生存バイアス
記憶喪失は、脳の働きが一時的にその機能を低下させ、生きていくために不必要な記憶をアクセス領域から遠ざける働きだという。
つまり『思い出したくない』記憶なのだ。
「それを、戻していいんですか?」
電話口で受付が再度確認する。
『はい。お願いします』
受話器の向こう側で依頼主が了承する。
後日。
依頼主の女性が父親とともに店を訪れ、ウエイターが注文を確認する。
「……では、二年前の事件の記憶を」
「はい。あの時私は母が殺された現場にいたのに、その記憶を自ら消してしまった。それをしっかり思いだしたい」
依頼主の意思は固く、ウエイターは料理を提供した。
しかし、直後依頼主はそれを後悔した。
母を殺した犯人を、思い出してしまったからだ。
「まさか二年も一緒に生活していたなんて」
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