第3話 高校2年 新学期

 今日から高校2年の新学期…


 いつもの様に朝、起きて顔を洗い朝食を摂り、母にご馳走様と行ってきますを告げて玄関に…


 家を出ると制服姿の相坂凪沙が待っていてくれた。

「おはようナギ

 終業式前のいつもの凪沙が笑顔で立っていた。

「うん〜おはようアッキー

 そう言って俺の横について歩き出す。


「今日から2年生か…同じクラスになれると良いね」

「あ…あ、そうだな」

「何か元気ないね…昨日は寝れなかったの?」

「いや…その…まあそうだな」

「何か悩みがあるなら聞くよ〜お姉さんに話してみなさい。」

 と言って俺の腕に絡みつく…

 以前の幼馴染の間柄では無かった行動だ…

(この距離感…今、本当に幸せだな…)


 チクリ…

(う…)


「…いや何でもないよ…ってか誰がお姉さんだよ。」

 そう言って頭に軽く手刀を食らわす

 チョンと…


「暁が暴力を振るったよ〜悲しいな」

 と戯けてみせた。

「凪は変わらないな」


「え〜変わったよ」

 ギュウと絡んだ腕に力を込めてくる…小さくない胸が俺の腕に温もりを与えてくれる。

(良かった…俺の選択は間違ってなかったんだな)


 チクリ…

(えっ…この感覚は…)




 そのまま雑談しながら学校に着いた俺達は絡んだ腕を外して、掲示板でクラス表を確認後、別れてそれぞれのクラスへ向かう。同じクラスになれず悲しそうに下駄箱で駄々を捏ねる凪沙を宥めるのに時間がかかったのは言うまでもない…


 席は出席番号順だったので指定された席に座りスマホをいじっていると…

「よう〜暁人、今年1年もよろしくな」

 1年の時から知り合って仲良くしてる友達の遠藤真樹えんどう まきが声をかけてくれた。彼は俺と同じクラスになったようで正直助かった気がする。

「ああ〜よろしくな…あと春休みの時はありがとうな」

「おう〜ってさっき見たぞ…相坂さんと仲直りしたのか?」

「うん…まあ何とかな…」


「お前が春休みの時に深刻な声で電話きた時は本当心配したんだぜ」

「本当、持つべきは大切な友達だよな」

 真樹には春休みの早い段階で凪沙に告白して返事が貰えなかった為、相談に乗ってくれた経緯がある。


「で…元鞘なのか?あれって…前より仲いい感じじゃん。」

「あ…それは…」

 スピーカーからチャイムが鳴った…数分後には先生が来るだろうからさっきまで駄弁っていたクラスメイト達は席に戻り始めていた。


「まあいいや〜また後でな」

 そう言って真樹は後ろ髪を惹かれるように自分の席に帰っていった。

「おう…またな」

 俺は軽く手をあげて挨拶して真樹を見送った。


 今日は授業も無く新しいクラス委員や係を決め早々に終わった。


 スマホにメッセが着ていて

 凪沙『一緒に帰ろう~♡』


 俺は真樹に別れを告げて凪沙の元に行く…俺はB組で凪沙のクラスはD組。


 凪沙のクラスの前の廊下で待ちながらスマホで『廊下にいるよ』と送り待つ事に…


 それから2分後、鞄を持った凪沙が出てきた。

「ごめん~待った?」

「いや全然待たないよ」

「じゃーいこうか」

「そのまま帰りに昼飯食って帰らないか?」

「暁人の奢りなら良いよ」

「ああそれぐらい問題ないよ~何食べる?ファミレス?」

「今日はマックな気分」

「そっちか凪沙は好きだな~マック」

「うん~好きだよ…暁人と行くのも好き」

(全く可愛いヤツ)


 チクリ…

(あ…くそ…何で…)



 ん?あれ…


 何かD組の引き戸の窓か?俺を見る視線を感じる…男か?


「今日は…何かあった?新しいクラスで…なんか誘われたりした?」

 階段を下りて下駄箱で聞いてみた。

「あ~なんかカラオケ行かないって誘われたけどね…暁人と帰りたかったから断ったよ。」

「そうか…(さっきの目は断られた連中辺りかな~)」



 校門を出ると、凪沙は自然に俺の腕に絡んで嬉しそうにニコニコしている。

「暁~昼飯食べたら一回家帰って、そっちの家に遊び行っても良いかな?」

「ああ~良いぜ」

 凪沙はより強い力で腕に絡んで喜んでいるように見える…


 チクリ…

(くっ…なんでだ…何が一体…)




 どうやら暗示は上手く機能しているようだが…


 しかし、いつまでこの効果が続くのか?


 そのまま一生、解けないままなのか?


 そして…もし解けた時…俺は凪沙から嫌われるのだろうか?


 色々な不安が心に楔になって突き刺さってくる…


 チクリ…チクリと少しずつ刺さっていく…


 

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