覚えているからこそ

 ふと、ある質問をされた。

「体が覚えている記憶を消すことはできますか?」

「それは、例えば?」

「ほら、アナフィラキシーなんかは一度経験しているからこそ過剰反応するじゃないですか」

「ははあ、なるほど。コックに聞いてまいりますね」

 ウエイターは足早に厨房に戻ると、コック長に話を通す。

「うーん、どうだろう」

「あれ? 意外と難しい反応なんですね」

「いや、アレはちょっと勝手が違ってね」

「というと?」

「いや、私からお客様に説明に行くよ」

 コック長は手袋を外してテーブルへ向かった。

 数分後、少々揉めたようにも見えたがひとまず折り合いがついたようでコック長は厨房に戻ってきた。

「どうです? なんとかなりますか?」

「いや、普通の食事を提供することになったよ」

「じゃあ無理なんですか? ああいうの」

「いや、大丈夫になったからとドカ食いして再発することが多いんだよ、この手の話は」

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