第7話 学園行事 行軍
ーー 学園生活 2
領地対抗戦が終わってクラスが落ち着いた頃に、担任の教師から
「もう直ぐ学園行事である、行軍授業があります。」
と言いながらプリントを配りながら説明を始めた。
[行軍とは、セガール王国貴族としての義務と言える緊急事態時の軍務の予行練習である。子供の頃から団体行動や指揮命令の訓練を目的とすもので。
2泊3日の夜営を伴う訓練である。]
「今から班決めを行います。1チーム5人です、できたチームからメンバーを書いた書類を提出してください。」
と言う教師。
僕らはケンドール寮のチームで組んだ。
「出発は5日後です。集合に遅れないようにチームリーダーは班員をまとめてくださいね。」
と言うと教師は教場を後にした。
「今度の休みに必要なものを買いに行こうよ。」
僕は皆にそう声をかけると、
「兄から過去の行軍時に必要だったものを聞いてきますね。」
とミリア嬢が言うと
「僕も兄から聞いておきます。」
とマッケンジー君も言ってくれたので、準備はそれを聞いてからと言うことになった。
この行軍が終われば白の休みに入る。
休みには何しようかなと漠然と思いながら僕は、新しい料理のレシピをノートに書いていた。
◇
行軍前の休日。
「エスト様、兄から聞いた持っていきたい品です。」
と言いながらメモを手渡すミリア嬢。
先程マッケンジー君にもらったメモと比べながら必要なものを書き出していく。
「これで全部かな。」
と言いながら僕は必要と思われる物を皆に見せながら、買い出しの手配をする。
「女性は3人でこれらを購入してください。できれば僕宛に配達をお願いします。」
と言いながらおよそのお金を手渡す。
「こちらは僕とマッケンジー君で購入しよう。」
と言うと「了解」と答えてくれた。
二手に分かれ寮を出る。
◇
王都の商会街。
流石王都の商会街だけのことはある。
手に入らない商品はないと大見えを切るほどの品揃えだ。
僕が探しているのは、コンパスを作るための材料と防水性の生地だ。
天気次第では寒さや雨、空腹や怪我を予防する為の道具を用意する必要がある。
雨や寒さは非常に厄介なものだ、この頃の天候では雨や寒さが予想されている。
防水性のカッパやテントを用意することは大切だろう。
数件の商会を回ったが、いい商品がなかった。そこで自分で用意することにした。
素材は青いスライムの体液と魔蜘蛛の糸で編んだ布地だ。
◇
学園の研究室を借りて物作りを始める。
スライムと言う魔物はとても有用で色違いでその性質が変わる。
青いスライムの体液は熱を加えて沸騰させると糊のような状態に変わるので、それを布地に塗りつけて魔力を通すと柔軟性のある防水性の層に変わる。
靴を覆う防水カバーや手袋を作り、物を入れる袋状のものも幾つか作っておく。
基本的にはものは収納魔法で運ぶ予定だが一部は魔法袋に入れておこう。
テントは2人用と4人用さらに8人用を作って収納しておく。
当然防寒対策のためマットレス用の簡易台座や寝袋用寝具にストーブも用意しておく。
魔物避けの品物をいくつか購入したが、効果については不確かだったので結界発生魔道具を作って持っていくことにした。
食事は基本収納のものを食べるが、行軍ようの行軍食も改良して持っていこう。
ーー 行軍と迷子
学園から馬車に分かれて乗車して王都のはずれの森についた。
「ここから行軍のための地図を配ります。各班のリーダーは取りに来てください。」
引率の先生が地図を振りながら話しかける。
「地図をもらったら出発してください。目的地には人が居ますからわかると思います。」
と言ってサッサとどこかに離れていった。
各チームが各々地図を見ながら出発する中僕は、皆を集めて袋を配った。
「これは魔法の収納袋です。背中にからうこともできるようになっています。持ち物をこれに入れて身軽な状態で向かいましょう。」
と言いながらそれぞれのサイズに合わせて作った靴と手袋にカッパやテントに非常食を配布します。
「これはコンパスと言って同じ方向を常に指すような道具です。これは応援を呼ぶ際に紐を引けば狼煙と音がする道具です。」
と、説明して配る。
虫除けのスプレーや水や火を作り出す魔道具も配布すると、マッケンジー君が
「エスト様。これだけの装備は王国軍も持っていないと思いますが。」
と言うので僕が
「持っていないなら用意すべきだと思いませんか?その効果を今回の行軍で試すのです。十分使い尽くしてくださいね。他にも既に魔法袋に入れているものもあります、内容物はこの冊子に書いておきましたのでテントを張る際に確認してください。」
と言って出発した。
◇
2時間後。
森の中を進んでいると雨が降り始めた。
「みんな、カッパを着込んで靴や手袋も防水カバーを付けてください。」
と僕は指示した。
「まだ小降りですがもうカッパを着込むのですか?」
と言うセリーナに僕は
「雨や寒さを軽く見てはいけません。これから気温が急に下がり始め、体が動けなくなる生徒もで始めるでしょう。」
と僕は説明したが理解まではできていないようだ。
4時間後。
先行していた、別の班が動けなくなった班員を囲んで相談をしているのを3班ほど見かけた。
それぞれの雨に濡れた格好で歩いていたようだ。
「ここの辺りで夜営をしよう。」
と僕は提案する。
「まだ明るいのでもう少し進みませんか?」
とマッケンジー君が意見を言うそれに対して
「マッケンジー君は、テントを張って食事の準備をするのにどの程度時間が入りますか?」
と言うとマッケンジー君はしばらく考えて
「経験したことがないのでよくわかりませんが、30分くらいでしょうか。」
と答えたので僕は
「それではみんなで競争してみましょう。」
と言いながら野営の準備を始めた。
結果は僕は30分程度で全て準備を終えたが、それ以外は1時間経ってもうまく準備が出来ないため、手伝ってやった。
「エスト様、僕が軽く考えておりました。ここまで時間がかかるとは・・あの時間に準備を始めて正解です。」
と反省を口した。
◇
食事の準備は雨のため、僕の収納の料理を大型のテント内で食べることになった。
「このテントすごいですね、テーブルや椅子も有り水も十分に飲めるなんて。」
レリーナが感心しながら話すとミリヤも頷く。
「このような天気の際は火を焚くのも難しくなります、すると冷えた体はなかなか温まらず。体力が失われていきます。水も飲まなければいけません。後2日もあるのですから無理をするのではなく、体力を温存することを考えましょう。」
その後ストーブを出して暖を取り始めると、皆疲れからうとうとし始めたので。見張りの順番を決めて休むことにした。
僕は結界を張る魔道具を四隅に置き稼働させて安全を確保すると
「食事をした大型テントに見張りをする者がいてください。交代時には次の人を起こしてください。」
と僕とミリアが最初に見張りについた。
「エスト様、先程テントの中に寝袋と書かれた寝具を置いたのですがあれは中に潜り込むものなのですか?」
と聞いてきたので
「その通りです。寒さは大敵ですので隙間のない寝具という意味であのような形です。かなり暖かいと思いますよ。」
と答えながら、ホットミルクを差し出した。
「あったかくて美味しいですね。」
と言いながらミリアは飲んでいた。
◇
交代が行われ、朝方僕は2度目の見張りに起こされた。
「申し訳ないですが、時間です。」
とマッケンジー君に起こされた僕は「問題ない」と答えながら起き出した。
今度の相方はセリーナだ。
「よく眠れたですか?」
と聞くと
「はい。疲れと温かい寝具でぐっすりでした。」
と答えたセリーナにホットミルクをを差し出す。
朝日が昇るのを待っていると結界の反応があった。
反応の場所見るとそこには大きな熊の魔物が来ていた。
「あれはフオーハンドベアーではないですか!」
魔物に詳しいセリーナが、驚きながら声に出す。
その声に気づいた魔物は激しく結界を壊そうと叩いていた。
魔道具から警報音が鳴る。
慌てて起き出し班員たち。
「何がありました?この音はなんですか?」
と聞くマッケンジー君に
「あそこに魔物のクマが来ているのです。」
と指差す僕の先を見た皆は、驚きのあまり声が出ないようだ。
このクラスの魔物は普通僕らみたいな学生ではとても太刀打ちできないレベルの魔物で、事前に駆逐をしているはずの魔物だ。
「不味いですね。熊の手や口に血が見えます。被害が出た可能性があります。」
と言う僕にセリーナは
「あの結界は大丈夫なんですか?」
と聞くので「問題ない」と答えておいた。
僕は魔力を練り上げると
「ライジン」
と呟く、雷系の攻撃魔法だ。
落雷のような光と音が、静まり返った後には燻る魔物の死体があるのみ。
「凄い」
マッケンジー君の呟きが大きく聞こえた。
日が昇り朝食を済ませた僕らはテントを収納して、地図を見ながら目的地を目指した。
魔物はその際に収納しておきました。
◇
3時間後。
小休憩を入れる。
「甘い物が欲しくないですか?」
と言いながら僕は甘いドーナツを配った。
「昨日の魔物は他にもいたのでしょうか?」
マッケンジー君が心配そうに尋ねる。
「確信はないけど、可能性はあるね。今日も周囲を警戒しながら進もう。」
と注意をした。
さらに2時間後。
昼食を取ることにした。
大型のテントのみを張り、周囲に結界の魔道具を置いて食事の準備をする。
今日の天気もぐずついている。片付けを始めた頃に雨が降り出した。
「テントの中で着替えよう。体を冷やさないように。」
と注意して行軍の再開だ。
ぬかるんだ道を苦労しながら進み3時間後に野営の準備を始める。
今回は早すぎるのではと言う意見は出なかった。
雨は激しさを増している。
僕が野営地に決めた場所は少し高台にある開けた場所だ。少しばかり水が出ても大丈夫と判断したが、用心して土魔法で2m程嵩上げした土台の上にテントを張っていった。
「かなり高い位置にテントを張ったんですね。」
マッケンジー君が興味を持ったようだ。
「かなり雨が激しそうなので、ひょっとすると川が氾濫する可能性を考慮したんだよ。この地図を見ると現在地がこの辺りなので、この川が氾濫したらこの近くまで水が来る可能性があるんだ。」
と説明したが理解まではできないようだ。
夜半に危惧していたことが起こった。
激しい雨は止むことなく、近くの川を氾濫っせたのだ。テントの周囲50mほどの範囲以外は濁流が流れるほどの危険な状況だ。
「他のみんなは大丈夫なんでしょうか?」
心配になったレリーナが聞いてきた。
「うんーん。正直わからないね。引率の先生たちが対応できていればいいですが。でもこの経験は貴重ですよ。よく覚えていてくださいね。」
と僕は努めて明るく答えた。
次の日も雨が止まず足止めされていた僕らは、せめて食事でもと思い。
「これは今王都で評判のレストランのランチです。」
と言いながらテーブルに所狭しと湯気を上げる食事を並べて、食べ始める。
みんな心配事を忘れたように食事を摂った。
僕はここで俯瞰の魔法を使い周囲の様子を窺った。
森の大半が濁流に覆われていた、出発した場所と目的地と思われる場所にも水が覆い生徒や教師の姿も見えない。
少しばかりおかしいと思いながらも水が引くまで待つことにした。
◇
次に日の昼ごろ。
朝から雨が上がり少しずつ引いていた水がすっかり見えなくなった。
「みんなに相談だけど、このままここに止まるかそれとも目的地に向かうかと言うことだ。」
と僕が言うと
「私はここで助けを待つべきだと思います。」
「私は戻りべきかと。」
「僕は目的地に進むべきだと思います。」
「私は・・判断がつきません。」
みんなバラバラな意見だ、そこで僕は先程俯瞰した結果を教えた。
・目的地には人はいないようだが、何か物が置かれている。
・出発した場所はまだ水が引いていない。
・周囲には人の姿はない
と言うことで、僕は
「戻ることは今できないが目的地にはいけそうなので、取り敢えずそこに行って待つことにしよう。」
と提案し出発することになった。
◇
3時間後。
目的地に着いた。
テントがありそこにテーブルと非常初期が置かれていたようだが、動物か何かに食い荒らされていた。
「到着者はこれを持って帰ること。と書かれたカードがあるね。」
と言いながらそれを収納した僕らは、その場所でテントを張って休憩することにした。
助けが来たのはその次の日の昼頃であった。
◇
学園に帰り着いた僕らに、行軍の責任者である引率の教師はこう言った。
「今回の行軍は最悪な事態の連続であった。最後まで目的地に着いた班は君達だけだ。残りは寒さや魔物の被害で脱落し、残った者も大水で行軍を断念していた。」
と語り、死者すらも出たと言っていた。
その後この行軍は「死の行軍」と言われて語り継がれた。
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