第4話 幼馴染と偽の恋人…
4月3日 午後4時16分頃
『いいかい…凪沙…今から手を3回、叩いたら目が覚める。』
『…そして学校では俺…鳴宮暁人とは幼馴染のままの関係で…それ以外の場所では俺の彼女になるんだ…いいね…凪沙…』
パン!
パン!
パン!
凪沙は虚ろな目からはっきりとした目の動きとなり俺の顔を凝視する。
『凪沙?…』
『…あ…あれ?…暁人…暁…アッキー…あれ私…暁の部屋で何してんだろう?』
『おはよう…目が覚めたか…凪…』
『うん…』
まだ少しボーとした凪沙の肩を両手で優しく掴んで…
『凪沙…質問があるんだが良いかい?』
『何?』
『俺は凪沙とどんな関係だろう?』
『え~決まってるよ…おさな…じゃなくて…恋人…』
『ああ~そうだな…凪…好きだよ。』
『うん…私も暁、大好きだよ。』
そういって俺を抱き締めてくれる凪沙…
『でも学校では恋人ではなくて幼馴染のままの関係で良いかい?』
『う…うん…』
『それとも…いや…凪よろしくな。』
『うん』
そして俺と凪沙は偽りの恋人として付き合う事になる。
制限は俺が解除するか…効果が切れるまで…
本によると暗示や条件付けは何かの拍子に解ける場合があると…外的ショック、内的ショックなど様々な要因で起こりうると…
そう…
催眠術にかかってる対象はヒビが入った瓶みたいなものだと書かれていた。
そんな偽の恋人となって3日が経つ…
学校では幼馴染の関係時の距離感で、学校外では俺の恋人として腕に絡んだり恋人繋ぎして一緒に歩いたり…
俺は本来なら喜ぶべき事なのだが…凪沙と一緒に過ごして好きになれば、なるほど俺の心にチクリと楔が入り不安もどんどん増えていく…
もしあの時、解除していたら凪沙は怒っただろうか?
それとも…仲直りできていたのだろうか?
そう思うとキスをしたいと思っても、いや多分キス…以上の事をしたら俺の心は砕けて元に戻らなくなるのでは?と罪悪感が日増しに増えていく…
しかしそれでも凪沙とただ一緒に過ごす時間だけが俺にとってはかけがえのないものだと更に心が充足する。
今はそんなシーソーのような右に左にバランスをとっている危険な状態…
4日目…朝食を食べている時に凪沙から『今日日直だから先に行くね』と連絡があり…俺は久しぶりに1人で登校している。
学校の正門を通り下駄箱へ移動中に…
「鳴宮だったか…」
と肩を掴まれる。
見ると同学年の知らない男子が俺の肩を掴む…
「ん…誰?」
「D組の百田って言うんだが…ちょっと話があるんだがいいか?」
「D組?…凪沙のクラスの…」
俺はスマホで時計を見ると…
「5分ぐらいなら話は聞けるけど?」
「…そこの建物の影でいいか?」
「ああ」
俺は百田と言う奴の後について影に入った。
百田は見た目、陽キャな派手な印象を持つ男子…多分モテるタイプだろうことは分かるが…俺に何の用だろうか?
「単刀直入に聞くが鳴宮は相坂さんと、どういう関係だ?名前呼びしてると言う事は親しい関係だろうが…どうなんだ?」
「…俺と凪沙…相坂凪沙とは幼馴染なんだが…それが何?」
「幼馴染ね…俺は相坂さんに告白するつもりなんだが、付き合うようになったら気安く凪沙なんて名前で声をかけるなよ。」
「はあ?(こいつ付き合ってもいないうちからコレかよ)…あのさあ~そういうのは付き合ってから言えよな…程度が知れるぞ?」
「なんだと!てめえ何様のつもりだ?」
「いやいや~そっちこそ何様だよ」
「俺が告白して振られる訳ないだろう!てめえみたいな陰キャが生言ってんっじゃねーぞ!」
「…(スゲーなこいつ)ああ分かった分かった…お前が凪沙と付き合うんだったら縁切ればいいんだろう?」
「ちっ!そういう事だ…いいな~分かったか!」
そういって去っていった。俺はそれを呆然としながらほんの少し佇むと気を取り直して歩き出す…
「…(凪沙がお前みたいな奴に惚れるわけないだろう………って~あ?!)」
(俺と凪沙は学校内では幼馴染のままだった…いや流石に凪沙も分かって…いや~まさか)
俺は途端に自分の思い込みが全然、根拠となってない事を自覚した…確かに学校外では恋人だが学校内は幼馴染だということ。
もしかしたら凪沙がOKする可能性を否定できない。
偽の恋人なことを初めてより痛感することになった…
(凪沙に連絡する…いやそれは…しかし…真樹に相談…いや…)
まさか学校内で幼馴染ってのがこんなに不安になる事とは…
俺は単にカップルになって、学校内で目立ちたくなかっただけでそういう縛りにしたのに…
言い知れぬ不安だけがその時の俺を支配する。
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