ノホウ城
第50話 モヤモヤの旅
夜。皆が寝静まった頃。
「ん…………」
なんだか起きてしまった。テントにはユクちゃんも戻ってきていて。見張りはキャラバンの人達でしてくれている。魔人が必要な非常時なんて、人界では殆ど無い。何かあっても、叫べば飛び起きてくれるし。ヴァイトはバカみたいに眠っているけど。
マモリさんは……居ない。
私は川で顔でも洗おうと、テントから出た。
■■■
「待っててくれたんですか」
!
びっくりした。すぐに隠れた。誰も居ない筈の川辺りに。
マモリさんとヴァイトが居た。
あれ、ヴァイト? 今の今まで寝てたじゃんか。
「遅かったな」
「あはは。ツァンナさんの魔剣、結構状態悪くて。まあアタシは昼は仕事無いので、明日は休んでますよ」
「…………流石に、『俺ひとり』の範疇超えてんだよな。いや、ずっと前に」
「気を遣わないでください、なんて。……アタシも言いたいですよ」
「はは。柄にもねえが、感謝してる。お前が身体張ってくれてるから俺達ゃ生きて、安全にイクサへ行けそうなんだ」
「アタシだけじゃないですよ。ユクちゃんの偵察もトミちゃんの護衛もタキちゃんの採集も、条件です。勿論、ヴァイトさんだって元気になったならこれから護衛しないと」
う、盗み聞き。
でもちょっと、気になる。
マモリさん、髪が濡れてる?
あ、洗ってたんだ。
「じゃあ、ひとつ良いですか」
「おう」
「抱いてください」
えっ。
わっ。
ええっ!
「…………」
「娼婦は、もう辞めたんですよ。ヴァイトさんに助けてもらって。だから。アタシはもう、『魔剣技師』なんです。……頑張ってるので、ご褒美が欲しいです」
「…………まあ、な。俺に拒否権はねえ」
「えっ。本当に良いんですか? 断られるかと思った」
「別に、たかが交尾だ。食ってヤッて寝るのが生物だろ」
「…………ロマンの欠片も無いですね。もうちょっとなんとかなりませんか」
「……待てよ、『ご褒美』なら俺はユクもトミもタキも誘われたら拒否できねえじゃねえか」
「今日はアタシがミツキちゃん代わって言います。……バーカ」
「……あ、ただな」
「?」
■■■
これ以上は耐えられなくて、すぐにテントに戻ってうずくまった。
全く、眠れなかった。
■■■
「今、ユクさんから連絡が入った。イクサへ抜ける二本道の内、山側の道で崖崩れが起きて通れないと。分かれ道はまだ先だが、そんな立て看板があったらしい。クォ国政府のマーク付きだ」
「おう。ならもうひとつの道になんだろ?」
次の日。
ヴァイトも。マモリさんも。
何事もなかったように。
私は朝から寝不足で、頭も回らないし。なんだか変だ。
うう……。
「そっちはそっちで、盗賊の根城があるんだ。使われなくなった古城なんだが、正直商人は近寄りたくない」
「なら、俺達の出番だな」
「…………頼めるか? キャラバンにとってもイクサに行けないのが一番キツい」
「任せろ。キチンと『仕事』するぜ。俺も」
ヴァイトとキナイさんの会話。盗賊の根城……。
まあ正直、ヴァイトひとりでなんとでも解決できると思う。魔人に勝てる訳ないもの。
「じゃあ、進路変更。古ノホウ城へ向かう」
「ま、オレひとりでも良いけどな」
「俺の仕事取んなよツァンナ」
「そうかい。頑張んな」
■■■
それから、数日。
特に何事も無く、旅は続いた。私ばっかり、もやもやして。他の皆はいつも通りで。
私。
私は……。
「あれが城か? なんか崩れてねえか」
「ん……確かに。前見た時よりボロボロだな」
今日は霧が濃い日だった。
森の奥に、うっすら石造りのお城が見えた。大きい。昔の人がこんな大きな建物を造ったなんて。
「待てストップだ。死体だ」
「!」
ツァンナさんが声を出してキャラバンを停止させた。なんだなんだと、皆が降りる。私も。
「ユク。異常あったか」
『うん。今戻る。なんか、変』
通信機越しのユクちゃん。
古城まで、あと数キロの地点。
「……人の死体?」
「だな。無造作に転がってる。盗賊か?」
「いや、人の武器じゃねえ。これは牙や爪だ」
街道に、バラバラになった遺体のパーツ。
「ユク」
バサバサと、ユクちゃんが戻ってきた。そして、ヴァイトの胸にダイブ。
「どうした」
「分かんない。『凄く凶暴な動物が居る』くらいしか。……盗賊は殆ど全滅だと思う」
「ほう?」
ここはもう、イクサの近く。
ツァンナさんが、腰の双剣に手を掛けた。
「魔獣だな。臭いがする」
「マジか。野生の魔獣? ここ人界だろ」
ヴァイトも、隣に立つ。嗅覚は、ツァンナさんの方が鋭いらしい。
「魔獣!? わたし達の出番ってこと?」
「トミ。お前はここで皆を守ってくれ」
「えー。また?」
トミちゃんが興奮気味にやってくる。けど、ヴァイトはそれを制した。不満げなトミちゃん。
「というよりな。お前が魔人になってくれたから、俺は自分の戦いができるんだ。ありがとな。トミ」
「…………むむ。そう言われちゃうと悪い気はしなーい!」
一瞬で笑顔満開になったトミちゃん。彼女も、ヴァイトのこと好きだったよね。
「さて。行くか。こっち来てから魔獣は狩ってねえな」
「魔人ヴァイトの戦い、見せてもらうぞ」
「好きにしな」
私達は、ここで待機。
「魔獣は、人間の軍隊でも持て余す『化け物』だ。俺達じゃどうしようもない。頼んだぞ、『魔人』のおふたりさん」
「任せろ」
キナイさんに見送られて、ふたりは古城の方へ向かって、霧のモヤモヤの中へ消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます