第19話 ゼイ伯爵
「『赤い髪』で、『大剣を背負った男』。……ああ、お前は原始人だから知らないよな。『写真』と言う」
いきなり。
昼になった。そう勘違いするくらい、急激に明るくなった。
「南の紛争地域で、お前志願兵に登録したらしいな。その時の写真だ。何をされてるか分からなかったろう。原始人」
知ってる。電気の光だ。機械、というモノ。人界の中心ではこれが流通してるって噂の。『文明の利器』。
「知ってるか? 中央の国際警察機関から懸賞金まで掛けられている。……『魔人ヴァイト』。1億ナッツだ」
白い
彼の周りに、剣で武装した警察官や衛兵が多数。
「…………そうか。騒ぎを起こせばお前から来て貰えるのか。手間が省けたな」
ヴァイトは光を手で遮りながら、魔剣を抜いた。
「久し振りだなァ! ヴァイト! 元気にしてたか!? まあ元気なんだろうな。こんなところで安い女買ってないで、俺と高級色街に行こう! 色々と教えてやるぜ?」
「……お前、老けたか。ゼイ」
ゼイ伯爵。この領地の長。ヴァイトの兄弟。
共に、魔獣に育てられた経緯を持つ。
「……なにこれ」
私達を呼び止めた、ここで働いていた大人の女性。今起きていることが理解できずに、その場にへたり込んだみたい。
私はそっちに向かって、すぐここを離脱できるように女性に肩を貸した。
緑色の髪。頭に、羊のような螺旋角がある。角人族だ。
「ヴァイトっ!」
「ああ。下がってろ。2階へ上がれ。俺は今ここでこいつら全員を殺す」
娼館の入口で。魔剣を構えて言った。今ここで。
姉さんや私と関係ない、ヴァイト自身の復讐が始まる。
「ハァン!? 誰が老け顔だァ!」
「行くぞ。ここで全部出し切る。よくもジジイを殺しやがったなァ!」
私達がよろよろと階段を登る時。最後に。
あのヴァイトの横顔を見た。口角を吊り上げた、獰猛な笑みを。
■■■
「キャッ」
ドカン。爆発音だ。2階へ上がって、入った部屋に鍵を掛けた私達。まず角人族のこの女の人をベッドに座らせて、窓を見た。
電光で明るい。ヴァイトがよく見える。
「オラアァ!!」
ヴァイトの叫び声は大きい。ここまで聴こえる。魔剣を大きく横に薙いで、前列に居た警察官が4、5人巻き込まれて真っ二つになった。
「避けてんじゃねえよ掛かって来いやァ!!」
「うるさい。野蛮。僕の最も嫌いな人種だよ。魔人!」
ゼイが取り出したのは、こちらも大剣。でも、ヴァイトの魔剣に負けず劣らず、禍々しい。捻れた黒い角? が螺旋状に絡み合って伸びたような剣。牙と爪だらけのヴァイトの魔剣とはまた違った、悍ましさがある。
ガギン! と鈍い音が鳴った。ふたつの剣がぶつかり合ったんだ。合わないモノ同士を無理矢理捩じ込むような、不協和音。
それが2度3度続いた。
ヴァイトと、競り合うなんて。
「あァ!? てめえそれ……キモイ剣だなゼイ!」
「何を言う。これは美術品としても価値の高い、【コスモケラト】の素材を用いた剣だ。貴様の低俗で雑多な剣もどきとは違う!」
ふたりが剣をぶつける度、建物が壊れて、周りの人が死んでいく。もう、この色街自体が半壊だ。迷惑過ぎる。
「…………ちっ」
自信満々だったゼイの表情が少し陰る。一歩距離を取って、帽子を被り直した。
「その身体能力強化。魔剣の素材は【マカイロド】の牙が主だな。醜く、うざったらしい異能だ」
「あん? 魔界? んだそりゃ」
「やはり、知力の底が知れるな。原始人」
「バーカ。魔人か原始人か、どっちかにしろよ。まだ俺を『測り兼ねてる』んじゃねえのか!?」
ヴァイトが、踏み出す。勢いに任せて、魔剣を振るう。あんなに大きな剣なのに、風のように速く。
「ふんっ!」
「!」
ドッ!
これまでで一番の音。思わず2階に居る私が耳を塞ぐくらい。
「てめえのその角の異能はなんだよ!? 見せてみろ!」
「……ぐっ。馬鹿力め……っ!」
「鈍ったのか? 動きが遅え! そりゃ人界で格下相手に無双してただけだもんなァ? 魔界で毎日巨大魔獣達と命のやり取りしてきた俺の敵じゃねえ!」
鍔迫り合い。拮抗してる。ゼイの持ってる剣も、魔剣に違いない。だってありえない。普通の剣でヴァイトに適うわけない。だって、『軍隊』で勝てない魔獣を、ひとりで皆殺しにできるのがヴァイトだから。ゼイだって、魔剣を使って、今そのくらいの強さになってるってことだ。
「……あァッ!」
「むっ!」
今度は、ゼイが押し返した。ヴァイトと同じくらいのパワーが出せるってことだ。
「はぁっ! はぁーっ! 貴様……!」
「お? どうした。息切れてるぞ。なあゼイ『伯爵』さんよお」
「くそ……っ!」
ヴァイトは、常に私達の居る娼館を背に戦ってる。この場から離れない。私達守りながら戦ってくれてるんだ。
個人的な、復讐の戦いなのに。
「…………あの人が、伯爵?」
「えっ」
びっくりした。背後から声。角人族の女の人だ。私の横に来て、一緒に窓から戦いを見る。少し落ち着いたみたい。
「らしいですけど、なにか?」
「…………アタシが角人族だから、分かった。でもそんなこと……。知らなかった」
「何がですか?」
ゼイを、指差して。正確には恐らく。
「あの人、本当に
「!?」
その白い
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