第3話 大地と共に生きる種族
殺人族。牙人族。他にも沢山、人の種族がある。それらを総称して、『人類』と呼んでいる。
人類はその活動域を支配していて、それ以外の土地を外界とか、魔界と呼んでいる。魔界には、猛獣や魔獣達が棲み着いていて、とても危険だ。
でも、猛獣なら人類が数と武器と作戦を用意すれば負けない。猛獣だけなら、この世界は全部人類の支配域になっていた筈。
「……魔獣」
この世界には、人類が太刀打ち出来ないほどの戦闘力と生命力を持った生き物が居る。それが魔獣。爪は刀より大きくて鋭く、尻尾は丸太より太く硬い。人類の仕掛けた罠も見抜いて、逆に人類を罠に掛けることもある。とにかく肉体も強靭で、人類と同レベルに知能があって、非常に攻撃的で、手に負えない。魔獣を一掃できる科学を発展させるまで、人類の活動域は今より拡がらない。活動域は安定しているから危険が少なくて人口が増えている。今の社会問題だ。
「オラァ!」
その、魔獣の群れを相手に。
ヴァイトは笑いながら大剣を、踊るように振り回して。
次々と斬り刻んでいた。
「…………凄い」
その姿に、夢中になっていた。姉さんの牙を握り締めながら見ていた。
■■■
夜になった。魔獣の群れはヴァイトに全て屠られた。多分、10体以上居た。この人の戦闘力は、人類の軍隊を超えている。
「流石に疲れたな。おい怪我ねえか? ミツキ」
「…………うん」
元はと言えば、私の『叫び』が魔獣を呼び寄せた。私は人攫いと一緒に、ここで死ぬ所だった。死ぬつもりだった。
けど。
「姉さんとどういう関係だったの?」
ヴァイトは姉さんの牙を持っていた。ネックレスにして。私は姉さんがどこでどのように死んだのか、知らない。知りたい。
「腹減ったな。メシだ」
「ちょ……」
この男。話を聞かない。さっきからそうだ。
ヴァイトはその場で火を起こして、細切れパーツになった魔獣の肉を焼き始めた。
「食べるの!? 魔獣!」
「そりゃお前……流石に同じ種族は食いにくいだろ」
「いやそうじゃなくて……」
驚いた。この男は、今散らばっている肉の内、人攫い達と魔獣を比べて、食べやすい方を食べるつもりだったのだ。
倫理観とか、色々。
「魔獣は、『この世界の生き物じゃない』。食べたら呪われて死ぬし、死んでも天国には行けないって」
「……ツキミも言ってたな。それがお前ら『牙人族』の宗教か」
「宗教……?」
どかりと、死体の上に腰を下ろして。ヴァイトは生焼けの魔獣の肉にかぶり付いて、啜りながら噛み千切って食べている。悍ましい。あんな、紺と紫が混ざったような禍々しい肉を。
「『そう教わった』んだろ。親か、姉に」
「…………嘘だって?」
くちゃくちゃと音を立てながら。私を見てくる。真っ直ぐな、橙の眼差し。
「『嘘を付いたら駄目』ってのも、『そう教わった』んだろ」
「何が言いたいの……?」
私もお腹空いた。今日は何も食べていない。
「食ってみろ。案外イケるぞ」
差し出された。魔獣の肉。グロテスクな赤身。焦げからは異臭。
「……私は地獄に落ちたくない」
「だが食わねえと死ぬぞ? ここらにゃ魔獣以外メシは無え。他の食えそうな動物と植物は全部魔獣に狩られてるからな」
確かに、ただの草原だ。他に何も無い。けど。
「それは、あなた達殺人族の食性でしょ。私達は違う」
「ほう?」
私は、仕方無く地面に座り込んで。
手頃な石を持ち上げて砂を払い、口に入れた。
「お?」
ヴァイトが目を丸くする。
ガリガリ。ボリボリ。石を砕く音。私は粉々にした石をそのまま飲み込んだ。
「……ごくん。『牙人族』、ね。見た目だけで命名した、殺人族の浅さが分かる名前。私達は『大地と共に生きる種族』。私達の言葉で、私達を『感謝する者』という意味で呼ぶんだから」
「…………『食える』のか」
「そう」
もうひとつ。
少し大きめの石を拾って齧った。
「『何でも食べられる』『歯と消化器官』。それが私達牙人族。特徴は牙だけじゃない。それは外見だけ。私はこの魔界でも、飢えることは無い。大地を食らい、泥水を飲む。世界に祝福された大地の種族。……あなた達とは違う」
「凄えな!」
「えっ」
説明を聞くと、ヴァイトは橙の目を輝かせた。少年のように。
「いやあ、俺も雑草や土くらいなら餓死寸前の時に口に入れたことはあったが、石は流石に噛み砕けなかった。アンタらは平然とそれをして、しかも腹壊すことなく……どころかそれが寧ろ通常の食事だってのか。凄えな。世界は広え!」
「…………む」
褒められたのは、初めてだった。だって、そんなの知った
「……でも、魔獣だけは無理。嘘とか教えとかじゃない。本当に体調を崩して、そのまま死んでしまう。この世界のものなら何でも食べられる私達が食べられないモノ。だから、魔獣は『この世界の生き物じゃない』。歴史的に見ても、突然発生していて起源が分かってない。あれは異常なの」
「なるほどな。そんな経緯から、アンタらの先祖は宗教を使って魔獣食を禁じた訳か。理に適ってるじゃねえか」
「…………!」
それを言われて、はっとした。
昔から紡がれてきた教えが、宗教。そこには当時の理由がある。
「俺はツキミから色々教わったが、ありゃアイツの価値観だと思ってた。……牙人族の宗教観だったんだな」
「……それ。話は終わってない。あなたは姉さんの」
「ああ。
「!?」
番い、って。
夫婦ってこと?
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