たまねぎ(詩)

 夢も現実もみたいなものだと思う。剥いて剥いて後には何も残らない。


 夜。外の薄明かりが入り込む部屋の天井を見上げている。いま見ている現実は一皮剥けば違う現実で、眠っている時に見る夢から覚めてまた夢を見ているのに似てる。

 誰かが作って見せる「夢」を「リアル」であると感じて生きているの。そんな気がする。幾重にも重なるかわを剝いてしまえば、違うものが表面に現れるのにね。


 長く伸びた私の黒髪を撫でる掌の熱。愛していると囁く声の狂おしさ。潤んだ黒い瞳に灯る渇望の。濡れ色の黒に絡みつく執着の。白く整った顔立ちの。この世で一番美しい男。


 そう思う私はいまどこにいるのか。


 夢を見ている私は現実でも存在してる?もしかしたら私は誰かの夢なのかもしれない。

 頭のいい人達がそんなことはとっくの昔に議論したよね。いまある現実の中では大人とも子供とも言えない私。頭の出来も良くないのに、あれこれ考えたところで新しい答えなんて出るはずもない。


 頬を滑る長く繊細な指先が私の唇の輪郭を辿り、指の背が顎をなぞる。執拗に抱き締める腕は強い。私はきっとあの人の夢。朝になれば消えてしまう儚い幻。

 私の形を探る硬い皮膚。刷り込まれる想いに背中が震える。目・耳・鼻・皮膚・粘膜。五感に刻まれるあの人の記憶。どうせ夢ならその手を握り返して熱に溺れたい。


 一晩、二晩、三晩。何度でも。


 ああ、嫌だな。現実は生の玉ねぎよりもからくて、煮詰めた夢はトロリと甘い。

 本当は分かってる。現実を一皮剝いて。夢をもう一枚剥がしても。同じこたえを返せる私は今ここにはないの。


そうでしょう?


そうでしょう?


そうでしょう?


ねえ、お兄ちゃん。




◇◇◇◇◇


別サイト自主企画参加作品

「音楽を小説にしよう」


【元にした楽曲名】


『きょうだい心中』

発表:1979年

唄:山崎ハコ

作詞/不詳

作曲/山崎ハコ


1979年公開の映画「地獄」の挿入歌

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