ヒーロー見参(ヒーローもの?)

 我々の戦況は逼迫ひっぱくしていた。

『白い悪魔』と呼ばれるイセリア軍が我々の領土に侵犯してきたのはつい先日の事。

 互いの利益が一致したのか、内乱を続けていた『黒の武器商人』を味方につけて、白い装甲車が我が領土をあっという間に侵略していく。後には何も残らぬ勢いだ。

 

 もちろん、我々も必死で交戦した。しかし、後から後から敵の援軍がやってきて、大地を白く埋めていく。

 敵の大将は女性だ。あちこちにコロニーを作り、日夜進軍してくる。人海戦術を駆使し、敵ながら天晴れと言わざるを得ない連係プレーで我が陣を攻め立てる。

 

 私は軍司令部の机に力なく腕をつき、独り言ちた。


「もはやこれまでか…」

「シトリン将軍!早くお逃げください!外まで敵が迫っています!」


 部下の切羽詰まった声が私を急き立てる。しかし、如何に戦況が不利であろうと上に立つ者が自らの戦場を放り出して逃げる訳にはいかない。


「いや、私は逃げない。降伏しよう」

「しかし!ここは一旦引いてまた…!」

「いや、そんな手は奴らには通用しない。完全に我々を殲滅するまで奴らは動きを止めないだろう。我々の敗北だ」


 私が力なく項垂れると、あちこちから部下のすすり泣く声が聞こえた。

 部屋の中が暗鬱たる空気に包まれかけたその時、どこからともなく高らかな笑い声が響き渡った。


「はーっはっはっはっ!!」

「こんな時に誰だ、笑ってるのは!!」


 激昂した部下達が周囲を見渡すと、窓の外から声が聞こえた。


「私だ!!」

「お前は……、いや、貴方は!!」


 窓の外に赤と黒の軍服を着た屈強な男が小型の飛行装置を背負ったまま近付いてくる。私が慌てて窓を開けると、彼は派手な音と共に飛び込んできた。


「シトリン将軍、お助けに参りました!」

「君は…!!!」


 その男の名は、べダリア。我が軍の空挺部隊隊長にして、最強の男。屈強な肉体に似合わず優雅な仕草で礼を取った男は、顔を上げて不敵な笑みを浮かべた。


「遅くなって申し訳ありません。来る途中奴らのコロニーをいくつかぶっ壊していたもので」

「君が来てくれれば千人力だ!」

「もうすぐ私の部隊も到着します。将軍、お疲れでしょう。少しお休みください。あとはゆっくり高みの見物ですよ」


 男は武骨な顔で似合わぬウィンクをしながら、窓枠に手を掛けた。私は期待で胸を震わせながら、飛び去る彼の後姿を見送った。


 窓の外を見れば、到着した空挺部隊があっという間に白い悪魔を駆逐していく。不安げに見守っていた部下達の間から歓声が上がる。

 もう安心だ。幾千もの戦場をかいくぐった私であるが、この時ほど安堵したことはなかった――。



――――――


 10歳になるジョージは、家の庭に植えてあるオレンジの木を興奮した面持ちで眺めていた。日は高く上り、じりじりと彼の頭頂を焼くが、気にした様子もない。そこへ母親がやってきて声をかける。


「ジョージ、お昼よ~」

「ママ、見て!すごいよ!」

「ええ?何?」

「オレンジの葉っぱについてたイセリアカイガラムシをべダリアテントウムシがすごい勢いで食べてる!蟻も蹴散らしてるよ!クールだね!」

「まあ、すごいわね~。ジョージは本当に虫が好きね。触ったらちゃんと手を洗うのよ~」

「はーい、ママ」


 少年は素直に頷いて家の方に走って行った。



――――――


【後】

イセリアカイガラムシは柑橘系植物の天敵。蟻とカイガラムシは共生関係。

べダリアテントウムシはイセリアカイガラムシの天敵にして柑橘系植物の救世主。


虫苦手と集合体恐怖症の人は画像検索したらダメなやつ。

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