知らない幸せ

「彼女、重い病気で余命が一年なんだ」

 男性はどこか落ち着いた様子で話す。

「だけど、僕らはそれに屈することなく過ごしたい」

 男性は連れの女性と向き合い、小さく頷く。

「病気の『余命』を聞かなかったことにして欲しい。医者にも了承頂いた。協力もしてくれる。僕らはこれを乗り越えて見せる」

「……病気を忘れる、ではなく?」

「それだと病院にいかなくなる。そうじゃない。逃げるんじゃなくて、戦うんだ」

 二人の眼差しにこもった決意の炎は、ウエイターにも伝わった。

「畏まりました。最高の一年をお過ごし下さい」


「そこから半年くらいは毎週通っていた二人は、一年後ぱったり来なくなった」

 話し相手のウエイターは二人のその後を察した。

「三年後には三人になって来店したけどね」

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