっと転職する決心がつきそうです」

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