第30話 別荘完成と残念なエルフ
ーー エルフの使者をおもてなししていたのだが。
白の休みが終わりになった頃、雪でも降り出せばエルフの王国に帰るのも難しくなるため。
お父様が使者に対して、
「使者殿、雪が降ればエルフの王国に帰ることも難しいと思われますが。
使者殿は何時ごろお帰りになる予定でしょうか?我が家はいつまで居てくださっても構わないのですが、何か他にご用件があってのご滞在であれば良いのですが。」
というのに使者は
「実は私は、使者の役目と別に他の役目も帯びており、それが直ぐに終わらぬようで。」
と答えにくいように答えるのに
「そうでしたか。それなら目的が達せられるまで、我が家をお使いくだされ。」
と言われた使者殿はにっこりと笑うと
「お言葉に甘えさせて頂きます。」
と答えた。
ーー 侍女見習いのシルエイティ side
私がこのお屋敷に来て早くも季節が巡って来ました。
そんな中エルフの王国の使者として、実の姉がやって来ました。
心配していたことが起こりました、エルフは自分達の国が一番優れていると思い込んでいる種族です。
ここの生活を味わったら・・・当然、姉の様になってしまいます。
美味しいご飯に気持ちのいいお部屋そして、世界樹の上かと間違える様なふかふかのお布団。
もう姉はエルフの国に戻れぬ身体になってしまった様です。
姉妹揃って親不孝をお許しください。
今日はお姉様の為に作られたドレスが届く日です。
きっと嬉しくてしょうがなくなり、私の部屋にやってくることでしょう。
お茶菓子を準備して待っておきましょう。
ーー 学園生活2
白の季節は、行軍訓練の季節です。
しかし今年は様子が変です、隣国で色々とあってる事から警戒している様です。
この事態に学園長は
「備えあれば憂なし」と昔の勇者が言っていました。
我が校も十分な準備をする為、行軍用の装備を開発することにしましょう。」
と今年の行軍訓練の内容変更を学生に伝えたのでした。
僕らも学生らしい生活を送りながら集まっていた。
「報告が遅れましたが、別荘が完成したそうです。」
とクロニアル君が報告した。
「できたんだ。でももう白の季節だし、避暑地なら雪でしょうね。」
というミリア嬢に僕が
「それはそれで楽しめると思うよ。行軍訓練もないし、うちのお客様も暇そうにしているので、今度行こうか。」
と提案すると皆んな賛成してくれた。
学園に領地視察の名目で休学願いを出して、来週に向かうことにした。
「妹も連れて行こうかな」
そう呟く僕だった。
「え!別荘にですか?はい喜んで同行します。」
エルフの使者殿は二つ返事で答えると、
「どんな美味しいものが食べられるのかしら。」
と、呟くのが聞こえて来た。
◇
別荘に向かう当日。
僕の屋敷から向かうのは、
僕、妹、僕専属の侍女の2人に妹の侍女1人、それと使者殿とそのお世話係1人の7人に御者1名と料理人2名で合計10名だ。
他のメンバーもそれぞれお付きのものをつれて来るので、25人ほどの大所帯になった。
別荘自体は50人でも余裕の大きさがあるので大丈夫だが、帰りたくないと言い出さなければ良いのだけど。
馬車で2日。
高原の様な場所に建てられたその建物は、滝の近くの川のほとりに建てられていた。
地下3階地上3階の建物は、3棟の建物から出来ていた。
「ここが僕らの別荘だよ。正面が本館、右手がお風呂などがある美容棟。
左手が食事と遊戯の棟だ。」
と設計した僕は説明したが、中がそのとおりかは見てのお楽しみだ。
必要なものは既に手配済みで、届けられている様で直ぐに料理人たちが仕込みに入った。
侍女やお世話係は、お風呂やその他の施設の確認地準備に向かった。
僕らはひとまず、周囲の散策に出る。
「とても気持ちがいい場所ですね。」
妹のクレアリーナがそういうと、女性陣が皆頷いていた。
「ここはどんな食事が名物なんでしょうか?」
使者殿が声に出す
「ここはあまり人がいませんし、名物らしいものがないと聞いております。ただ以前僕が海の幸を手に入れていたので、それで作らせる料理はエルフの王国では食べたことのない料理であると思っていますので、期待しておいてください。」
と言うと
「楽しみにしておきます。」
と本当に楽しそうにしていた。
食いしん坊エルフですね。
ーー これが僕の作り上げた一つの完成形。
周囲の散策に出かけた僕らは、適当に時間を潰して別荘に戻る。
玄関を入ると広く高いエントランスが訪れた者を出迎えてくれる。
エントランスの奥に二階に上る広い階段が、赤い絨毯と共に豪華さを演出する。
二階は両隣の棟への渡り廊下もあり、一番移動が自由な場所だ。
当然そこには図書室や会議室などの部屋が多くある。
三階には、左右の階段から男女に分かれた、部屋にそれぞれ行ける様になっている。
女性用の棟側のみが右手の美容棟に直接行ける様になっている。
男性用は逆に左手の遊戯やお酒を嗜む棟に直接行ける様になっている。
美容棟の1階は男女に分かれた温泉ジャグジー室で、大きな内風呂と風情のある露天風呂が目を引く。
二階はサウナと水風呂及びテラスがあり、火照った体を涼むことができる。
三階は女性専用の美容棟である。
左の食事と遊戯の棟は、一階と二階に広さに違う食堂と大広間があり、パーティーなどが行える様になっている。
三階は男性専用の遊戯室と酒や秘密の話をする様な小部屋となっている。
中央棟の一階は、使用人や侍女専用の個室が配置されており、左右に専用のお風呂と食堂がそれぞれ男女別に備えられている。
ーー こだわりは。
この別荘のこだわりは、いかに現代日本の再現ができるかであった。
全管空調システムが魔道具で完備されており、床暖房も備えていて。
冬でも春かと思える暖かさを保っている、この世界の言葉で言えば。
[白い世界に青の心地よさ]とでも言うのかな。
地上3階地下3階の建物は当然、エレベーターを備えている。
エレベーター自体はこの世界でも似たようなものが既にあった。
地下の設備は、温度変化が少ない事から貯蔵庫が多い。
大きな音を立てても大丈夫な事から、カラオケ設備を作ったんだが。
この世界個人で歌う歌がなくて、ここでは演奏者を呼んで音楽鑑賞室となった。
食品庫には僕がここ用に開発し据え付けた、時間停止の冷蔵庫と冷凍庫があり、部屋全体がお酒の保管庫の部屋もある。
僕はその冷蔵庫と冷凍庫に食材を収納から出すと納めていく。
魔力を貯めた魔石をセットすれば、1年間は稼働する設計である。
ーー お風呂や食事を楽しもう。
男同士でお風呂とサウナを楽しむことにした。
お風呂は寮のお風呂も魔改造しているのでそこまで驚かれなかったが、サウナはその作りと水風呂に驚いた様だ。
「こんなに暑い部屋じゃ、喉が焼けるよ。」
「僕もうダメー。」
大騒ぎするマッケンジー君とクロニアル君。
そんな風呂上がりの乾いた体へのご褒美、冷たいジュースを手渡す。
「ハアーッ!身体に染み入るね。しかし暑かったり寒かったり、サウナって凄いね。」
そんなことを男どもが言っている間に女性陣は、3階の美容の間に。
美顔マッサージと痩身マッサージを会得した、侍女達が使者殿を始めメンバーの女性陣を堪能させる。
「シルエイティよ。この心地よさは魔法なのか?」
と姉の使者殿が天にも昇るいや世界樹にも駆け登る様な顔で聞く。
「お姉様、これは技術と効能の相乗効果というものだそうです。私たちも日頃からお互いを相手に、技術を高めていますのよ。」
と説明した。
『こんな幸せを知ってしまったら、二度とエルフのど田舎には戻れぬではないか。』使者殿は本気で居座る手段を考え始めていた。
クレアリーナは、感動していた。
自分は国を失い、家族を失い、恵まれた生活を失った。
と一時悲観していたはずなのに、今では自分の居るべき国、家、家族ができ。
そして今まで味わったことのない、幸せな生活が波の様に押し寄せてくる日々。
『私だけがこんなに幸せでいいのかしら・・・きっとみんなの分の幸せが来ているのね。』と思うことにした。
そしてここの売りである「若返り」は今のメンバーには実感することはできなかった様である。
ただし一部の侍女がその飛躍を扱うことで、間接的に若返っていったと言われる。
その後ここへのお供を申し出る侍女らが殺到して、エステの技術がさらに高まったとか。
今後この施設は、メンバーの家族や友人らが使用することによって、別荘という文化が大いに広まったと言われる。
ーー 今夜の料理はバイキングだよ。
心地よいお風呂を堪能したメンバーに食事の時間が訪れた。
今夜の料理は、バイキング形式。
この世界にバイキングはいないが、山賊入る。
しかし「山賊料理」ではネーミングが悪いので、食べ放題の意味を考えて。
「今夜の料理は、「欲望のままに」というものだよ。好きな料理を自分で取りに行って食べる形式なので、十分楽しんでみてね。」
と紹介した。
中央にテーブルが並べられ、ゲストは皆好きな場所に陣取る。
周りの壁沿いには、これでもかという種類の料理が大皿に盛られ並べられている。
料理は熱いものは熱く、冷たいものは冷たい状態が保たれる様な魔道具が備え付けられ、前菜からメインそしてデザートが。
マナーや順番を気にすることもなく、欲望のままに取り分けて堪能できるのだ。
「これは!天国とも地獄とも言える幸せな料理だ」
と使者殿が素直な気持ちを呟いた。
「また痩身マッサージをしてもらわなければ・・・!そうか、これであのエステなのか!」
1人で興奮のエルフを遠い目で見ながら、皆思い思いに食事を楽しんでいる。
「エストニア君、これは早めにお母様達に紹介しないと後が怖いね。」
とクロニアル君がいうのを聞いて、慌ててお母様に連絡を入れる僕だった。
この後別荘に、お母様を含めたメンバーの家族が押し寄せてくるのは、当然といえば当然だった。
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