第15話 宝石

「生きておったか」


 私はおもむろに椅子から立ち上がり、弟子のそばに膝をつく。一度は魂を失って凍っていた身体は、ひどく軋む。

 魔法で節々を温めながら、なんとかウィリアムを抱き起こし、頭部を膝にのせた。


「生き物に使ってはならんと記述があったはずだがな。その目はカエルにやったのか?」


 青ざめて、目の焦点も合っていないウィリアムの顔に向けて、私は咎めるように言った。


「でも成功しましたよ。良かったぁ」


「良かっただと? もう取り返しはつかぬのだぞ」


「だって俺、殺人犯になりたくないもん。死体遺棄も、死体損壊もイヤだぁ」


 白すぎる頬がぷうと膨らむ。さすがに呆れて、両手で押し潰してやった。


「お前な……」


 なにか言ってやろうとするのだが、その間にもウィリアムの目は虚ろになっていく。


 両頬を包んだ私の手に、彼の手が重なる。氷のように冷たいそれが、私の指を柔く握った。


「だって俺、お師匠様に褒められるいい子でいたいんだもん」


 サファイアの瞳に、きらりと光が宿った。


 こんなに純粋で愛らしい笑顔を見るのは、初めてだった。


《つづく》

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