第16話 唯一

「お前は優秀な弟子だよ」


「ほんと?」


「ああ。私が教えなかった魔法を使った」


「へへ。嬉しいな。もしかして……いち、ばん……」


 それきりだ。


 水の上にインクを落としたかのように、音もなく、ウィリアムの瞳孔が開く。


 私はウィリアムの双眸に両手を添えて、長い睫毛に縁取られた瞼を下ろしてやった。


「一番ではなかった」


 しかし、唯一だった。


 大魔法使いが存在を認めなかった蘇りの術。

 それを見つけ、得意になり、私に認められ、あわよくば恩を売ろうと……そして、行使して初めて、代わりに自分の命が失われていく事に気付き後悔する……そんな弟子が何人かはいたが、最期に良かったと笑ったのはこの子だけだった。


 陽が沈み、私はウィリアムの亡骸を彼のベッドに寝かせた。


 こうしていると、朝が弱くて私に手を焼かせていたいつもの彼と変わらない。


 夜が明けても、魔法で大きな音を鳴らして起こしてやる必要はもうない。


 ウィリアム。しょうもないイタズラで師を殺してしまうようなバカな子だったが、純粋で正直で、心の美しい、優しい子だった。本当にバカだが。


「ウィル……」


 私の呼び掛けに応えるように、玄関の戸が野暮な拍子を刻んだ。


《つづく》

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