第31話 獣人の隠れ里と女神の微笑み

ーー 学園生活3


別荘で快適な生活を送っていた僕たちも、お母様達に追い出される様にして学園に戻った。


「もう少しあそこにいたかったな。」

マッケンジー君がしみじみと言うのを他のみんなが、頷き同意する。


「多分お母様達、しばらく戻ってこないわね。」

ミリア嬢が言えば、女性陣は激しく同意。


「お陰で学園生活がつまらなく感じてしまった。」

とぼやくメンバーに、「簡易でいいならうちの屋敷には全て揃っているじゃないか」と伝えると。

「「「しばらくお世話になります。」」」

と7日後の青の休み入りに合わせてお泊まりに来ることを宣言する、女性陣。

「そう、いつでもおいでよ。」

と威圧に負けた僕が了承すると、機嫌が治った女性メンバーに苦笑いの男性陣だった。

『女性ってどの世界でも幾つでも変わらないんだな。』と思う僕だった。



ーー 学園生活最近してない気がする。



別荘から戻った僕らは、学園に戻ることなく僕の屋敷に滞在していた。


「最近僕思うんだが僕ら学園にあまり行ってない様な。」

「「「いまさら!(ですか)」」」

と返され、僕だけだったのこの思い。


「このまま青の休みまでここにいましょう。」と言うことで外に出ることもなくまったりとしていた僕ら。

これでいいのか?



ーー とうとう青の休み、女神の暗躍。



ウダウダしている間にとうとうその休みに入った。

ズル休みした感じだな。(実際そうだけど)


そんな時に侍女のサンチェが、真剣な顔で僕のところにやって来た。

「どうしたんだい?」

と尋ねると

「村が危険なんですって・・・女神様が・・教えてくれました。」

と今にも泣きそうなサンチェ。

『ダメ女神め、サンチェを使って僕を働かせようとしてるな。でもこの顔を見たらな。』などと考えながら。


「話を聞こうか、どうするかはそれからだ。」

と声をかけて、メンバーと一緒にサンチェの話を聞いた。


【サンチェの村は、中央大森林の南側に有る隠れ里だ。

村人はおよそ200人、数種類の動物の特徴を備える獣人と言われる人々で。

力や俊敏さなど非常に高い能力を持つ。

それぞれの特徴である動物の属性を強く持ちそれが強みでもある。

そしてその集落が魔物と人攫いの脅威に晒されていると言うのだ。】


サンチェの枕元に女神が現れて、

「サンチェ、お前の故郷に災いが近づいている。早くエストニアに助けを求めよ、時間がないぞ!」

と言う物だった。


「んん〜ん。サンチェのおねがいを叶えてあげたいが・・・。」

と僕が呟くと、メンバーが不審顔。

訳を話すのもな、と思ってみんなの意見を確認することに。

「助けに行くことに賛成の人は手をあげて。」

と言うと、皆んな手をあげていた。

「分かったよ。サンチェ、君の故郷の位置はどのへんだい?」

と地図を広げた。



ーー 獣人の隠れ里。


中央大森林の南側に獣人の隠れ里がある、ここはその中の一つの小屋の中。


「サンチェは無事なのかしら?もう1年、でもきっと元気よね。」

猫耳の獣人女性が涙を拭きながら、空元気を出して気を紛らせていた。


隠れ里と言われるだけのことはあって、ほとんど他の種族との交流はない。

ただし生きるために必要な、塩だけは交易のため半年に一度近くの街に買い出しに出ていた。


「ガレリの帰りが遅いな。予定では昨日には余裕で帰ってきているはずなのに。」

村長の熊獣人のベイが呟きながら村の外を見ていた。


ガレリはその足を頼みに、塩を買いに向かった狼獣人なのだ。




ガレリ  side


後をつけられていると気づいたのは、森に入ってからだ。

普通の人種が自分の速度についてこれるわけがないため、普段あまりその手の警戒感は薄かったのだが。


森に入っても同じ気配がある程度の距離を保ってついてくる、『完全に付けられている。』そう確信したガレリは大きく回り道をしながら、追跡者をまこうとしていた。


「くそう!なんて奴だ。2日も森の中を走っているのに・・・。」

悪態を吐きながら、ガレリは一旦森の外に出ようと考えた。

そして森の外に向かい出してすぐに異変に気づく。

「向かってきた。俺を捕まえて里を・・・捕まるもんか!」

ガレリは死に物狂いで走り出したが、相手はそれ以上の速度でガレリの目の前に。



気付けばガレリは、どこか分からない地面に横たわっていた。

体の自由が効かない、縛られている様だ。

「気付いたか。サッサと里まで帰ればいいものを、小賢しいことをするもんだ。」

と声がした方を見ると、豹の獣人がいた。

「お前は誰だ?何故里を探している?」

と言うとガレリに、その男は

「もちろん金だよ。獣人のガキは高くで売れるからな。」

「なんだと!お前も獣人ではないか。」

「ああ俺のことか、俺はハーフだよ。昔俺の母親が村を追い出されて野タレ死んだ、樹人の息子さ。」

と言う言葉に、ガレリは絶句した。


確かに獣人の中ではハーフは、毛嫌いされている。当然ハーフを身籠った者も。

こいつは恨みを持っている、絶対に村に近づけてはならない。

そう思ったガレリに残酷な現実が。


「もうお前の役目は終わった。村の匂いを見つけたからな。それじゃあ先に死んでくれ。」

と言うとガレリの首を切り落とした。


「さあ、行こうか。」

と言うと後ろにいた仲間に声をかけた。




ーー 獣人の隠れ里攻防戦。


誰かが気付いた、

「皆んなおかしいよ!家に隠れな!」

と。

一気に騒がしくなる里、兵士代わりの男らが武器を手に警戒する。

見張りの塔の者が声を上げた、

「囲まれている。人種の兵士だ・・・見知らぬ獣人もいる。」

と。


それから里の守りである柵が、攻城兵器の様な物であっけなく壊される。

雪崩れ込む兵士、それを防ぐ獣人。


どこかで火の手が上がった、女性や子供の悲鳴が聞こえ始める。

「こっちは囮か!裏に迎え!」

大きな獣人が叫ぶ。


兵士の数は1000人、いかにステータスが高いと言えども劣勢に。

次々に子供らが攫われてゆくのを、唇を噛みながら目で追うことしかできない。

「くそー。もうダメか。」

そう村長が呟いた時に聞こえた。

「村長ーッ。もう大丈夫だよー。」

独特のいいまわし、1年ほど前に姿を消した・・・サンチェと言う少女の声。


声の方を見ると、兵士が空に舞い上がる様に蹴散らされている。

「何が起こっているのじゃ?」



豹獣人のケルニア  side


俺は地獄を生きてきた、それもみんな獣人のせいだ。

母親が村の外で捕まって俺を孕んだ、その後逃げ帰った母親を里は捨てたのだ。

その後俺は母と地獄の様な生活を送っていて、母親もその中で死んだ。

これは俺や母を捨てた里への復讐だ。


塩を手に入れに来る獣人の後をつけて、里の場所を確認したケルニアは、貴族の兵士に連絡を取り村を包囲してから襲い掛かったのだ。


武器や攻城兵器を持つ1000人の兵士の前では、獣人といえども無力だった。

次々にガキや女が拐われて、里の外に運び出される。

心が躍った。笑ってやろうと思ったその時、異変に気づいた。


「後ろから敵だ!うわー。」

声が聞こえた方から向かってくる集団が、『6・7人か?』そう思ったが・・・なんだこの威圧は。

恐ろしい威圧が兵士らを飲み込む、兵士らは身動きすらできなくなると跳ね飛ばされる様に、空に舞い上がる。


さらに、そこに空からワイバーンの群れが。

「くそー。血の匂いに集まってきたか!」

早くここから逃げなければ、ワイバーンの餌にされる。

ケルニアは、身の危険を感じながらも金縛りにあった様な身体に、喝を入れてやっとのことその場を移動し始めた。


その後ケルニアが見た情景は異常だった。

兵士を蹴散らして里に飛び込んできたのは、人種の年若い男女。

「なんだアイツら!」

と言葉が漏れる、その男女はあっという間に1000人の兵士を蹴散らすと、群がってきたワイバーンをハエを落とす様に地面に叩き落とすと、次々にトドメを刺すとどこかに消していったのだ。


30分もせぬうちに1人の若い男がケルニアの前に、

「お前が協力者か。いや復讐者か。」

と言うと逃げる暇もなく縛り上げられた。


ーー 村長 ベイ   side



「もうこの里もダメじゃ。」

ベイは兵士に襲われ女子供を攫われ、さらに空を覆う様なワイバーンの姿を見て諦めていた。

「村長ーッ。もう大丈夫だよー。」

と言う声を聞いて、あの若者らを見るまで。

あの若者らは、兵士と言わずワイバーンの群れをいとも簡単に、叩き落として狩り尽くした。

そしてハーフの豹の獣人を捕らえていた。


「この者は・・・デリアの子!そうか・・あの時の恨みが、この里を・・。」

がっくり肩を落とす村長。

「全てわしの責任じゃ。」

ーー サンチェ  side



里が襲われている!間に合うの?


でも大丈夫だった、エストニア様は多くの仲間を助けてくれた。


里は壊滅的な損害だったけど、死んだ者は数人。

奇跡に近い状況だと私は分かっていた。


「お母さん!私よ、サンチェ!」

お母さんを見つけた私は、その胸に飛び込んだ。

「え!サンチェ。本当に貴方なの?」

お母さんはびっくりした様な嬉しそうな顔で私を強く抱きしめてくれた。


「今までどこにいたの?そしてその方達は?」

「うん。説明するね。私は・・・。そして女神様から・・・と言われたの。」

今までのことを一気に話すと、サンチェは改めてエストニアに向き合い。

「エストニア様、本当にありがとうございました。これからは私死ぬまでエストニア様にお仕えします。」

と言ってしまった。




ーー  隠れ里のその後。 村長ベンとサンチェの母   side



「お前達は王国の法に触れる行いをした。この俺エストニア伯爵が罰を下す。もうお前達の戻る家はないと思え!これから領主を捕らえに向かう。」

と縛り上げた兵士の中から隊長格の兵士を小脇に抱えると、空に舞い上がった。

「ひえええ」

兵士の声が森に響く。


しばらく空を飛ぶと森を抜け、遠くに領主の館が見えてきた。

この周辺を治める子爵の領主邸だ。

そこに兵士を抱えて舞い降りたエストニアは、門番に領主を呼び出す様言いつけて兵士の顔を見せた。

「隊長!森に行かれたのでは・・。」

確定だ。


直ぐに屈強な兵士を連れた領主が姿を現した。

「何用か?ん!ケンドール公爵の・・何故?」

口籠る領主に兵士を突き出すと

「獣人の里を襲いその身柄をさらおうとしたこと、この僕が確認して兵士を全て捕縛した。言い逃れはできないぞ。これは国王からの許可状だ。その方を王国法をもって貴族位を剥奪し、所領を没収する。」

と言うと、逃げきれないと思った領主は。

「こいつを殺せ!」

と兵に号令した。


兵士数十人が一斉に襲いかかる、その時雷鳴が!

音と光の静まった後には、兵士と領主は誰も息をしていなかった。

生き残った家人に

「10日の猶予をやる、それ以上止まれば同じ姿になると思え。」

と言うと空に舞い上がった。



「本当はこんなことしたくはなかったのに・・・ダメ女神め。」

と愚痴りながら僕は森に戻っていった。



         ◇



里に戻った僕は、里の復興に力を貸した。

周りを囲む塀は土魔法で立ち上げた岩の壁、さらに認識阻害の魔道具を備えて外からの侵入の危険を格段に減らした。


壊され焼かれた家は綺麗に撤去し、森の木を製材して立派な家をいく棟も建てた。

食料についても食糧庫を地下に作り、魔法袋と同じ効果の収納庫を据えた。

その中に塩や砂糖はもちろんのこと、穀物や肉を大量に収めたのだ。


里の村長の家で

「ありがとうございますじゃ。ここももうおしまいじゃと覚悟していたのに。しかし何故ここまでしてくださるので?」

と言う村長に

「サンチェが泣いて頼むからだよ。女神の言葉なら無視しようかと思ったが・・・。」

と言うとその少年は、サンチェを振り返り

「本当に付いて帰るのか?ここで母親と生活すればいいのに。」

とサンチェに声をかけた。

「いいえ、エストニア様。私はみんなの命を助けていただいた恩返しをしなければ、女神様にも申し訳ありません。死ぬまでついて行きます。」

と言い切る我が娘を横で見ていた母親は

「もうサンチェたら、言い出したら効かない子なんだから。大変ご迷惑とも思いますが娘を頼みます。」

と頭を下げられた少年は

「分かりました。安心していてください。」

と答えると家の外に出ると、仲間に

「それじゃ戻るか。」

と声をかけたのです。

もうすぐ夕刻、これから森は危険な時間

「皆様これからでは危険ですじゃ、今日まで泊まって行かれては。」

と言う村長に

「大丈夫です、問題ありません。」

と答えると7人が集まり

「転移」

と言う言葉が聞こえたと思ったら、姿がきえていました。


「転移魔法!彼は・・女神の使徒様か。」

そんないらない言葉が里に溢れた。


「うふふふ。いい結果ね。これからもよろしくね。」

ここではないどこからか、女性の様な声が聞こえていた。

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