人界―クォ国
東側国境付近
第45話 機人強襲
一部始終を見てた。
最初。
ヴァイトは、警備隊の人達と話していて。
案の定、揉め始めて。
「大丈夫かな……。ヴァイトお兄ちゃん」
「大丈夫じゃないよ。多分、ここでまた暴れることになる」
「…………」
ヴァイトと『人間』は、相性が悪い。それはきっと、人界の奥へ進むほど。中心へ向かうほど。
両者は、相容れない。
「あっ」
「え……?」
ばさり。
翼の
「ユクちゃん!?」
「…………あのね、ミツキちゃん」
振り返ると。タキちゃんが。
「もう、見えなくなっちゃった。ユクちゃん」
「そんな……?」
『あっ』って。あれはユクちゃんの声だった。何か見たんだ。気付いたんだ。けどもう、分からない。飛び去った。
トミちゃんが一層、私達を守るように剣を抜いた。まだ、警備隊には見付かっていないけれど。
「ぎゃぁぁあっ!」
「!」
そこへ。
ヴァイトの方向から、悲鳴が聴こえた。また殺したのだろうか――
違った。
「あれは……っ」
ヴァイトは、魔剣を抜いていた。剣の腹を使って、防御の態勢を取っていた。その視線の先は、上空。
「人が飛んでる!」
白い……鎧? に身を包んだ男の人が、空中を滑るように飛んでいた。羽根は無い。なのに飛んでる。意味がわからない。
「はっはーーっ! 流石の『魔人ヴァイト』も、空を飛ぶ敵には手も足も出ないか!」
「…………!」
高笑い。
変な形の鎧だ。四角い箱がいくつか繋がったような。
まさか、機械?
空を飛ぶ機械。
その人は白い長剣を持っていて、ヴァイトの周囲を鳥……いや、蜂のように飛んでいる。警備隊の人達は、彼に斬られたんだ。ヴァイトの魔剣だったら、もっと肉の破損が激しい筈。
「……凄えな。魔剣の持つ異能ってのは、人も空へ飛ばすのか」
ヴァイトが驚く。
魔剣。あれもそうなのかな。でも、魔獣の素材は見当たらない。全てが、人工物のような。
「はっは! この俺の『機剣【
「あん? 魔剣じゃねえのか」
ガキン。
お互いの剣がぶつかる。ヴァイトは受けて2撃目を狙うけど、即座に上へ避難される。ヒットアンドアウェイ。
空へ逃げられれば、ヴァイトの剣は届かない。
「そらそらそら! 対応できんだろう! この高度! 速度! 太刀筋ッ!」
「ちっ。楽しそうだなァ」
上から、横から、長剣が飛んで襲い掛かる。ヴァイトは冷静に、来た攻撃を都度はたき落としていく。どちらも、致命打には届かない。
「上を向いて戦った経験は無いだろう!? そろそろ疲れてくるぞ。俺にとっては空は安全圏! お前が死ぬまで、狙い続けるぞ!」
「おう来いよ。俺が珍しく平和的に『交渉』してた所を邪魔しやがって。お前がそうして疲れて降りてくるのは何日後だ? 付き合うぜ」
「はっは! 強がりを――!」
ガリッ。
「?」
私は見ていた。横から。だから見えてた。
この、白い鎧の人は。ずーっと、ヴァイトを。つまり地上を。下を見てたから。気付かなかった。
ヴァイトは見えてたんだ。だから、余裕だった。悟られないように、挑発しながら。
その人は得意気な表情のまま、後頭部がパックリ左右に割れて。
頭の中身を撒き散らしながら、静かに死んで地面に落ちた。
■■■
「ユク! 危ねえぞ無茶すんな」
「……ヴァイトさん、ピンチだったでしょ」
「ん……。まあ正直持久戦以外に手立ては無かったな」
「こんなところでのんびり何日も戦っていられないでしょ」
ガシャン。
色んな細かい部品が沢山落ちたような音。それから、ヴァイトがその人にトドメを刺して。
ユクちゃんが着地した。
彼女が。敵の人を倒した。殺した。その、猛禽類のような足の爪で、頭を割って。
「ヴァイトさん!」
「マモリ。こいつの武器知ってるか。魔剣じゃねえらしい」
「ツガさんの所でも作ってましたよ。これ、『機剣』って言います。魔剣と魔人みたいに、使用者のことを『機人』と。機械の武器です」
戦闘終了。マモリさんが茂みから飛び出していった。周囲に他の警備隊も居ない。国境を越えるなら今がチャンスだ。
と。
私も行こうと立ち上がって。
「えっ」
「ふむ。何かに注意を向けさせて不意を突く。定石だな。あのトンボ野郎は馬鹿だったなあ」
肩を。強く掴まれた。
誰に!?
「魔人ヴァイト!!」
「!」
至近距離で、大声。男の人。身体が萎縮する。
見ると。タキちゃんは既に捕まっていて、鉄製のロープで拘束されていた。トミちゃんも、魔剣を振るう暇もなく、手錠を掛けられている。
カシャン。私にも手錠。
「んーー!」
「気を付けろよ。食い千切られないように」
「はっ!」
さらに猿轡。駄目だ。食い千切れない。特別な素材。
男の人に、部下の人が居る。3人。タキちゃんとトミちゃんと私を、拘束して。
大声の人が、ヴァイトを呼んだ。
「……まだ居たか」
「お初に。魔人ヴァイト。俺はポリティ国機人部隊新入りの機人。名前はレクトだ。……いや、今隊長が死んだから繰り上げで俺が隊長か?」
「んー……。国も何も分からん。ミツキ達に何してやがる。――殺すぞ」
「はは。分かりやすい獣のような殺意だな。話はよく聞いていたんだ。魔人ヴァイト。『人質』を取るとお前はどうするんだろうな。この亜人達を殺されたくなければ魔剣を捨てて投降しろ」
「…………」
ユクちゃんとマモリさんは、動けない。ヴァイトの邪魔になるから。それに、動くとどうなるか分からない。人質は3人。ひとりふたりくらい、気紛れに殺されてもおかしくない。
ヴァイト。
ヴァイト……。
油断した。いや、トミちゃんに全部、警戒を押し付けてた。私のせいだ。もっと広く、周囲を見なきゃいけなかった。ちゃんと、進むべきだった。まさか空を飛ぶ敵と。こんな、気配もなく背後を取る敵だなんて。
叫べない。私は何もできない。ヴァイトは。
この、機人の要求に。
「はいよ」
「!」
あっさり、応えた。新調したばかりの魔剣を、手離して。両手を挙げた。
「ふん。魔界の住人とは言え、仲間は大事か。良いだろう。奴の魔剣を回収しろ。拘束具もだ。あと死体処理。飛行船を呼べ。今日中にポリティ国へ帰還する」
「はっ!」
ヴァイト……!
部下の人達が、ヴァイトを拘束する。え、終わり? これで……?
確かに、殺されるけど。でもそんなの。ヴァイトは。
「トミ!」
「!」
笑ってた。あの。不敵な。
「叫べ」
にやり、と。
そうだ。トミちゃんの魔剣は。その異能は。
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