第25話 大捕物

ーー 悪党の処断



シロを連れて僕は、王都の商会街を歩く。

目的は奴隷商のエチゴー商会、店の裏で認識阻害のコートを着込むとシロを見張りに置いて中に忍び込む。


奴隷が収容されている商会の奥に進むと、鍵のかかった扉がありその奥にも人の気配がする。

暫く待っていたら、食事を持ってきた男が鍵を開けて中に入る。

それに付いて中に入る僕。


見張りの男が3人、その奥に部屋が4つ。

部屋には3〜5人の子供たちが、中には姿の違う子供も。

その中の何人かが僕の存在に違和感を感じているようだ。

「ほらいつまでも泣いてないで、飯を食っとけよ!」

と乱暴に食器にぶち込んだご飯を投げ入れると外の出て行った。

残った男たちは隠していた酒を取り出すと飲み出した。

僕はそのグラスに眠り薬を混ぜ入れる。

10分もするとぐっすりと眠りこける見張りの男ら。


鍵を取り上げると部屋の鍵を開けて回る、誰もいないはずなのに勝手に開けられる扉の鍵に警戒する子供ら。

僕は慌ててコートを脱ぐと口に指を立てる。


「僕はエスト。助けに来たよ。みんな一緒になって。」

と16人を集めて、転移魔法を使って公爵家の庭先に移動する。

「ええ!ここはどこ?」

驚く子供らに

「心配しなくていいよ。」

と言うと見かけた侍女にルシリーア嬢を呼ぶようにことづける。


暫くすると急いできたと思われるルシリーア嬢が、僕と少女らを見つけ

「その子らは・・私と同じ子供らですね。分かりました。」

と言うとそれ以上は何も聞かずに、人を呼んで

「心配しなくて大丈夫ですよ。同じように攫われた子供たちをここで保護しています。こちらに来てください、お風呂とご飯にしましょうね。」

と優しく言いながら連れて行った。

その中で耳が他の子と違う2人の少女が僕のことを何度も振り返っていた。



僕はその後公爵に奴隷商のことを話すと、公爵は兵を差し向ける準備をし始めた。


僕は奴隷商の裏に居るシロに念話を送る。

「動きはないか?」

と。「変化はない」と念話が返ってくる。


シロの場所に転移する。

それから再度店に侵入すると、重要な書類を探すことにする。

最上階に上がり奥の部屋に向かう、話し声が聞こえる。

「なんだと、教会の連中が兵に引き立てられていたと。」

「直ぐにあの方に連絡を入れておきなさい。」

と言われた男が部屋から出て、どこかに向かった。」

僕はシロに男の後をつけるように念話で指示する。


男が部屋を出るタイミングで、中に入り込むと家探しし始める。

魔法で隠し金庫などを見つけると中の書類を収納して、扉を元に戻すとシロを探しに外に出る。

飛行魔法で空に舞い上がると、シロに念話で呼びかける。

反応のある方向に移動するとさるお屋敷の裏にいた。

そこに降りると中に侵入する。


ここに駆けつけた男が使用人に話しかけているところだった。

「ご当主様に伝言をお願いします。木の実が猿に取られました、取り戻しをお願いします。」

と隠語を言うと直ぐに屋敷を後にした。


言付けを受けた男は、そこから屋敷の奥に向かうと。

家宰のような人物に伝言を伝えて仕事場に戻って行った。

家宰のような人物はそれから、移動すると柄の悪そうな男がいる部屋に向かうと

「また木の実がもがれたようだ。2度目はないと言っていたのに、手段は選ばない土に埋めてきなさい。」

と指示して金貨の入った袋を手渡した。


男たちが外の出るのを見ながら舌打ちをする男。

僕はシロに男たちの尾行を指示する。


男について屋敷の奥に向かう、男はある部屋の前でノックをすると

「ご当主様、セラムです。」

と言うと中に入って行った。それについて中に入る僕。

机に座り書類仕事をしていた男が、顔を上げずに

「何かあったか。」

と聞く。

「はい。しくじったようです。今手のものを始末に向かわせました。

暫く静かにしておく必要があるかと愚申します。」

と言うとセラムと言う男に

「問題ない。馬鹿な奴らに何もできはせん。しかしあの娘を取り戻されたのは勿体なかった。もう少し苦しむ顔が見たかったのに。」

と言うと

「いつも通り証拠は消しておけよ。」

と言うと仕事に戻った、セラムは黙って頭を下げると部屋を出て行った。

僕は暫く男の様子を見ていた後、公爵邸に転移した。


公爵邸に戻った僕はそこにクロニアル子爵とその父である侯爵も来ていた。

「いつ来たんだ?」

僕が声をかけると

「1時間ほど前さ、密かに来たんだよ。君のコートを使って。」

と認識阻害のコートを見せた。


僕はシロに念話で現在位置を知るために周りの見えるものを聞いた。

それによると男たちは、犯罪者が捕らえられている牢を確認した後近くに屋敷に入ったようだ。


僕はシロのそのまま見張るように指示する。



僕は公爵らにこれまでのことを説明しながら、回収した書類を取り出して見せる。

「しかしあの方が・・信じられぬが先程の会話で、腹は決まった。」

と言う公爵からは怒りが見えた。


「犯罪者らを始末するようです。すでに近くに集まっています。今夜にでも襲うかと思いますが、対応はどうします。」

と尋ねると、クロニアル子爵が

「それは僕にやらせてください。」

と普段以上の雰囲気に疑問を感じたが、僕は頷く。


「エスト、奴隷商人を捕らえてきてくれるか。商人を揃えておきたい。」

と言うお父様に了承すると僕は、また奴隷商の裏に転移する。

その後店に入り込むと、奴隷商人を見つけ雷撃で気を失わせると転移で戻り、地下牢に押し込んできた。



ーー  大捕物と裏切り者。



兵を隠密裡に配置すると僕らはそれぞれの場所に分かれて、大捕物に向かった。



クロニアル子爵。


僕は今日ほど怒りに震えたことはなかった。

ルシリーア嬢が攫われ、その黒幕が・・。

絶対許さない。怒りの先を悪人に向けることで怒りを抑えるつもりだ。

「僕のルシリーアを・・許さぬ。」

心の声が漏れていたこともわからず、僕は悪党に潜む屋敷を見張っていた。




セガール公爵。


娘が攫われた時はひどく動揺したが、まさか裏であの男が動いていたとは。

これは国家規模の裏切りだ。

許さぬ、しかしクロニアル子爵が娘のことを・・これが終わったらあいつと話し合おう。



僕は、黒幕の屋敷の上空にいた。

この屋敷にも悪い事の証拠が隠されている気がしたからだ。

魔法で探索を実施すると、地下道がるのに気づいた。

それは近くの林の中の屋敷の地下に通じていた。

その屋敷に近づく、多くの見張りがいるようだ。

3階の部屋の窓が空いていた。

そこから室内に侵入して、屋敷内を見て回る。


3階から2階そして1階と見て回るがそれらしき物は見つからない。

それにしては見張りが多すぎる。

地下に向かうと丈夫な扉が行くてを塞いでいた。

「どうするか」

壊すのは簡単だが、まだバレるわけにはいかない。

扉の前に転移ポイントを指定して外の出る僕。

シロを呼び寄せる、白は僕の居場所が分かるようで直ぐにやってきた。

お礼のお肉を食べさせながら作戦を考える。


「土魔法で通路の横からに侵入するか。」

と作戦が決まると僕は

「シロ行くぞ」

と声かけて、屋敷の側の藪から地面に穴を掘り進めながら地下の通路に穴を開ける。

流石に地下を掘ってくると思っていなかったのか、警戒されていなかった。


中に入ると開けた穴を塞いでおく。

認識阻害のコートを着た後シロ用のコートを着せる。

地下は、2階分で4部屋ずつの8部屋があり、一つが金庫室。

あとは地下牢のような施設だった。

そこにいたのは、我が国では禁止されている違法奴隷のエルフの子供達だった。

その数10人、全ての子供を牢から出して転移魔法で公爵家邸に連れて行って。

ルシリーア嬢に保護を頼んだ。



ーー それぞれの戦い。


クロニアル子爵。


夜になって動きがあった。

20人ほどの男たちが牢に向かって動き出した。


そして牢に推し入ろうとした所で、男たちを魔法で後ろから攻撃し始めた。

ダンジョンを踏破したメンバーの不意打ち魔法攻撃を誰が防げようか。

攻撃を受けた男たちは1人残らず取り押さえられた、そして牢の犯罪者たちは自分達が助けられるのではなく殺される予定だったと知り、態度を急変させた。


セガール公爵。


屋敷を取り囲んだ、準備は終わった。

既に国王には報告済みだ。


先程、娘から新たに違法奴隷のエルフ10人が保護されたことが分かった。

もう言い逃れることはできない。

そこに、ケンドール公爵の兵が合流し作戦開始だ。


扉を叩き壊して、屋敷に突入する。

相手がいることは確認済みだ。


そして屋敷の中に雪崩れ込むように突入するが、見つからない。

「絶対いるはずだ、探し出せ。」

と私は部下に指示する。


その頃黒幕は、秘密の地下道を通りあの屋敷に逃げていた。

「くそー。なぜ奴らが・・まあいい。この国もこれでおさらばじゃ。」

と言いながら思い扉を開けて地下空間に逃げ込むとしっかりと扉を閉めた。

「何人か連れて行くか。」

と言いながら女たちのいる地下牢を開けると、そこには少年と犬が。

「ん!お前は・・エストニアか。ここで何をしている?エルフはどこだ?」

と言う男に

「既に保護済みだ。お前もこれで終わりだ。」

と言うと

「わしをみくぶるな小僧、これでも喰らえ」

と魔道具の攻撃魔法を打ち出した。

しかしいかに攻撃しようが、エストニアの防御魔法を破ることはできず。

反対に雷撃を受けて呆気なく取り押さえられた。



ーー  悪党の末路。


今回の事件の黒幕については、セガール王国は絶対に外に出せない話だった。


よって闇から闇に処分されることになり、国王自らの目前で処刑がされた。

世間には盗賊が押し入ってその手にかかって亡くなったと言うことになった。


商人も厳しい取り調べの後、処刑された。

犯罪者たちも素直に協力者などの情報を喋り、芋づる式に大量の犯罪者が処分されたのだった。



ーー 保護された少女たち。



公爵家に保護された少女たちは合計で20人になりその内でエルフは11人。

獣人が1名だった。

すると獣人と一緒に保護されたエルフの少女が

「お願いがあります。あの方の元で生きることを許してください。」

とルシリーア嬢に頼み込んだようだ。

「あの方とは・・エストニア伯爵の。貴方達を助けた少年のこと?」

と聞き返すと

「そうです。エストニア様と言われるのですね。使徒様は。」

と手を合わせて喜びを表す2人だった。


「使徒様?」

確かに言い得て妙ね。


それ以外のエルフはエルフの国に送り返されて、それ以外の少女らもおら元に帰された。



ーー ルシリーア  side



私は学友と買い物に出掛けて男達に襲われて攫われてしまいました。

あれ程努力をしていたのに、いざ悪意を持った男達に襲われると。

身体が・・固まったように動かなかった。

「悔しい」思わず呟いていた。

そんな時にエストニア伯爵が現れ、私たちを助けてくれた。

でも残念なことに、私の存在などその目にはその他大勢の少女の1人にしか見えてないようだった。


そしてお父様がクロニアル子爵様のことを聞いてきた。

あの方も今回私の救出や捕物にご活躍だったと聞いている。

とても静かで品のある方、太陽と月のような2人。

どちらも素敵な殿方です。


お父様の話では、クロニアル子爵様が私の事を気に入られていると伺った。

素敵なお話です。

ちょっぴり残念な思いもありますが、これもご縁です。


でもあの子らが言った言葉が引っかかりますわ。




ーー 2人の少女。


セガール公爵家からケンドール公爵の屋敷に保護されることになった、エルフと獣人の少女。

・エルフ〜 シルエイティ 15歳

・獣人 〜 サンチェ 8歳

は、同じ日に攫われて同じ日に女神から天啓を受けていた。

「貴方達の一族の運命は彼にかかっています。真摯に仕えて助けを頂けるようにしなさい。」

と天啓を受け、2人でそれを待っていたのだった。


そしてあの時2人は感じていた。特別な存在の気配を。

するとあの方が突然姿を現し、私たちを助けてくれたのです。

その上、神の魔法転移魔法を使われた。

この人が女神に教えてくださった人だと確信しました。


2人で保護してくれた少女に

「私たちはあの方の元で生きていきたいのです。どうかあの方の元に送ってください。」

と頼みまくりました。

後から同じエルフの同胞が保護されましたが私の話に

「私たちの将来を頼みます。」

とお願いされました。


今私たちは、あの方のお母様と言う方にお会いしています。

とても若くて美しい方です。

「分かりました。貴方達をエストの専属侍女として雇いましょう。しっかり働くのですよ。」

とおそばにいることを許していただきました。


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