第26話 大森林の行軍訓練

ーー 貴族と王都を揺るがす事件が収まった。



ゴタゴタとしていたが、何とか沈静化した事件の後始末。

多くの犯罪者が捕まり処刑が行われていた。

処分の速さもいつもと違っていた。


噂ではエルフを何人も見かけたと言うものがいたが、本当か誰もわからなかった。


白の休みも終わり、学園が始まった。

行軍訓練が行われる予定だが、少し変わると言う情報もある。


学園長が行軍訓練の事についてお話をすると言う事で、学園生が大講堂に集められた。


「皆さんの元気な姿を見ることができて、安心しました。

今回の訓練について、一つだけお話ししておきます。

中等科と高等科の生徒については、大森林で実践的な行軍を行うことになりました。

移動時期や準備するものについては、後ほど連絡します。」

と言うと学園長は降壇された。


中央大森林ありを訓練場所にするのか?僕はシロを見つけた大きな森を思い出していた。

『そう言えば普通に竜が居たよな。みんな大丈夫かな?』と思ったのは僕だけだったのかな。




           ◇


行軍訓練当日。


「今からそれぞれ馬車で移動します。これも訓練の一環です、真剣な態度で臨んでください。」

引率の教師がそう言うと数十台の馬車が走り出した。


「学園長、天啓は本当なのですか?10年以内に戦争や魔王が発生したり生まれいでると言うのは。」

学園長を補佐する男性が尋ねる。

「教会がそう言っていると言う話です。私は存じません。ただ生徒が生きながらえるためなら、私は何でもしてあげたいと思っているだけです。」

学園長はそう言うと部屋に戻っていった。



学園に話が舞い込んできたのは、王都内で何か大きな事件があった後のこと。

王都にある一神教の中央教会に住むシスターイナラミーが、天啓を受けたと総司祭に話をしたことから始まります。

話を聞いた総司祭は、世界の危機に対処すべく活動を始めます。

・平和のために布教を更に推し進めるように

・魔王の芽となる不幸や不満を取り除く活動を

・戦争よりも祈りを

これらを信者に強く求め出した。

そのため、貴族の間にも戦争を回避するために富国強兵を求める声が高まり。

学園にその余波が押し寄せ始めたのである。



          ◇


5日後。

目的地である、中央大森林に到着した生徒達一行。


「ここからは班に分かれて目的の魔物と薬草を得るため、森に入り行軍をしながらここに戻ってきてください。期限は10日です、目標を達成できない場合でも必ず戻るように。」

「それとこれは緊急時の連絡魔道具です。各班に3つずつ渡しますので、無くさないように。それでは行軍開始。」

と言う掛け声で始まりました。


『森で狩りをしたり薬草採取を行軍で?意味がよく分からないが団体行動をしろと言うことなのか?』僕は今日に変わった行軍訓練の主旨を考えていた。

10日の期限なら片道最大5日の予定になる。しかしこの森に5日も進めばかなり危険があると思うが、その対処は大丈夫なのか?


引率の教師に同行の冒険者、何もそこまで強くないようだけど。

この森はそこまで安全なのか?


疑問だらけの事態に僕の下した判断は、最短距離の移動を完全防御結界で守りながら進む事だった。

学園の生徒は、中等科と高等科を合わせるとおよそ400人。

領地分けすると約100人ずつになる。

一小隊33人で100人なら一中隊になるよな・・・多分。

小隊ごとに魔道具を渡して・・全体で一大隊と一中隊で十二個あればいいから。


僕は高等科のそれぞれのリーダーに集まってもらい。

簡単な森の地図に目的のおおよその場所を書き込み渡すと、結界の魔道具を同じように渡して

「この森には普通にドラゴンが居ます。それ以外にも恐ろしい魔物がいくらでもいるでしょう。この魔道具を作動しておけば、ほとんどの魔物からの攻撃は防げます。ただし範囲を外れたり、壊れたりすればその限りではありません。

ここでの失敗は即死だと思って責任を持った行動を求めます。」

と学生の中で最も高位の貴族である僕からの指示をすると、解散しました。


僕が同行する班は「黄の第1班」です、2班がマッケンジー子爵とミリア男爵、3班がレリーナ、セリーナ男爵が同行します。


準備ができた班から森に向かいます。



          ◇


目的の魔物は「ゴールド・ラビット」と呼ばれるウサギの魔物です。

生息範囲は森の外周です。攻撃力はそこまで高くはありませんが、素早いため捕獲には手こずるでしょう。


薬草は「ホクラテス」と呼ばれる万病に効くと言われる薬草で、ゴールド・ラビットが好む植物でもあります。


2日ほどの行軍で目的地近くまで来ました。

後は見つけるだけです。


僕は罠を提案します、まず薬草を採取してそれを餌に罠を仕掛けるのです。

一日がかりで薬草を採取し、獣道に10個ほど罠を仕掛けます。

後は待つだけです。


周囲を他の班の生徒達が闇雲にゴールド・ラビットを探しているため、逃げ惑っている魔物は夜に餌を探しに回るはずです。


次の朝早朝、みんなで手分けして罠を見て前ります。

成果は、ゴールド・ラビット5匹を捕獲しました。

「昼にはここから戻ります。早めの食事をしたら準備を終えてここに集まってください。」

と指示をして僕は森の状況を観察する。


学生が騒いでいるため、周囲の魔物が反応を始めています。

逃げるものと近づくもの、あまり良い状況ではありません。


僕の率いる黄の100人は次の日の夕刻に森の外にたどり着きました。

行程は6日です。

残りの学生も明日には戻り始めなければ、間に合いません。



         ◇


9日目。


一小隊を除き学生が戻ってきました。

残り100人、明日までに戻れるでしょうか心配です。


10日目。


昼になりましたが戻ってきません。戻ってきた学生は僕らのパーティーを除き帰途につかせています。


11日目の朝。


捜索開始です。

僕は魔道具につけた信号を探します。

2つの反応がすぐ近くまで来ているのが分かりました。

30分後の合流して森の外に出ると残りの生徒のことを尋ねます。

「沢山の魔物に囲まれ襲われました。魔道具のおかげで、直接的な被害はなかったのですが・・・。一部の学生が混乱して結界の外に飛び出したのです。

その10人の生徒を探しに出た高等科の生徒5人の15人が素材不明です。」

と言うことだった。


結界の魔道具も持たずに、かなり危険な状況です。ただかなり森の外周に戻ってきていたようで運が良ければ森の外に出ている可能性もあります。

僕はメンバーに森の外周の捜索を依頼し、シロと森の中に入りました。



           ◇


認識阻害のコートを着込み駆け抜けるように森を進みます。

気配を見つけました。

5人です、固まっているようです。


10分後大樹の空に避難していた5人を見つけました、2人の中等科の生徒がひどい怪我をしています。癒しの魔法で怪我を治し転移魔法で集合地点に移動します。


シロをメンバーの元に向かわせると。

30分もすると残りを森の外で見つけたと念話が来た。

食事をしながら待つと、メンバーと10人の学生が戻ってきました。

なんとか全員生き残れたようです。

馬車に乗り込み学園を目指します。帰るまでが行軍です。




ーー 行軍訓練を終えて、学園長の呟き。


私はハイエルフであるが今はその本当の姿や性別まで誤魔化して学園の中に埋没している。

その理由や目的は未だ達成されていないが、それも後少しと思える兆しが見えてきた。


今回の行軍訓練はひどいものだった。

悪意を感じずにはいられないもので、もし彼が在学していなかったら・・・有史以来の被害が予想できた。

しかし、学園に全ての子ども達が戻ってきました。

本当に無事でよかったと私はホッとしました。

学園長はそう呟くと王国への報告書を作成し始めた。



「こんな無謀な計画を立てるなんて・・・何があると言うのでしょう。」

などと繰り返し独り言を言いながら、ペンを走らせる学園長。



ーー 王国会議室。


「スミス共和国がきな臭いと言う話は本当なのか?」

セガール公爵が国王の前に集まった王国重鎮の会議で、情報部の者に問いただした。

ただその中に居るはずの高位貴族が代変わりしていたが、誰もそれには触れずに話は進む。

「はいセガール閣下。情報部の見解として今まで集めた情報をまとめると。

共和国の中で内戦が起こっているのは確実です。しかも現体制側が苦戦しているようで、王家の転覆は確実視されています。

3つの王家で纏まっていたスミス共和国が割れるのかまたは新たな一つの国になるのかは、今のところはっきりとしておりませんが。

最悪の場合、周辺国にまで飛び火することが予想できます。」

と報告した。


スミス共和国はセガール王国の北隣に位置しその動静はセガール王国に大きな影響を与える。


「これでは教会の話の通りになるではないか。」

セガール公爵が苦虫を噛んだような表情で呟く。


その後も会議は遅くまで行われたが、今の段階では警戒をしながら危機に対応できる準備をすることで解散となった。

ーー 残り短い白の季節。



行軍訓練も終わり白の季節の後わずかとなった。

緩やかな時間が流れる中、僕はシロのモフモフを堪能していた。

学園の図書館は人の姿がほとんどなく、静けさの中好きな本を読みながら過ごす至福の時間が僕は好きだ。



明日から青の休みが始まる。

鈍った身体を戻すために、メンバーに声を掛け近いうちに森に狩に行こうと言うことになった。


クロニアル子爵の話では噂の段階だが、スミス共和国に異変があるようだ。

そこで西部大森林に向かうことにした。

スミス共和国と直接接している森となるからだ。



ーー 青の休み。


狩りに行く準備をしながら僕はお母様に相談をした。

「お母様、あの2人を僕の専属の侍女としたとお伺いしましたが本当ですか?」

と尋ねると、お母様はニッコリと笑い。

「そうですがまだダメです。今私の下で侍女としての勉強中ですからね。もう少し待ちなさい。」

と言われた、特に僕は待っている訳ではないのですが・・。



          ◇



西部大森林に向かう日。


僕の屋敷にメンバーが集まり装備を確認してから、出発することになった。

馬車は僕の新型の馬車だ。

「エスト様この馬車は、新しい馬車ですね。また何か新しい秘密があるのですか?」

エリーナがワクワクしながら聞いてきた。

今回爵位を入れた呼び名ではめんどくさいと言うことで、僕のことはエスト他はクロニアル、マッケンジー、ミリア、セリー、エリーと呼ぼうと決めたが・・どうかな。


「新装備はあるけどそれは後からのお楽しみだ。」

と僕は言うと、一枚の地図を広げた。

「これはこの間西部大森林を上から見ながら作った地図だ。

この辺りに火の山が有ってここに大きな滝がある。

火竜と風竜を見かけたし、ワイバーンもかなりいるようだ。

魔物の濃ゆい森だからお互い注意しておこう。」

と説明し、いつものように結界の魔道具などの入った魔法袋を渡す。


「それぞれの袋にはそれぞれの得意とする武器を入れてるから、現地で試してみてよ。」

と付け加える。


この後4日かけて西部大森林に向かうのだ。



          ◇


4日後。


森が見えてきた。予定の場所に着くと御者のエリックにお金を渡し、馬で近くの街に滞在してもらう。

馬車は僕らの拠点となるので、不在の時は結界で囲めばまず心配はない。


その日はそこで一夜を明かし次の日早朝から森に入った。


移動中僕はエリーとセリーにダンジョンの管理などを尋ねる。

「そうね、今は問題ないかな。採用した人材が優秀と言うのが一番かな。

エスト様のように私たちも人材を育成したいけど難しいかな。」

と答えた。


マッケンジー君に

「どうなの?」

と尋ねると何か勘違いしたのか。

「もうすぐしたら報告するつもりだったんだよ。黙っているつもりは・・・なかったんだ。」

とモジモジ言うので

「え?何の話だい。領地運営はうまく行っているのか聞いただけだよ。」

と言うと真っ赤になって

「ええそうなの、僕は・・・。うまく行ってるよ予想以上に、お母様達ががしょっちゅう来ててね、うるさいくらいだよ。」

と答えた。

なんかわからないが楽しそうでよかった。



ふとついでにと言う感じでクロニアル君に

「どうなった?」

と事件のことを聞いたら

「うん、僕も君には一番で報告するつもりだったんだよ。でもまだ10歳だから婚約は形だけで彼女が12歳にくらいになった時にと言われて。」

と言うので

「彼女?12歳?誰の話なの?」

と聞き返すと、ミリアが

「エスト様はその手の話が鈍過ぎます。みんな知っているのにそれにエスト様も2人も家に入れて花嫁修行をさせていると聞いてますよ。」

と返され。

「え?花嫁?2人?誰のこと」

と答えると

「「やっぱり。かわいそう。」」

と女性達が呟いていた。



その後はある程度の強さの魔物を仕留めながら収納して進んだ。

「今回の魔物は、また農地の改良に使うので買取はあまり期待しないでくださいね。ただしドラゴンを仕留めた時は、また薬を作るので期待していてください。」

と伝えた。

その言葉に反応したのが、女性達だ

「絶対ドラゴンを仕留めるわよ。若さのために。」

と3人で頷き合っていたが、「君達まだ10歳だろ。」とは言えない僕でした。

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