第26話 真剣な恋バナ
「ちょっ……。ちょっと待って皆、どうして!?」
「「強いから」」
「!」
口を揃えて。
特に、トミちゃんとユクちゃんが積極的だった。
「えーだって。ヴァイトお兄ちゃんかっこいいし強いし優しいしー。守ってくれそうだし!」
トミちゃんはニヤニヤした顔を抑えながらくねくねして答えた。トミちゃんそんな風に思ってたんだ。
「メイヨもだよね?」
「……あたしは、普通に顔が好み。まあツキミちゃんのことがあるから、その辺りは諦めてるけど。もし『できるなら』でしょ?」
「タキちゃんは?」
「うーん……。まあ、強いからねー。故郷まで届けて貰った後、集落の皆に事情を話して、ヴァイトさんの強い子種、欲しいと思う。異種族間の掛け合わせは、女の種族で生まれるから。集落でも多分、ヴァイトさんはモテる」
「こだっ……!」
なんという会話を。私より幼いこの子達が。
「ユクは?」
「…………」
ユクちゃんは、話を振られて。言葉を選んでいるように見えた。
「……現状、わたし達は旅のお荷物。特にわたしは、ひとりじゃ何もできない。食事も着替えもできない。いつでも、置いていかれる可能性がある。究極の決断を迫られた時、真っ先に切り捨てられる。それは事実」
「えっ。そんな……」
「あたしユク見捨てないよ絶対!?」
抗議の声に、頷いて。でも。
「ありがとう。でも事実。……わたしも、その状況になればそれを望むし、皆の足を引っ張ることはしたくない。けど、わたしは生きたい。生きて、故郷に。それだけ考えてる。何年先になるかは分からない。わたしは前から、ヴァイトさんの気が変わる前に、ヴァイトさんを誘惑するつもりだった」
「!」
真剣な表情だった。
「今はまだ、身体も子供だけど。成長して、『女』になったら。だってヴァイトさんの妻になれば、絶対に『守ってくれる』。それが確定してる。わたしが、必ず。何があっても。なんとしても、故郷に帰る為に」
力が籠もっていた。タキちゃんより、深く。ヴァイトを睨むように見詰めたユクちゃん。
その決意は。トミちゃんのような、恋愛感情じゃなくて。
「……だそうですが。どう思いますか当事者のヴァイトさん?」
「ん」
皆の視線が、一気にヴァイトへ集まる。
「…………」
皆を見渡すヴァイト。
「……んーまあ、お前らが『俺と結婚したい』って言わなくなりゃ、皆幸せって事だな」
「………………あー……」
「……そっか。これも選択肢。今は皆、ヴァイトさんしか選択肢が無いから……」
そう言った。やっぱりこの人は、殺人族だ。それも、変人の、バカ。
「……子供扱いされている内は、頼って良いよね」
「ん。おう。お前らのことは俺の責任だからな。別に復讐に何年も掛けるつもりはねえよ。それに、面白そうだ」
「何が?」
ユクちゃんがちょっと、深刻な表情だ。その翼。もう何日も広げてない。ストレスだろうな。殺人族の、国は。
「旅だよ。今もそうだし、お前らの故郷も面白そうだ。色んな種族で旅するの、俺結構楽しんでるぜ。ユクの歌聴いて、タキから狩りとか山菜のこと教わって、ゲルドから人界の文化の説明があって。……石とか食う変な奴も居て」
「おい」
誰が変な奴だ。一番変な魔人のくせに。
「はは。面白えよ。もっとお前らの種族のこと、教えてくれ。なあユク」
「………………分かった」
笑った。あの、ギラギラした、戦いの時の笑い方じゃなくて。普通に、好青年に見える。はは、って。笑った。
ヴァイトもこの旅で、色々感じてるんだ。私達と同じで。
「とにかく。あんま、不安がるなよ。……危険な道行ってる俺が言えた義理じゃねえけどよ。俺が死んだら死体を役人? に突き出せば良いじゃねえか。カネが貰えるんだろ? それまでは、死ぬまで守ってやるからよ。全員俺が」
「死ぬのはダメ。許さない」
「はは。勿論死ぬつもりなんざねえよ」
この会話から。
マモリさんが、あんまりこの話題を出さなくなった。自分達と種族のことを真剣に考えているから、茶化すようなことは良くないよね。
私は……。
訊かれなかった。私は、もし訊かれたら。
なんて答えたんだろう。
■■■
「ねえ、ミツキちゃん」
「はい?」
夜。
なんとなく眠れなくて、荷車の窓から月を見ていたら。マモリさんが声を掛けてきた。因みに全員毎日一緒にここで寝てる。ヴァイトもゲルドも。だって虫とかを避けるには、ここしか無いもの。
「ヴァイトさんのこと。本当はどう思ってるの?」
小声で。そう訊ねてきた。
「また、その話ですか」
「うん。これで最後」
「えっ」
「……男と女が複数居るでしょ? この旅。仲間の間で不和が起こらないようにしたいの。一番不安定なのが恋愛だから。アタシは自分と皆の立ち位置と空気感を知らなくちゃいけない。新入りだからね」
「…………」
違った。茶化していた訳じゃなかった。
一度全員で、この話題をすることで。皆の心を整頓したんだ。
この人。
「…………ヴァイトは」
「うん」
まだ、言葉にはならない。改めて、ヴァイトのことを浮かべても。最初に姉さんが来る。
「……その『強さ』に憧れた
世界に、社会に対して。死ぬまで、死ぬほど抗った姉さんなら。ヴァイトが強かろうが関係無かった筈。姉さんなら。『あのヴァイト』を知ってる筈。
『俺のできたことはケンカだけ』――
あの時一瞬だけ見せた、弱気な彼の顔を。きっと、彼だって悩んでる。普段は誰にも見せない顔。
「…………」
次見せてきたら。
背中でも叩いてやろう。思いっきり。
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