第27話 魔王の誕生と共和国の滅亡

ーー  西部大森林 2



予定は10日間。

順調に、魔物を狩っていた僕たち。


「魔物の動きがおかしくないですか?」

ミリア嬢が異変に気づいたようだ。

「僕も昨日から思っていたんだけど、魔物が北の方向に進んでいる感じなんだよね」

と同意すると。

「これ既視感がありますよね」

「あの時の・・スタンピードの時に似てませんか?」

「確かに、でも少し違うような・・・。」

みんなかんじてるんだ。


僕は魔物以上に魔素が北のある1箇所に集まっていること、それに誘われるように魔物が集まって争い出したことを伝えた。

「魔物が争っているんですか。」

「この森の一番でも決めているのか?」

「まさか魔王が誕生しようとしているとか?」

話している間のどんどん恐ろしい方向に話が進みだす。


「でも魔王て、どういう存在で何の目的で生まれるんだろう?」

僕がそう言うと。

「昔話の感じでは、人間に対して強い恨みが生み出すような。」

「私が聞いた話じゃ、魔物を統べる魔物が魔王と呼ばれているみたいな。」

とエリー嬢とセリー嬢が言うとクロニアル君が

「きっとどれも正解で、ドラゴン級のとても強い魔物が生まれた時に魔王と呼ばれるんじゃないかな。」

と意見を言った。

そうか、ドラゴンは強くても魔王と呼ばれてないか。

僕は何か分かったような気がした。



ーー 強き魔物を退治する。


「どちらにしてもドラゴン級の強い魔物生まれた場合、僕らの王国に影響を与える可能性は大きいから今のうちに退治しておこう。」

と僕は方針を伝えると、メンバーの同意を受けて1人シロを連れて北に空を飛んで移動した。


『あそこか!』濃ゆいましが集まる場所を見つけた。

確かにこれだけの魔物が集まっているのに・・・ドラゴンはいない。

「ん!今大きな存在が生まれた。」

僕はその存在を上空から見る。

それはミノタウルスのようなそれに尻尾と大きなねじれたツノが生えた魔物だった。

「結界5発動」

その魔物の周囲に結界を張るとその中に降り立った。


「グググ。・・オマ・エ・ハダレ・・ダ。」

魔物は言葉を話した。自我がある魔物のようだ。

「僕はエスト、人間だ。」

と答えると

「オレ・・ハ・ダレカ・・ワカラ・・・ナイ。デモ・オマエヲ・・コロサ・ナケレバ。」

と言うと僕に攻撃を始めた。

どこからか現れた大剣を右手に掴むと、一振り僕の方向に振り抜く。

斬撃が飛ぶ!慌てて僕は結界を張る。

「バーン!」

結界3の強さを5枚多重で張った結界が3枚斬撃で破られた。

『まだ生まれたばかりだと言うのに、ヤバいな。力をつける前にやらねければ。』僕はそう感じて、最初から全力で攻撃することにした。


「アブソリュート・ゼロ・・発動」

「アース・ホール・・行け!」

「高速エアー・カッター・・おまけだ!」

3つの魔法をぶつけた。


その魔物は腕を交差して僕の魔法を耐えようと身構えた。

足元が凍りつくのを感じ足元に視線を落とす、そこに上空から大岩が無数に落ちてくる。

身動きできないところに不意打ちのような物理攻撃、耐えていた魔物に横から見えない風の刃が。

岩を殴りつけていた腕が斬り飛ばされる。

岩が頭に直撃する。

腰まで凍りつく、その足元に岩が当たると砕け散る左足。

尚も身体が凍りつく。

「ウウウ。コレマデ・・カ。ウラメシイ。」

と言う言葉を最後にその頭を残して、砕け散る魔物。

「もう少し見つけるのが遅かったら・・敵わなかったかも。」

と魔物に頭を収納し呟いたその時、大きな刺激が僕の身体を貫き・・意識が途切れた。



シロはその様子を間近でみていた。

周辺の魔素が新しい魔物に急速に吸い込まれるように集まる。

恐ろしいほどの成長を見せる魔物。

畏怖を感じる。しれに対して攻撃を加えるエストの姿が、いつかの母親の姿に重なる。


ものすごい魔力の魔法攻撃が打ち出され、魔物が砕けるように打ち倒された。しかしエストもその場に倒れる。

慌ててそばに駆けつけ主人を守るように周囲を警戒し始めるシロ。

どのくらい経ったか、エストの仲間が現れる。


「シロ!エスト様は大丈夫なの?」

と駆け寄った少女がエストの様子を確かめる。

「大丈夫みたいね。でもどうして・・?」

「ここは不味いから、森を出よう。クロニアル君そっちを持って。」

少年2人がエストを抱えて南に移動し始める。




         ◇


森を移動すること2日目。

森の南側に出た。


「やっと抜けたか、結構大変だったな。」

満身創痍のエストを除いたメンバー、未だエストは眠ったまま。

「馬車を見つけたわ。あっちよ。」

ミリアが指差す方向に向かう。



          ◇


目を覚ました僕。

「見知らぬ天井じゃないな、馬車の天井だ。でもどうして?」

と独り言を言ってると、それに気づいたクロニアルが

「気づいたね。良かった。」

と言うと僕を見つけて、皆んなで集まる魔物やドラゴンを倒しながら戻ってきたと教えてくれた。

今は分からないが僕のあげていた薬やポーションで何とかなったが、かなり危険だったそうだ。

「それは大変だったね。みんなにお礼をしなきゃだね。取り敢えずありがとう。」

とクロニアル君に感謝を伝えた。

その後顔を見せたメンバーにお礼を言って、生まれた魔物の話をした。

「それって、もしかして魔王だったんじゃ。」

とミリア嬢がいえば

「多分そうよ。そんな魔物聞いたことないもの。」

魔物に詳しいエリー嬢が同意する。


なら僕が倒れたのはその経験値がそれほどまで大きかったてこと。

自分の体を見るが背が伸びたりはしていない、どこが成長したんだ?



その様子を特別な目が見ていた。

「器も十分大きく成長したわ。予想以上ね。でも直接操作できないのが悔しいわね。あの意地悪女(女神)のせいよ。」

と愚痴るその存在。



ーー 青の季節。


青の休みが終わる頃、僕らは王国の王都に戻った。


話によると西部大森林から北に溢れ出た魔物が、スミス共和国に大きな災害をもたらしたようだ。

内戦状態で十分に対応できなかったスミス共和国は、現在滅びかけているようだ。


これからさらに大きな動きがありそうだと、王国の重鎮方は見ているようだ。



僕らは学園の日常に戻っている。

「魔物狩りの季節だね。この間嫌と言うほど倒してきたけど・・まだいるのエスト様。」

ミリア嬢が僕が魔物の死体を集めて、農地を復活したいと言っていた事を言っているのだ。

「計画ではもう十分なんだけど。スタンピードがよその国で起こっただろ。

備えることが大事かなと思って、もう少し頼むよ。」

とお願いした。


学園行事の魔物狩りも無事に終了した。

残りの時間を薬作りに励んだ僕は、メンバーにお礼がてら出来上がった薬を手渡した。


「ありがとうございます。これがあれば30年は安心ね。」

と、若返りの秘薬を手にエリー嬢がセリー嬢と喜んでいる。

「この間の戦いで、エリクサーを使ったから貰えて良かったよ。」

と丸薬を見ながらマッケンジー君がホッとした顔で呟く。

やっぱりかなり危険だったんだあの時。


僕は命懸けで助けてくれたメンバーに改めてお礼を言った。




ーー 赤の休み。


赤の季節が到来してきた。


一年が経つのは早いもんだ。この世界に生まれ変わった僕は、濃ゆい人生を送っている。

たった10年が日本に住んでいた頃の人生並みの長さのようだ。

生きているて言う実感が強いと濃ゆいね。

しみじみ感じている僕だった。


お母様が僕を呼んでいるようだ。

「はい。お母様何かありましたか?」

僕はこの世界の母に感謝しながら、今を生きている。



「エスト、貴方に頼みがあるの。またあの秘薬と美容液入りの化粧水を作って欲しいの、いいかしら?」

「はい大丈夫です。素竿も十分なりますから。」

そう答えて、作りおいていた分を取り出すとお母様に差し出した。

「ありがとう、助かるわ。」

それを受け取ったお母様は、どこかにお出かけされた。



ーー ケイト公爵夫人  side



息子がまた成長したみたい。身体が大きくなったわけじゃないわ。

母親だからわかるの、人として大きくなった感じ。

息子に成長は、私の成長でもあるのよ。


今日は、新しく私の派閥に入った貴婦人方に、何時ものものを渡す日。

美容液入りの化粧水よ。

これだけでも5歳は若返るのよ見た目なら10歳ほど若々しくなるわ。

今この国では、若々しいご婦人方が社交を取り仕切っているの。

今日の他国の使節団のパーティーでもその影響力を十分に見せつけなければ。


でもあの子らどのくらいドラゴンを倒したのかしら?

ドラゴンがいなくなるのも今後困るし。

ドラゴンの心配をしながら、私は会場へと向かう。


会場の貴婦人達の期待の目が私を捉えて離さない、この視線が痛いほど楽しいわ。



ーー 王国会議 2


「それで状況は判明したのか?」

国王が集まった王国の重鎮を前に情報部の報告を聞く。

「はい陛下。スミス共和国の滅亡は時間の問題で確実の模様です。

魔物のスタンピードで街や村は壊滅状態、兵士らも大半が大きな損害を受けた模様です。

内戦状態のところにスタンピードで、復興は無理かと。」

との報告に、王弟のセガール公爵が

「してどこの国がその後釜を狙っている。」

と問うと。

「はい閣下。西から聖皇国、東からトーラル王国が侵攻の準備をしている模様です。」

と答える情報部。

「我が王国は如何しましょうか?」

ケンドール公爵が言うのを受けて、サンドール侯爵が

「我が王国は力を貯めておくのが良いかと。」

と意見を言うと、他の重鎮も無言で頷く。

「我が王国は静観し、国力を高めることに力を入れよう。ケンドール公爵よ、エストニア伯爵に伝えよ。王国内の国力を上げるようにと。」

国王がそう言うと会議は終了した。




ーー 富国強兵。



お父様が白から戻ると僕を呼び

「国王陛下からの下命だ。王国内の国力を上げよと。」

と、王国の富国強兵の命を受けた僕。


「分かりました謹んでお受けします。ちょうど農地復活用の準備ができていたところです。王国中の農地を復活してきます。」

と言うと早速メンバーに連絡を入れて、手分けして農地復活を行うことにした。


それ方赤の休みが10日ほど過ぎた頃に、王国中の農地の復活が完了した。


魔力が満ちた農地は通常の数倍の時間と実りを王国にもたらし、数年分の食糧備蓄に成功した。


兵についても隣国で戦争状態の知らせを受け、危機感を持った兵士らが熱心に訓練に参加した結果。

強い軍が出来上がった、さらに僕が防衛のための兵器を作って提供したおかげで。

富国強兵の具現化が成ったと言えた。



ーー スミス共和国の滅亡。


スミス共和国の王は苦悩していた。

裏切り者から始まった内戦が激化し、現国王派が苦戦しているところにあの魔物。

共和国内は荒れ果て、明日食べる食糧も乏しく成った。

そして東西の王国が侵攻してきている今、王国の滅亡は免れぬ状況。

せめて子供らだけでも逃さなければ。


王はまだ幼い王子と王女を王妃に託して、

「南に生き延びよ。」

と言うと馬車を走らせた。


しかしその馬車を追うもの達が。

「あの馬車を追え!この地から王の血を絶やすのだ!」

反逆のもの達が、執拗に追っ手をかける。



その後スミス共和国は、歴史の中からその名前を消すことになる。




ーー 赤の季節。



学園に遅れながらも戻った僕らは、ダンジョン攻略の指導者として学園生を指導していた。

新しいダンジョンも成長をしているようで、かなりの大きさの至ったようだ。

もう少し成長すると、落ち着いて魔物を生み出すそうだ。


ダンジョンを管理する1人エリー嬢が

「管理は完璧よ。売上も笑いが出るほどに。」

と嬉しそうだ。


そんな赤の季節が過ぎる中、誰かの呼ばれたような声が聞こえた。

「ん?誰かが助けを求めている。」

「あの森か。行ってみるか。」

僕は転移魔法であの魔王のような魔物と戦った場所に移動した。


シロが反応する、血の匂いがするようだ。

その方向に移動すると、剣戟の音が聞こえる。

「誰かが戦っている。」

様子を見るように覗くと、馬車が横転していた。

さらに奥で戦う者達が。


「お逃げください王女様。王子は助かりません、王女様だけでも。」

悲痛な声が聞こえた。

襲われているのは何処かの王子と王女のようで、王子はもうダメのようだ。

僕はそこに駆け寄る、今まさに生き残った王女も敵の剣に晒されるところのようだ。


「待て!俺が相手だ。」

幼い王女と敵の間に割り込んだ僕を見て。

「何やつか知らんがお前も死んでもらう。」

と言うと10人ほどの兵士が僕の襲いかかる。

「ライジン」

その一言で、白き雷は10人の兵士を貫き命を刈り取る。

残った兵士も驚き、逃げ始める。

僕は気を失った王女と呼ばれた幼い少女を小脇に抱え、まだ息のある兵士に声をかけた。

「王女は助けた、何処に届ければいいのか」

と、すると兵士は安心した顔で、王女を見た後。

「エストニアと言うとセガール王国の貴族の元へ。」

と言うと息を引き取った。

「どうして僕のところに?」

理由は分からないが、頼まれた以上助けぬわけもなく。

少女を連れて王都に転移魔法で戻った。


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