第36話 シスター・イナミラーとエストニア伯爵領
ーー 赤の季節の学園生活
赤の季節の風物詩として歴史に残る「打ち上げ花火大会」を開催した僕は、その余韻を残しつつ学園に戻ったのだった。
「エストニア伯爵様、あの打ち上げ花火と言うものは素晴らしいものでしたわ。」
メアリースクイブ女王が話しかけてきた。
「ありがとうございます。冬に見る花火もまた美しいものです、その時はまたご招待いたしますね。」
とこ返すと、「必ず、お約束ですよ。」と言って去って行った。
あれから僕は、打ち上げ花火の効果について考えていた。
夜に打ち上げるため、ごく僅かなもの以外その形や仕組みを知らない。
見た目に惑わされて、その破壊力に気付きにくい。
それなら暫くは、僕の管理で定期的に打ち上げ花火を行うことも考えようと。
屋台の売り屋げも凄まじく、アルコールについても場所を限って提供することもあり得ると考えていた。
ーー シスター・イナミラー side
私は聖皇国の一神教中央教会に所属するシスター。
総司教様であるペーチン様から、女神の信託を伝えに以前セガール王国に滞在したことがありました。
その時は残念ながら目的を果たせていませんでしたが、此度は女神様からの密命を直接いただいた私は、失敗は許されません。
シスター・イナミラーは他のシスターとは違う側面を持っていました。
彼女が貧しい村で育った事と、美しいシスターが母の様に育ててくれたことから、飽食と美しさは女神に通じる事だと思っていた事だ。
セガール王国に辿り着くとケンドール公爵領を目指した彼女は、エストニア伯爵領内に目的の人物が住みだしたことに後から気づきました。
「教会の情報が古いですね、これはとても危ないことですわ。」
そう独り言を言いながら彼女は、足を王都側に向け直しました。
ーー 学園生活
この頃僕は、エステの有用性をとても感じていた。
お母様らの話を聞いても、武器になり得る施設と職業だと感じていた。
そこで僕は自領にエステの養成学校を作ることにした、当然その技術を会得した者には多くの富と栄誉が与えられるのであるが、多くのエステシャン候補がエストニアの人材育成学校の卒事業生で、元々孤児や貧しい家庭の者が多く皆エストニアを尊敬していたため、他の者からの引き抜きに誰も応える者はいなかった。
その為、エステと言えばエストニア伯爵領と言うのが有名となる。
ダンジョン。
学園ではダンジョン攻略が行事としてある。
ある程度の安全を確保してからの挑戦で、貴族としての責任と実力を培うのである。
しかし何処にでも「出来ない者」や「しない者」がいるものである。
僕はそれを篩にかける行事とした。
映像と音を記録する魔道具を開発し、ダンジョンの至る所に設置したのだわからない様に。
これを元に評価する様になり、学園の有用性は王国が認めるものとなった。
ーー 黄の休み、卒業と入学式。
黄の休みに入り、エストニア達は高等科の1年生となった。
「あと2年で卒業ね。」
ミリア嬢が呟く。
「ミリアは卒業後、マッケンジー君と結婚でしょ。」
とレリーナが言うと
「そうね、今のうちにケンドール公爵夫人からの手ほどきを受けておきましょう。」
と意味深な言葉を言うミリア嬢が、微笑む。
女性にとって若い時期は、とても短い。
一季節も無駄には出来ないのだ。
シスター・イナミラー
エストニア伯爵領内に辿り着いたシスター・イナミラーは、先ず領内を見て歩いた。
女神がわざわざ目をかける人物を知りたいと思ったのだ。
この世界では何処の国でも同じようなものを守ることができる、それは孤児とスラムのような貧しきもの達が肩を寄せ合う場所だ。
この伯爵領は、ここ数年で人口が10倍近く増えたと聞いている、そうであればより他の領地より貧富の差が見えるはず、教会がないこの領地に教会の必要性を説くこともできると言えるのだ。
しかしシスター・イナミラーは歩けどもこの伯爵領で、自分の考えていたもの達を見つけることが出来なかった。
そこでシスター・イナミラーは、エストニア伯爵がそのようなものを徹底的に放逐したと考えた。
「何と、傲慢な考えでしょう。」
と、女神の使命がなければこのまま立ち去ろうと思うほどに。
「おや?どうされましたか、教会のシスター様。」
声をかけてきた老人がいた。
「はい私は一神教のシスター・イナミラーと申しますが、この伯爵領にて孤児や貧しきもの達に炊き出しをと思い来ましたが・・此処にはそのようなものがおらず、心配しておりました。
貧しきもの達は何処に追いやられているのでしょうか?」
と答えるシスター・イナミラーに老人は。
「それは残念なことですな。確かにこの伯爵領でそのようなもの達を見ることはできないですな。でもそれは何処かに追いやられたのではなく、初めからそのように食うに困るものがいないだけのことですよ。」
と答えたのだ、その言葉が信じられぬシスター・イナミラーは
「如何に手を尽くそうと、孤児がなくなることはないでしょう。その孤児は何処にいると言うのですか?」
と老人に詰め寄ります。
老人は右手を上げるとある方向を指差します。
「あそこに大きな建物が見えますかな。あれは学校と言うて、エストニア伯爵様が最初に建てられた建物ですじゃ。その横に同じように建っているものが寄宿舎と言うもので、親のいない孤児や貧しくその日食べる物に困るもの達を、無償で住まわせて食事を与えるところですじゃ。」
と説明してくれた。
「無償で・・最初に。でもそれでそのもの達は今でどうしておるのですか?」
と聞き返した、一時的にそのようなことができても、長続きできるはずがないと思っていたからだ。
すると老人は、笑うように微笑むと
「わしらも最初はそうおもておったのじゃ。そしたらエストニア伯爵様は、そのもの達に仕事と教養を与えだしたのじゃ。」
そして老人は手招きしながらシスター・イナミラーを誘いそに建物に近づく。
そこには歳はも行かぬ、幼子や種族さえ違う者が一緒に読み書きを習っていたのだ。
この世界では読み書き計算は、とても高価な教養なのである。
庶民が手軽に教われるものではないのだ。
それを孤児や貧しき者に本当に無償で教えている、これだけでも異常と思える事だった。
「この様な施しは神の家でもしておりません。どうしてこの様なことができるのでしょう?」
思わず口にしてしまうシスター・イナミラー。
老人はもう一つの建物を指差した、
「シスター様あれに見えるのは、職人や役人を育てる建物じゃ、その向こうは騎士様を育てる所と聞いております。わしの孫も此処を出て今はエストニア伯爵領内で店を出しております。此処はそんな領地なのですじゃ。」
と言うと歩き去って行った。
シスター・イナミラーは悩み始めた、此処に教会は必要ないそれ以上の物があるから。
私に何をせよと女神様は言われるのでしょう?これが神の試練でしょうか?
神の庭の様なこの土地でどんな試練を私は受けるのでしょうか。
「食事でもして考えることにしましょう。」
そう言うとシスター・イナミラーは食事の出来る宿を探した。
宿にで・・・この食事は・・。
シスター・イナミラーは新しく清潔な街並みを見ながら宿を探した、此処は商人が良く来る場所の様で、満室を表す札が掲げられている宿ばかりで中々空いている宿を見つけられなかった。
すると一人の少女が声をかけてきた。
「シスター様、お宿をお探しですか?もしそうなら私の宿に来ませんか?」
と言うのだ、しかしそんな都合の良い話があるのかしらと不審がると。
「ご心配ありません、うちもエストニア様の認可を受けております。ただ表通りではなく裏通りにある為、客引きをする必要があるのです。」
と答える少女、
「分かりました、案内してください。」
と言いながら少女の後をついてゆくシスター。
裏道を10分ほど歩くと裏通りにも、宿や商家があるのが分かった、どうやらこちら側は街の者が利用する通りの様だ。
しかし裏通りであるのに此処も清潔で綺麗な街並みだ。
感心しながら少女について行くシスター。
「シスター様此処です、どうぞお上がりください。」
少女が中に案内する、そこは2階建てのこじんまりとした宿だった。
中に入ると
「お客さんを連れてきたよ。」
少女が大きな声で奥に声をかける、すると奥から一人の女性が姿を見せて
「マリヤ、大きな声で失礼でしょ。すいませんシスター様、お泊まりですかお食事ですか?」
と聞いてきた
「その両方です、暫くこの地に滞在予定なのでよろしくお願いします。」
と挨拶をするシスター・イナミラーに宿の女性は
「そうですか、それではすぐに食事に致すます、マリヤお客様を5号室に案内してきなさい。」
と言いつけると奥に下がって行った。
「どうぞ、シスター様。ご案内しますね、お部屋は2階です。」
と案内を始める。
「此処がお部屋です。そして中庭のあの建物がお風呂棟です、男女に分かれていますし、何時でも利用できます。タオルや石鹸なども準備されていますので、着替えだけで大丈夫です。洗濯物は出して貰えばこちらで対応しますので是非ご利用ください。」
と言うと、「食事の準備ができましたらお呼びに来ますね。」と言って降りて行った。
シスター・イナミラーは部屋をの中を見ながら思った。
「広くて清潔なお部屋、天蓋の付いた寝心地の良さそうなベッドに柔らかそうな寝具、此処は?・・おトイレ。これはタンスに化粧台。・・・高級宿なの?でも先ほど聞いた宿賃は普通だったわ。それに・・お風呂ですって。」
独り言を言いながら、ベッドに腰掛けて「ああっ」と声を出した。
あまりの座り心地に。
その後少女に呼ばれて食堂に向かうと、テーブルに並べられた料理に生唾を飲み込んだ。
「あのう、この量は多すぎませんか?」
と思わず少女に声をかけると
「シスター様どうぞ食べてみてください、うちは料理が自慢なんです。」
と少女は言った。
『え!宿が自慢でなくて食事が』とシスター・イナミラーは思いながらも食事にスプーンを付けた。
「!美味しいわ。とっても。」
一口口に入れると、食べたこともない幸せな味がイナミラーを包み込んだ。
「どうですか?領主様の料理のお味は?」
と少女が話しかける。
「領主様の料理?どう言う意味なの?」
「それはですね、この街は全て今のエストニア伯爵様が道から作られたもので、宿の設備や料理のレシピまで考えられて無料で教えて下さったのです。」
と教えてくれたが、イナミラーには信じられなかった。
「此処は特別なの?領主様と何かご縁があるの?」
と聞き返した。
少女は首を横に振りながら
「シスター様、この街はエストニア伯爵様と同じなのです。誰にでも優しく求めるものを提供する街なのです。「また来たい。」そう思わせる街がエストニア伯爵様の理想なそうです。」
と言うと言葉を切って
「だから此処に住む私たちは、エストニア伯爵様のためにその夢のお手伝いをするのです。」
ととても誇らしく言う少女の言葉に、シスター・イナミラーは自分自身が恥ずかしくなった。
孤児や貧しい者がいないはずがない、困っている者や寂しい者が必ずいるはずとその者達に教会は絶対必要だと思い上がっていた自分に。
ーー 黄の季節です。
学園に高等科1年として戻ったエストニア。
高等科になると、授業らしいものはあまりない。
その代わりそれぞれが卒業後のために、研究や研鑽に努めるのだ。
そこで僕らは、本格的な領地経営を学ぶために王国中を視察して回ることにした。
移動はいつもの馬車だ。
先ずは、獣人の隠れ里がある中央大森林側のイーリッヒ侯爵領方面だ。
以前獣人狩りをしていて潰された子爵領に着いた。
此処は以前と違う領主が治めている筈だ。
領民や実りの畑を見ると、穏やかな領地だと思える。
宿に泊まると、最低限のものがあるような宿だった。
食事もそこまで美味しくはない、清潔感もあまりよくなかった。
「此処ではこんなものなのかな?」
マッケンジー君が呟く
「そうね、これなら馬車に泊まった方が数倍マシだわ。」
とセリーナが言う。
その後もイーリッヒ侯爵領は概ね同じような領地が多かった。
「これは王国内で大きな格差ができ始めた気がするね。」
クロニアル君がそう言うと皆が頷く。
僕もそう思った、このままでは侯爵領は不味いかもしれない、と。
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