無い記憶

 あるカップルがレストランを訪れた。

 なんでも、どちらが告白して付き合いだしたかが分からなくなったらしい。

「絶対俺じゃない。お前から告白してきた」

「忘れっぽいんじゃない? 絶対違うから」

 言い合ってはいるものの特に険悪な雰囲気は感じないが、それでもはっきりさせたいからこそ店を訪れたのであれば、思い出していただかなくてはならない。

 両方とも、ゆっくりと料理を食べ始める。

 片方は相手が頬張るのを見ながら。

 もう片方は、咀嚼している最中に笑顔で相手を見つめる。

 食事を終えて見つめ合う。しかし、答えは出なかった。

「もしかしてさ」

「うん、そんな気がする」

 結局、お互い告白することなく付き合いだしたことが発覚した。

「じゃあ、俺からする」

「だめ、私が」

「……痴話喧嘩は店を出てからしていただければ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る