第2話 メッセージと容疑者

「え? これだけ?」

 私は、あまりの情報量の少なさ、いいや、ヒントの少なさに驚いた。

「そうだよ。だって『ダイイングメッセージ』が犯人を指しているんだから、他に情報はいらねえもん。あ、それから、伊沙子が言ったみたいに犯人はそのメッセージに細工していないからな」

 ダイイングメッセージは一行だけ。

 その下には、容疑者の名前が四人書かれている。


 ダイイングメッセージ「私が見たのは棒かバットか?」

 容疑者

 ・大家弘樹おおやひろき

 ・出岡浩司いずおかこうじ

 ・寺田直美てらだなおみ

 ・一本木坊いっぽんぎぼう


 駄目だ。全く分からない。何をどう見ていいか、掴みどころもない。

「はい、一分経過ね。そろそろギブアップする?」

「しない! まだもらったばっかじゃん!」

 まったく頭にくる。

 私はメッセージを繰り返し眺めた。

 私が見たのは棒かバットか?

 ヒントは他にない。

 容疑者は名前だけ。性別も、職業も、年齢も何もない。

 つまり、ダイイングメッセージは、名前そのものを表しているのだ。

 唯一分かったのは、一本木坊は、あり得ない。ひっかけだ。こんな単純な答えじゃないはず。すると、残りは三人。

 どちらに着目するべきなのだろう? ダイイングメッセージか、容疑者の名前か。

 ニタニタと笑う祥平が視界に入らないように、私は机に置いたノートに顔を近づけている。

「伊沙子ちゃーん、そんなに目を近づけたら、目が悪くなっちゃうよー」

 ああ、うっとうしい。無視だ、無視。

 私は、まず徹底的にダイイングメッセージを解剖することにした。


 ・私が見たのは棒かバットか?

 ・わたしがみたのはぼうかばっとか?

 ・ワタシガミタノハボウカバットカ?


 ……うん、わかんない。

 仮名にしたら十五文字プラス「?」がひとつ。

 名前は六文字の人と、七文字の人。

 文字の並び替えとかじゃなさそう。

 なんだか直感的に「?」にそれなりの意味がありそうだけど……。

 ヒントは気分次第。でも、あまり出してもらうのは私のプライドがなあ。

 もうちょっと我慢するか。

 ???

 私の頭の中じゃないよ。

 ??????

 クエスチョンマーク。

 疑問形。

 疑問形?

 なんだか「私が見たのは棒かバットか?」って言葉が、英文を和訳した言葉に見えてきた。

 英語に書き換えたらいいのではないだろうか。なんて思ってはみたものの、英語で正しく書ける自信がない。でも、チャレンジ!


 Did I saw that was a bar or a bat?

 いや、これじゃあ、「私は見ましたか?」が先に来ちゃうな。順番が逆か。

 Was it a bar or a bat that I saw?

「うわあああ!」

 私が英文を書いた瞬間、祥平がびっくりして大声出すから、私はもっとびっくりした。

「もう! 驚かさないでよ!」

 と、いいながらも、心の中ではにんまり。これはいい線いってるっぽいぞ。

「びっくりしたあ、ホント、おしいなあ」

 ありゃ、おしいのか。ちょっとまだ英語に間違いがあるのかな?

 でも、英語にするってのは間違いないみたい。

「あ、もうあと一分四十秒ね」

「え? そんなに!」

 英語に頭使っちゃって、時間を忘れてた!

 ピンチだ、私!


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