第14話「最低最悪の招待状」
「センパイの部屋って、遊び心がないッスね」
「遊び心?」
「そうッス! 例えば、お菓子で作るとか」
「やっぱりロールって、バカだな」
返事をする必要すら感じられない提案に、俺はやや厳しいツッコミを入れてベッドに寝転んだ。
晩ご飯を食べて、風呂に入って部屋に帰って来た瞬間にこれである。
流石のロールも、俺のプライベートまで浸食するつもりはないらしい。大人しく部屋で待っていた。
ただ、それが嫌だったらしい。
「暇ッス! 何にもないじゃないッスか、この部屋は!」
なんて文句を言いながら、ロールはぐるんぐるんと飛び回る。
何にもないわけじゃないと思う。まぁ、ロールの興味を惹くかは別として。
「分かった。次はなんか考えとくから、な?」
「……約束ッスよ! こぉんなに可愛い後輩を放置なんて、酷いセンパイッスよ」
「はいはい。もう突っ込まないぞ」
身体を起こして、俺はロールを見る。
自分の部屋に女の子が一人いると思ったら、とんでもない状況だな……。
不幸中の幸いとして、ロールはそういうのに疎そうだった。だから、俺も変な気にはならない。
妹みたく思えるし。
「そういえば、センパイ。自分決めたッス!」
「……? 何をだ」
ロールはふんすー、と鼻息を荒げた。かと思えば天井に向けてピシりと人差し指を突き立てる。
どうやら、そこまで前振りして言う価値のあることらしい。
ほどほどに期待して俺は次の言葉を待つ。
「自分! マイちゃんを笑わせるッス!」
「……これまた急だな、無理だろ」
「なんでそんなこと言うんッスかー!」
期待していた返事ではなかったからか、ロールはほっぺをぷっくりと膨らませた。
俺としては突然そんなことを言うロールに驚きなんだが……。
「誰も笑った顔を見たことがないんだぞ? そもそも、藤坂だって別に笑わせて欲しいわけじゃない」
「かぁ~、これだからセンパイは……」
大きなため息を吐いて、ロールは首を左右に振った。
「俺だって藤坂とは仲良くなりたいさ。せっかくだし」
「じゃあ、仲良くすればいいじゃないッスか」
「俺みたいなのと、藤坂がつるむと思うか?」
「むしろ、つるまないんスか?」
ロールは不思議そうに腕を組む。
このポジティブモンスターは……やっぱりコミュニケーション強者だな。
自分で言うのもあれなんだが、でもロールには俺の考えを伝えとかないと。
「藤坂は俺とは違うんだ」
「そりゃ違うッス。センパイはセンパイでマイちゃんはマイちゃんッス!」
「あのなぁ、そういうわけじゃなくて……」
と、ここまで言って俺の言葉は途切れた。
俺の言いたいことはロールには伝わらないんじゃないか? って思ったからだ。
藤坂に感じている劣等感も、羨望も、多分ロールには分からない。
俺が何をしても絶対に届かない領域にいる藤坂。そんな彼女の友達になって仲良くするなんて俺には考えられない。
だって、藤坂だって嫌だろうし……。
「ともかく、俺は手伝わないからな。ロール一人で頑張れ」
「もーう、変なセンパイッス。言われなくても頑張るッスよ」
一人で拳を天に突きつけるロール。おー、なんてかけ声までセットだ。
まぁ、頑張ることはいいことだとは思う。
それが実らない努力でも……な。
ロールの言葉に付き合いつつもう寝ようかと思った矢先、電話が鳴り響く。
着信が来るなんていつ振りだろうか。大体、SNSだとかなんとかに連絡手段を頼りきっているため、電話の電話機能を使うことは少ない。
まして、自分からかけるならまだしも誰かからかかってくることなんて本当になかった。
それも、こんな時間に。
「誰からッスか?」
「さぁ?」
もちろんというか、番号に見覚えはない。
まぁ電話番号を知っている人間なんていないんだけど。一応、出た方がいいと思った俺はボタンをタップして電話を耳に当てた。
「やぁ、昨日ぶりだねぇ。元気?」
「……屋流、先生」
聞こえてきたのは予想の十倍くらい嫌な相手。
これなら迷惑電話だとかなんかの方がよっぽどよかった。だって、屋流だぞ!
思わず、赤いボタンをタップしてしまいそうになるがグッとこらえた。
俺、偉い。
「そーそー、ボクだよ。ボク、ボク」
「新手の詐欺か何かですか。どうやって俺の電話番号を……」
「あぁ、それ? ま、教師権限って奴さ」
電話越しでも気怠げな屋流は、職権乱用を自慢してきた。
普通に犯罪じゃないんだろうか。
今更、このダメ教師にそんなことを言ってもしかたない。
「で、何のようですか?」
「はぁ。冷たいねぇ。せっかく、明日ボクの店に招待してあげようって言うのにさ」
「結構です」
即決で断った。
どうして、俺が屋流の店なんぞに顔を出さないといけないのか。
というか妙に上から目線なのも腹が立つ。
「ははは。そんなに冷たいこと言わないでよ。美味しい珈琲でもごちそうするしさ」
「美味しいって言ってもインスタントでしょ」
「ボクのお手製」
「余計に結構です」
清潔感の欠片もないような男が淹れる珈琲に一体何の価値があるっていうんだろう。
「ええー。本当に? 来ないと一学期の理科科目の成績ゼロにするよ」
「はぁ!?」
「教師権限って奴さ♪」
「ぐぬぬ……」
この男、人間として限りなくクズだ!
こうして俺は自分の成績を人質に取られ、明日の朝一で屋流の店に連行されることになってしまった。
はぁ、最悪。
その割にロールは凄く楽しみにしているみたいだった。
なんでだよ!
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