ビッグ・アップルとダブルアップル
「まぁ他の飾り切りは面倒なんだけど。ビッグ・アップルって普通はウォッカベースだけど、もう一つレシピがあるのは知ってる?」
「それは知りませんでしたわ。紛らわしくありませんの?」
「何も言われなければウォッカのリンゴジュース割りを出すよ。もう一つはカルヴァドスをシャンパングラスに注いで、冷えたシャンパンで割るの」
「まぁ、エレガントなレシピですわ! 是非それを――」
「もちろんシャンパン一本分の代金も上乗せするけどね!」
「やっぱりやめておきますわ!」
「じゃあ間を取って、カルヴァドスのリンゴジュース割なんてどう?」
「あらおいしそう、お願いしますわ。それにそのリンゴジュース、瓶が丸っこくてかわいいですわね」
「かわいいでしょ、マーティネリの100%アップルジュース。透明タイプで見栄えいいし、量が丁度いいんだよね」
「わたくしは濁ったタイプも好きですわ。オレンジジュースなんかの透明タイプは果汁が少なく感じますの」
「どっちもパルプって繊維質をろ過しただけなんだけどね。はい、レシピブックには載ってないから、名付けてダブルアップル」
「とってもリンゴリンゴしてますわ! 名前もナツさんにしては気が利いてますの」
「失礼だなぁ。そういやタバコのフレーバーにあったダブルアップルだけど。あれはリンゴ味じゃなくてリコリスとアニスの味だよ」
「えぇっ!? リンゴ要素ありませんわよ?」
「どっちもヨーロッパ人好みなイメージあるよね。手巻きタバコよりシーシャでメジャーなの」
「シーシャって何かわからないけど合法ですの?」
「水タバコのことだよ……なんであれ、葉っぱがタバコなら合法だからね?」
「ああ、水タバコ……アラブのお爺さんが壺に刺さったホースくわえてるやつですわね」
「中東発祥だから。その雑なイメージも否定しないけど。世界中にあるし日本でも人気出てきてるよ。1時間は吸えるし、葉巻よりお安いからおすすめ。かく言うわたしもシーシャはたしなむの」
「あらびっくり。ナツさんはタバコ吸わないと思ってましたわ?」
「水を通して煙が冷えるし、使うタバコはニコチンとタールを減らす処理されてるからタバコって感じは薄いかな」
「でも煙モクモクのイメージですわよね? 傍目には違いがわかりませんわ」
「わたしも普通のタバコは吸ったことないからなぁ……そもそもタバコって実は煙が主目的じゃないんだよ」
「煙のイメージしかありませんわよ?」
「タバコの主な効果は、なんといってもニコチンによる覚醒とリラックスの作用だね。
紙巻きタバコの仕組みで説明すると、火の熱でまだ燃えてない葉っぱからニコチンを乾熱抽出して吸い込み、肺から吸収してるの。煙はその過程で吸い込むだけ。
それを電子加熱で無煙にしたのが加熱式タバコだし、スヌースとか嗅ぎタバコみたいな火を使わない……起きてー、お蝶さん!」
「んにゃぁ……理系の話は苦手ですわぁ。なら煙はない方がいいですの?」
「それがそうでもないの。煙を吸い込む感覚自体が好きな人もいるし、葉巻は煙の香りを楽しむものだからね。ちなみに葉巻のニコチンは口の粘膜から吸収されるよ」
「煙たくて喜ぶ人がいるなんて、世の中は広いですわ……」
「わたしはわからなくもないな。シーシャの煙は『重い・軽い』って表現するけど、慣れるほど重たい煙を求めるようになる」
「玄人あるあるですわね。ナツさんはどこでシーシャを楽しんでますの?」
「シーシャバーってのがあってね。煙たくないし服もヤニ臭くならないよ。あ、でもタバコには違いないから健康上の諸注意は同じだし、二十歳になってからねっ!」
「誰に注意喚起してますの、バーに未成年などおりませんわ……ところであれって、どうして水がブクブクするのですわ? 水を吸い込むことはありませんのよね?」
「シーシャの仕組みはね、炭火の下にタバコがあって、その下に延びたパイプが壺の水の中まで続いてる。吸い口は水面より上にあるから、吸い込むと壺の中の気圧が下がった分、煙が水中に……ねぇ起きてー、お蝶さん!」
「んぅぅ? 寝てませんわよぉ」
「まったく、自分で質問しておいてー」
「文学者ですもの、理系は苦手なのですわー。ナツさんがそんなに水タバコがお好きなら、お店に置けばいいじゃありませんの?」
「たばこ小売販売業の許可が必要だから、めんどいのよ。古い法律だからさ、袋小路の店はダメとか近くにたばこ屋さんあったらダメとか、いろいろあって。あと、この店だと狭いね」
「しっかり調べているではありませんの」
「う~ん、お客さん来ない時に吸えるのは魅力だと思って」
「お店に置くことになっても、おかしな葉っぱ混ぜてはいけませんわよ? 水タバコ、わたくしも気になって参りましたけど、リコリスとアニスは苦手ですわ……」
「メジャーなフレーバーはミントとかアップルだよ、普通のリンゴの方ね。フルーツ系が多くて、ベリーとか柑橘もちゃんとフルーツしてる」
「柑橘なら試してみたいですわ。ダブルアップルみたいな罠は他にありませんの?」
「ダブルアップルも上級者には人気で定番なんだけどね。変わり種だとメロンとかバラとかはペルシャ感あるね」
「確かにペルシャ感ありますわね。最初のイメージに戻りましたわ……はーぁっ、少し酔いましたわ。すっきりするものはできるかしら?」
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