昔もなくせば今

 あるゲームメーカーのディレクターが来店した。

「俺が仕事に就いてからのゲームについての記憶を忘れたいんだ」

「い、いいんですか? 仕事に障るんじゃあ……」

 ウエイターはそのディレクターをよく知るため、無理やりテーブル係を買って出たものの、衝撃の注文内容につい口をはさんでしまった。

「今度さ、俺の友人が久しぶりに集まってゲームするんだよ。もう三十年以上前に遊んだ連中でさ。遊ぶゲームも三十年前に流行った対戦ゲームさ」

 しかしウエイターは三十年前のゲームには詳しくない。最新のものは一通り持っているのだが。

「多分今の俺がそのまま三十年前のゲームをやっても面白くないし、もう勘が鈍ってる。せめて当時の記憶で遊んでみたいんだよ」

 ウエイターにはその気持ちが良く分からなかった。だが、今目の前にいるディレクターはまるで少年のように目を輝かせていたのを見て、注文を承った。

「三十年前だと何のゲームだろうな」

 それを聞いたマネージャーが答えた。

「教えてやるから店閉めたら来い。マイコンから教えてやる」

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