第54話 別行動
目的地は決まった。まず、ツァンナさんの知り合いの人の屋敷へ。
「チイって名前だ。確か将軍だか将校だか、詳しくは覚えてねえが家はデカイ。オレも会うのは結婚式以来だが、亜人差別はしねえ奴さ」
その街までの馬車が出ていたから、貸し切ってもらった。代金はツァンナさん持ち。私達のお金は全部ゲルドにあげちゃったからなあ。
貸し切れるほど払うと、差別されにくいらしい。ツァンナさんの処世術だ。
「まあ、そもそもイクサはそうだよな。『強けりゃ良い』。見ろ。また看板だ。募集してるぜ」
「ここいらの募集は全部新政府軍だな。他の反乱軍へ行きたいなら西側だ」
「ヴァイトさんはどっちだったの?」
「正規軍だ。つっても、何個かあったぞ。敵は反乱軍だけじゃなかった」
タキちゃんの質問。私も、その時の話は詳しく知らない。
「イクサには、『自分達が正規軍だ』と主張する組織が3つある。歴史的に昔から統治してた『旧王国軍』と、中央諸国から認められた『新政府軍』。そして、旧王国統治時代の革命軍が母体の『イクサ自警軍』」
「なんだそりゃ」
「えー。めちゃくちゃじゃん」
ツァンナさんの解答。物知りだ。
「国際的には、『新政府軍』が正規軍、国軍と呼ばれるが……。この問題は根深い。さらに反乱軍と纏めて呼ばれる組織がいくつもある。全員がイクサの主権を狙ってる。……争いが絶えない理由だ。戦国時代なんだよ」
「戦国時代……」
その時。
ガン、と屋根が揺れた。それから、荷車にユクちゃんが入ってくる。着地の音だ。
「確かにめちゃくちゃかもね。わたし以外にも飛んでる人達が居た。取り締まってないの?」
「……ああ。『軍事作戦上』であれば『翼人族の飛行』は制限されない。戦場での人殺しが正当化されるように、な」
「………………そう」
戦争なら、ユクちゃんは法律を気にせず飛べる。
自由に飛べるのは喜ばしいことなのに。
「つまり。そんな『なんでもあり』なこの国で、『味方の志願兵を殺すほどの亜人差別』をする組織や人間。お前らの復讐相手はそんな奴だろ」
「ふむ。絞れそうではあるな。後は、差別以外の理由――――」
「……? ヴァイト?」
ヴァイトが。
なんだかこの前から、じっと私を見てる気がするんだ。
今なんて話の最中で。
「…………ツァンナ」
「おう?」
私から目線を切らずに。
「相手は魔人か機人だ。間違いない」
「? どうして分かる」
「…………勘だ」
「………………まあ、考慮はすべきだな」
「ヴァイト?」
それから。
街に着くまで、ヴァイトは黙ったままだった。
■■■
「ツァンナ!? どうしてこんな所に……。あいつはどうしたい」
「死んだ。オレは脱走兵だ。匿ってくれ」
「はぁ!?」
新政府軍領、ガーラスの街。街自体は戦争しているような雰囲気は無かった。家屋は木造建築が多い。石畳が敷かれた街。
その中心部に、立派なお屋敷があった。男爵や伯爵の屋敷よりは小さめだけど。
「――事情はなんとなく分かったい。ワシとお前の仲だい。入れ。詳しく話を聞こう」
「感謝する」
「ワシはチイ・タイカー将軍。といっても情報将校だい。南の神山関所を睨み続ける役をしておる。……まあ、事情があって今の所は街に危害は無さそうだがない」
チイ将軍。失礼だけど、とても背が低い男性だ。整えられた立派な黒いヒゲが特徴的。
「南の関所は新政府軍の領内ではなかったか?」
「2年前に、厄介な魔人がやってきた。旧王国軍だ。奴のせいで関所は奪われ、入山できなくなったい。ようやく中央から魔人を呼べる準備ができたというのに。魔獣肉の『輸出国』としての地位を狙っていたワシら新政府軍は出鼻を挫かれた形となるんだい」
イクサには、まだ魔人は少ない。けど、同盟国の中央から魔人を借りてくることはできる。魔人の軍事運用には魔獣肉が必要。それを中央で賄おうとすると莫大な費用になる。だから、イクサが自分達で魔獣肉を確保生産できるようになると、魔人を雇いやすくなる。
……ってことだよね。
そして、その要だった『神山』の入口を、旧王国軍に取られた、と。
だから、新政府軍は魔人導入が遅れてて、当時のヴァイトも魔人のことを知らなかったんだ。
「なら、一石二鳥だな。俺がその関所を取り返す。魔獣肉も余分に仕入れてやるよ。どうせ魔人が居なきゃ魔獣を狩れねえだろ。その代わり、だ」
ヴァイトが嗤った。
その魔人を倒すつもりだ。
「……赤い髪。巨大な魔剣。まさか『魔人ヴァイト』かい……?」
「そうだ。俺の名前、どこまで広がってんだ」
チイ将軍は驚いていた。
「名前だけは。過去に新政府軍が雇ったことがあると。……また、戦ってくれるのかい」
「いや、俺の目的は復讐だ。ええと……。ツァンナ、説明頼んだ」
「…………」
■■■
どうやらヴァイトの『魔人』という二つ名はイクサで付けられたものらしい。劣勢だった新政府軍に雇われて、暴れまわったから。そりゃ、ヴァイト相手に普通の兵士じゃ何人居ても太刀打ちできない。それが今日までの膠着状態を作る要因のひとつでもあるとか。
そんな理由で、新政府軍はヴァイトに対して協力的らしい。チイ将軍は早速、復讐相手を捜す手筈を整えてくれるらしい。
正にトントン拍子。
志願兵時代は魔剣持ってなかったのに。全くとんでもない人。
「さて。じゃあ行くか。ここで時間を潰す意味も無え。ツァンナはどうする? チイのおっさんと思い出話してても良いぜ」
「バカ言え。相手は魔人なんだろ。オレも行く」
休憩もそこそこに、ヴァイトが魔剣を担いで立ち上がった。
「ねえ、ここを拠点にできるならミツキちゃんは魔界に行かなくて私達と一緒で良いんじゃ?」
そこへ、タキちゃんの質問。それに対してヴァイトは。
「いや、ミツキはこっちだ。俺はなんとなく分かり始めてきた。ミツキは『牙人族』だからな」
「……?」
その返答の意味は分からなかったけど。
私も、ヴァイトとツァンナさんに付いて屋敷を出た。
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