第49話 終わらない復讐

「…………ここはどこだ」

「起きた?」


 街道を走る馬車。といっても、町中ほど整備はされていない。ガタガタと揺れる。それで、ヴァイトが目を覚ました。


「通りがかったキャラバンに乗せてもらえたの。イクサまで行ってくれるんだって」


 テントの掛かった荷台に、ヴァイトは大の字になって寝ていた。私とタキちゃんとトミちゃんは、彼を囲むように隅に座って。


「大丈夫かお前ら」

「うん。皆無事。トミちゃんも、さっき起きて魔獣肉食べたら呪いは治まったよ」

「うん。いや、凄いね呪いって。死ぬかと思った」

「…………だろ。これが一生だ。覚悟しろよトミ」

「うん。大丈夫。今度はもっと上手く力を使うから」


 このテントには私達の荷物も全て置かせてもらっている。というか馬車ひとつ、御者さん付きで貸してくれたようなものだ。諸事情で、元々荷物は少なかったらしい。キナイさんがそう言ってた。


「……ユクとマモリは」

「ユクちゃんは偵察。それが乗せてくれる条件のひとつだから。このキャラバンは殺人族しか居ないから、翼人族の偵察力は羨ましいって」

「そうか。まあ、姿を消す機剣あるなら国の中でも飛べるか。……マモリは?」

「マモリさんも、条件で。魔人の女の人の魔剣を見てる」

「なるほど。…………『仕事』か。俺、したことねえんだよな」

「…………」


 ヴァイトは起き上がって、横にある木箱に立てかけてあった魔剣を触る。


「しねえとな。今回は俺のミスだ。奴らは強かったよ。……機人レクト」

「…………」


 目的地には向かえている。皆無事で、大きな怪我も無く。敵は撃破して、武器を鹵獲して。

 順調とも言える。


 なのに。






■■■






 夜になった。まだまだ森の中。キャンプを張ることになった。タキちゃんの条件で、食材を集めて。


「ヴァイトだ。あんたがボスだな」

「キナイだ。もう身体は良いのか?」

「まあな。肉食えりゃ充分だ。魔人俺らの身体はいい加減だからな」


 改めて、キナイさんに挨拶に来た。


「悪いな。で乗せてもらっちまって」

「良いさ。ウチの連中も喜んでる。ウチは華が無かったからな」

「あの女は?」

「ああ。別にキャラバンのメンバーじゃないのさ。ツァンナ!」


 皆で火を囲む。トミちゃん達は商人さん達とおしゃべりしてる。

 キナイさんに呼ばれて、ツァンナさんがやってきた。


「起きたのか魔人ヴァイト。随分と不適合反応が進んでるみたいだな」

「不適合……ああ、呪いか。分かるのか」

「『呪い』。その言い方、牙人族の宗教らしいな。……オレはツァンナだ。お前と同じ魔人。お前と同じで未承認だ」

「未承認?」

「中央の承認が降りてねえ、つまり『野良』『不正』『非合法』の魔人って訳だ。大抵は魔剣かっぱらった盗人だな」

「なるほど。俺の魔剣は俺用に打って貰ったが、その前のジジイの剣はどっかから盗ってきたかもしんねえな」

「ジジイ?」

「ああ。ファングって鱗人族のジジイだ」

「…………ファングのジジイだと?」

「知ってるか?」


 ツァンナさんはどかりと、勢いよく腰を下ろした。

 私を挟んで。

 うっ。ヴァイトとツァンナさんに挟まれてる。なんだか圧迫感……。


「オレのこの魔剣。打ったのがファングだ」

「なんだと?」


 腰の左右の大きな二刀。


「鱗人族のファングっていや、『魔剣打ち』。それも名工だ」

「……マジか。全然知らなかったぞ」

「逆に訊くがお前はファングとどこで会った」

「育ての親だな」

「…………それこそ、『マジか』だな。あの偏屈ジジイが」


 会話に入れない。うぅ。居心地悪い。


「なら、ジジイの最期は」

「ああ、ジジイはガキをふたり拾ってた。そのもうひとりが殺したのさ」

「は?」

「安心しろ。そいつはこの前殺した。シーハ国のゼイだ。あの伯爵だよ」

「ちょっと待て。『マジか』が多過ぎる。何なんだお前一体……ヴァイト」

「この旅も復讐だよ。俺のを殺した奴を追ってイクサへ向かってる。女子供達はその途中で、俺に着いてくると決めた奴らだ。ああ、このミツキはそのの妹だ。だから、俺とミツキの旅だ」

「………………ハッ。復讐か」


 いきなり呼ばれて。ツァンナさんに見られた。

 変なやつを見る目で。


「お前らこそ、何だってイクサに? 戦争中だろ」

「だってよキナイ」

「あー。こっちもこっちで訳アリなんだ。俺達はつまり武器商人。あっちのもうひとつの荷馬車の中身は全部武器なのさ」

「ほう。儲かりそうだな。魔剣はねえのか」

「流石にねえよ。市場には流れねえ。中央が厳しく管理してんのさ」

「ならあんたの魔剣は? ていうか市場に流れねえならジジイはなんで魔剣なんか打ってたんだ。中央が知ったら取っ捕まるだろ」

「………………ヴァイト。今のお前の反応でオレは得心がいった」

「あ? …………あー……。そういうことか」


 魔剣は、そもそも魔獣の素材を使うから、人界中央では入手困難だ。イクサなら、中央に近くて魔界も近いという地の利がある。

 ……んん?


「どういうこと?」


 訊いてみた。


「ジジイは中央に見付かって、連れて行かれる所を拒否したから暗殺された訳だ。んで、その手柄をもってゼイは領地を与えられたと。シーハ国はどっか中央の国の属国なのか?」


 そういうこと。

 ……私が頭悪いの、牙人族亜人だからかなあ。

 普段ヴァイトをバカとか言いながら。ヴァイトの方が頭は回る。やってることがバカなだけで、私より……。


「ああ。ポリティ国じゃねえ。シーハを実質支配してんのは、タイヨウ国だ」

「!」


 その時。

 ヴァイトの目が光ったような気がした。


「……良いね。イクサで復讐終わらせたら向かうつもりだった国だ。間接的に、ジジイの仇って訳だな」

「ヴァイト……」

「なあミツキ。復讐ってのは終わらねえなあ」


 なんで。

 ちょっと嬉しそうに、そんなことを言うんだ。


 バカ。

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