第28話 スミス共和国の滅亡と亡国の姫
ーー 亡国の姫。
王都に戻った僕はそのまま少女を連れて自宅屋敷に向かった。
ちょうどお父様とお母様がいらっしゃたので、
「この子についてお話があります。」
と言うと少女を侍女に任せると、別室でことの成り行きを話した。
「するとその男はスミス共和国の兵士で、あの子を王女と呼んでいたのだな。」
お父様がそう聞くので、頷く僕。
「分かった、この事はここだけの話にしなさい。」
と言うと何処に出かけられた。
するとお母様が
「もう、エストは何人家に連れてくるの。」
「困ったものだわ。」
と呟きながらニコニコして少女の方に向かった。
スミス共和国第一王女 クレアリーナ=トラバーユ 8歳
私はクレアリーナ、もう故郷のスミス共和国は無くなっていることでしょう。
故郷や家族を失った私はあの森で、唯一のお兄様ともお別れすることになってしまった。
私もその後を追うと覚悟していたのに・・・ここは何処なの?
助けられたの・・・誰に?
もう私の知る者はいないのね。
と絶望を感じていた所に、このお屋敷の主人と思われる女性が姿を見せた。
「あら、気が付いたのね。お加減はどうかしら?クレアリーナ元王女様。」
と私の名前を呼んだ、元王女とも。やっぱり滅んだのね、でもなぜ私は生きているのかしら。
諦めと疑問の表情でその女性を見つめると。
「そんなに警戒しなくていいのよ。貴方は私の息子が助け出したのだから。家族も同然よ思ってここで暮らしていいわ。」
と言うのです。
確かにあの時もう私は死ぬしかないと覚悟をしていたわ。あれからどれくらい経ったのかしら。
ここはかなり離れた場所のような感じがするけど・・。
その疑問を感じたように
「ここはセガール王国の王都よ。そして貴方が襲われたのは今日の昼ごろ。」
と言われたのです。
私はその言葉が信じられなかった。
だってあの森は西部大森林、あそこからセガール王国へ森を抜けるだけでも・・。
分からないけど10日では効かないでしょう、無事に抜けられるとして。
それなのに今日の昼ごろ助けられて・・・やっぱり信じられないわ。
そんなことを思いながら甲斐甲斐しく身の周りの世話を受けていた私。
そんな世話を約束少女の中に、耳の違う少女が2人。
「貴方も私たちと同じ、エストニア様に助けられたのね。貴方も女神に何か言われたの?」
ときてきた2人に
「エストニア様と言うと、セガール王国の若きドラゴンスレイヤーのエストニア様ですか?」
と思わず聞き返した。
そう私はお父様である王から、
「セガール王国のエストニアと言うドラゴンスレイヤーを頼れ、多分力になってくれるだろう。」
と言っていたのを思い出した。
その後2人からエストニア様の来歴や人となりを聞いた私は。
「まだ10歳のお歳でドラゴンスレイヤーでありまた、転移魔法を使いこなす希代の大魔法師であると」
と思わず呟いたほど驚いていた。
「でも勘違いしないでね。貴方の話から私たちと違って女神様から直接天啓を受けているのではないので。不要な期待はしないことね。」
と注意をされた、「不要な期待」とはなんなのかしら。
その後エストニア様のお母様と言うあのうら若い女性が訪れて
「今日の夕食は夫も息子も揃うわ、準備をして待っているのよ。」
と言われた。
ーー 国王会議3。
セガール王国の国王を前に王国の重鎮が揃い、今後の対応を話し合っていた。
「それではその少女が今は滅んだスミス共和国の忘れ形見ということで間違いないのか。」
国王がケンドール公爵に尋ねる
「はい陛下。間違いないようです。それに私の屋敷にいることいや生存していることすら、何処も感知していないでしょう。」
と断言する。
「分かった、その姫についてはその方に任せよう。ただしスミス共和国の復興はなしで、良いな。」
と方針を決めた国王は次の議題に話を振った。
ーー スミス共和国亡き後、その領地をめぐる攻防。
聖皇国 side
「旧スミス共和国の主権はどうなっておる。」
聖皇国王の側近、ベンジャミン=カレール総司祭 40歳は、報告に来た聖騎士に尋ねた。
聖騎士は答える
「未だトーラル王国軍と小競り合いが続いております。
ただし我が聖皇国軍が勝利すると確信しております。」
と力強く答えたのを良しとして。
「分かったそのようにお伝えしておこう。」
と答えて下がらせた。
この度のスミス共和国崩壊のキッカケである内乱は彼が画策したことだった。
それが予想以上に早くトーラル王国が侵攻してきたため、そべ手をその手にすることが出来ず、密かに焦っていたのだ。
「これでなんとかなりそうだ。」
男はそう呟いた。
トーラル王国 side
トーラル王国は、情報戦を得意とする王国である。
スミス共和国が他国の陰謀により、内乱状態に陥っていることを早くに知り。
軍備を整えて侵攻の準備を整えていたのだ。
ただし領土拡大が目的ではない。聖皇国の勢力拡大を脅威と考えていたのだ。
最近女神の天啓という話が世間の噂にのぼることが多くなった。
聞き流せばそれまでのことだが、事は聖皇国になると話は変わってくる。
「あの国は女神の威光を威に着て、まさに正しい事のように非道を行う国だからな。」
と呟くのは、この国の国王アルフレッド=T=トーラル 35歳だ。
「飢えた避難民に食糧を与え、皇国軍に抗えと言い聞かせよ。そうせねば故郷は消えるというのだぞ。」
と部下に王命を下した。
ーー ケンドール公爵王都屋敷、晩餐会。
「どうぞお父様、お母様、珍しくみんな揃ったので少し豪華にしてみました。」
と晩餐会の指示をしたエストニアが、料理を前にして揃った家族や侍女を同席させて食事会を始めた。
エストニアは、あまり身分差にこだわりが無い。
ちょくちょく家族以外も侍女らを同じ食卓に招いて、食事会を催すのだ。
それについては両親も「ここだけだぞ」と言いながらも楽しい雰囲気を気に入っている様子だ。
その席に1人の少女が本日新たに加わっている、クレアリーナだ。もう名前を聞かれてもトラバーユ性は名乗らない。
亡国の姫は、その事実を既に受け入れているのだ。
そこで新たな侍女としてここで生活することになったのだ。
会食は初めてではあるが、既に顔馴染みになっている面々。
特別なこともなく自然とその場に馴染んでいた。
しかし、公爵家の食事の美味しさには今でも驚きが止まらない。
これを全てエストニア様が考えられたとお聞きして、さらに畏敬の念が溢れるクレアリーナだった。
ーー 新しい妹の誕生日、既に8歳てどういうこと?
そんなある日、お母様から呼ばれた僕は衝撃な話を聞かされた。
「貴方に妹ができました。歳は8歳です。可愛がってね。」
と。
お父様に隠し子が・・・と思っていたら。
「馬鹿なことを考えないで。クレアリーナのことよ、養子にしたのよ。」
と聞いて「あっそうか。」と納得した。
お母様は息子もいいけど、娘も欲しかったようで。
その日からクレアリーナを連れまわし始めた。
学園には当然編入ということになっている。新学期から編入することになった。
「妹か。」
そこに至って僕は感慨深くその存在を考えた。
お父様はこの事について、「本人が過去を捨てたと確信した時から考えていた。」と教えてくれた。
ーー 学園生活。
色々とあった赤の季節も過ぎ去り、明日から黄の休みに入る。
休みが明ければ、僕も中等科2年だ。
新しい妹と学園に通うのも悪くはないかな。
と思いながら妹の為にアクセサリーを作成中の僕だった。
クレア侯爵夫人 。
ケイトが8歳の少女を養子にして最近連れ回しているわ。
私も娘が欲しいというのに。
夫に子供が欲しいと頼んだのに・・なかなか上手くいかないわね。
私も養子を取ろうかしら・・でもクロニアルのお嫁さんでもいいかも。
と1人妄想している彼女だった。
ーー 黄の休み。
学園の卒業式と入学式のある、黄の休みに入った。
今年の新入生は、領民が増加した我がケンドール公爵領からは、
30人もの生徒が入学した。
生徒の数は領地の力でもある、お父様の発言力が強まった感じがする。
休みの間の予定は、お母様が妹と一緒に社交に出なさいと仰ったので、暫くは忙しそうだ。
◇
ある日の社交場。
お母様であるケンドール公爵夫人の社交場は、いつも大盛況。
今宵は、僕も参加すると耳にした貴婦人達が娘や妹を連れて多く参加している。
次々に挨拶にくる女性達を丁寧に相手しながら僕は、しばし休憩をとる。
「大変そうだね。」
と声をかけたのは親友のクロニアル子爵だ。
「そうだね、でもこれも仕事みたいなものだから。」
リーマンだった記憶を持つ僕は、そんな感じでこなしていたのだ。
「エストお兄様、お母様があちらでお呼びですわ。」
と妹が言いながらくると、そばに居たクロニアル子爵に気付き。
「失礼いたしました。初めまして、クレアリーナの申します。」
と可愛らしい挨拶をした。
「これは僕も失礼しました。サンドール侯爵の嫡男でクロニアル子爵です。エストニア伯爵親友だから今後もよろしくね。」
とフレンドリーに挨拶を返していた。
「子爵様ですか、この国の方は幼いうちから功績をあげられる優秀な方が多いのですね。」
と少し影のある横顔を一瞬見せた。
すぐに笑顔に戻ると
「さあ、お兄様急いで向かいますよ。」
と僕の手を引いてお母様のところへ向かった。
僕はクロニアル子爵に笑顔で振り返りながら手を振った。
ーー 学園生活。
社交で忙しくしているうちに、新たな学園生活が始まった。
妹のクレアリーナと学園の黄の寮に入った僕は、クレアリーナに施設の案内と使い方を説明していたが、寝室のある女性の棟には入れないので、ミリアやセリーナ、レリーナにお願いした。
すぐに仲良くなった様子の4人を誘って何度か学園の食堂で食事を一緒にとったりして、様子を見ていたが問題ないようだった。
緩やかで楽しい生活が続いた頃、学園行事の領地対抗戦が始まったいまった。
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