第3話 いいかげんにしろ

「はぁー……困ったなぁ」


「どぉしよっかなぁ~」


「お師匠様が居なくなっちゃうなんて」


「さびしいなあ~……グスッ」


 ウィリアムはブツブツ言いながら、木のテーブルセットの周りをぐるぐる歩き回った。


 私があまり広い家を好まなかったせいで、ウィリアムは床に転がった私を何度も何度も跨いだ。


「お師匠様ぁ……」


 ヤツが信じられない量の鼻水をたらしながら、安らかに眠る私の頭の先を踏みそうになったとき、私の我慢は限界に達した。


『おい、バカ弟子』


 私は大魔法使い。


 死してなお、生者の世界に残留し、生者の心に語り掛けることなど朝飯前である。


 我が弟子は弾かれたように顔を上げた。


 私の頭をすんでのところで避けた代わり、床に爪先をこすって躓いたため、壁に手をつき尻を突き出した奇妙な姿勢をとったまま、周囲をきょろきょろと見回す。


「こここ……この声は!」


『私だ。お前の師匠、ウィリアムだ』


「あ。ウィリアムは俺です」


『……』


 私は呆れて言葉に詰まった。


《つづく》

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