食べてない

 ただ食べることが好きな男性は、いつも美味しいものを食べたくてあちこちを食べ歩いている。

 この店も、そんな彼の情報網に引っ掛かり見つかった店舗だ。

「ご注文は?」

「お薦めはなんでしょうか」

「本日は漬け味噌豚肉の卸し日でございます」

「それを使った料理をひとつ」

「かしこまりました」

 しかし男性は気になっていた。

 店頭にあった『過去の悩み、消しませんか?』という一文。

「悩みねぇ、色んな店に行ってるから、どこの店で食べたかを覚えてられないのが悩みかなぁ」

 そういっているうちに料理が運ばれ、男はペロリと平らげた。

「これはサービスです」

 皿が下げられ、ドリンクを出すウエイター。

 飲み終わったと同時に彼は動かなくなった。

 一時間もそのままなので不審に思ったウエイターが聞きに行った。

「財布を…… 忘れたようで」


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