第5話 指令
一部、聞き捨てならん台詞も聞こえたが、やはり私の死自体は悲しいのであろう。
再び泣き出しそうな弟子をなだめ、椅子に座らせる。当然、テーブルを挟んで向かいの椅子は空っぽだが、私も気持ちだけはそこに座っていた。
『いいか、我が弟子よ。私は死んだ。魂が肉体から切り離されて、今にも冥界へ旅立とうとしておる。そして常々教えておった通り、この世界には生命を復活させる魔法など存在しない』
「やっぱりダメなんですかぁ? ちょっと期待してました。ケチって教えてくれないだけかなって……」
『お前、本当にわざとでないんだろうな?』
「もちろんですよぅ。このまっすぐな目を見てください!」
『まあ、よいわ……その話はおいおいするとしてだ、お前にはこれからすべきことがみっつある』
「なんでも言ってください! 俺、お師匠様のためならなんでもします」
『ではひとつめ。私の亡骸を、誰にもわからぬように処分するのだ』
「えぇーーーっ!?」
死んだ私にはもう、鼓膜など無いはずなのだが、それでも鼓膜が破れそうなほどの大声だった。
ウィリアムは自分の椅子までひっくり返し、瞠目した。大きなサファイアの眸が、眼窩から半分こぼれ落ちている。ここまで来ると、顔芸だな。
《つづく》
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